漫才「怖い話」
二人「どうも~よろしくお願いします」
ボケ「最近暑いですね」
ツッコミ「夏ですからね」
ボケ「こういうときはこう、ピョッ! と涼しくなりたいじゃないですか」
ツッコミ「ピョッ! っていうのはわからんけど、涼しくはなりたいですね」
ボケ「やっぱり夏といえばですよ、こう、暗闇にロウソク立てて」
ツッコミ「お、いいね、こう、暗闇に、ふわっと灯りがね……雰囲気出てきましたよ」
ボケ「(手拍子しながら歌い出す)ハッピーバースデートゥーユー! ハッピーバースデートゥーユー!」
ツッコミ「わーい、ふーっ(ロウソクの火を吹き消すふり)違う!」
ボケ「まだ誕生日じゃありませんでした?」
ツッコミ「そこじゃなくて。あれでしょ、百物語ですよ」
ボケ「そう、それですそれ。怖い話、いいですよね」
ツッコミ「なんかちょうどいい怖い話あります?」
ボケ「あるある。鉄板のやつありますよ」
ツッコミ「お、じゃあちょっと聞かせてくださいな」
ボケ「いきますよ。……僕の子どもの頃の話なんですけど」
ツッコミ「(客席に向かって)おっと、実話系」
ボケ「夏休みに、テレビで怪談特集見てたんですよ。その日家族もみんな家にいなくて。ひとりで見てたわけです。恐怖に震えながら。それで、怪談特集もクライマックスにさしかかって……」
ツッコミ「おお……(怖がる)」
ボケ「急に音が小さくなったんですよ。これ演出なのかな、テレビ壊れたのかな、って不安になりながらリモコンを持って」
ツッコミ「(客席に向かって、余裕の表情で)……これあれですよ、たぶん音量調節しようとして画面にオンリョウって表示が出てきたってオチですよ」
ボケ「音大きくしようとしてボタン押した瞬間! ……ニュースが始まりました」
ツッコミ「……は?」
ボケ「僕ね、間違えて音量調節ボタンじゃなくてチャンネル送りボタン押してたんですよ!!」
ツッコミ「ただのドジッ子!」
ボケ「いやー、あれはビックリしたなあ」
ツッコミ「全然怖くないですよ」
ボケ「怖くなかったですか。じゃあアンタはどうなんですか。怖い話あるんですか」
ツッコミ「ありますよ。僕も実話系」
ボケ「じゃあお願いします」
ツッコミ「学生の頃だったかな、友達と肝試しに行ったんですよ。廃墟に」
ボケ「(驚いたように)廃墟!」
ツッコミ「懐中電灯持って。4、5人くらいでかたまって」
ボケ「(また驚いたように)4、5人くらいで!」
ツッコミ「……うん、それでまあ、出るって噂の部屋まで行ったんです。建物の2階の」
ボケ「(驚き、怖がりながら絶叫)建物の! 2階の!」
ツッコミ「うるさいわ! まだ全然怖いところじゃないんで! 静かに聞いてもらえます?」
ボケ「そうなの? ハイ。じゃあ続けて」
ツッコミ「まったく……。それでね、2階の奥の部屋を覗き込んで、懐中電灯でそーっと照らすと……。いたんですよ! 白い服着た女性が! もう怖くてね。生きてる人間にしろ幽霊にしろそんなところにそんな誰かいたらめちゃくちゃ怖いじゃないですか! みんな一目散に逃げ出しましてね、いやー本当にあれは怖かった」
ボケ「……その白い服の女性って、髪長いですか」
ツッコミ「長かったですね」
ボケ「爪は真っ赤で」
ツッコミ「ええ」
ボケ「目がギョロッとしてて」
ツッコミ「その通り」
ボケ「ああ……」
ツッコミ「え、なんですかその反応。怖くなかったですか、僕の話」
ボケ「いや、アンタの後ろに……その女性いるから……」
ツッコミ「えええええ!?(振り向いてキョロキョロする) どこ!? どこに!? 」
ボケ「後ろ! 後ろに!」
ツッコミ「やだ! 怖い怖い怖い!!」
大騒ぎしながらマイクの周りを走り回る二人
ボケがワーワー騒いでいる間に、ツッコミがマイクに近付いてくる
ツッコミ「(客席に向かって)なんて、嘘なんですけどね。白い服の女性じゃなくて、麦わら帽子のおっさんがいたんですよ、本当は。ちょっと雰囲気出すために盛ってみました」
ワーワー騒いでいたボケ、戻ってくる
ボケ「なんて、嘘なんですけどね~白い服の女性なんていませんでした~。ビックリした? 怖かった?」
ツッコミ「(ボケに調子を合わせて)もう、脅かさないでくださいよ~本当にいるのかと思った」
ボケ「あはは、うそうそ」
ツッコミ「まあ、怖い話もほどほどにということで」
ボケ「そうですね。いやー、ほんとすいません。本当は麦わら帽子のおじさんが立ってたんですけどね」
ツッコミ「えっ?」
ボケ「ありがとうございましたー」
ツッコミ「えっ?」
暗転
もしくはボケが腑に落ちない様子のツッコミを連れてはけていく