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女子高生流 ただしいゾンビの殺しかた  作者: 原案:首狩りうさぎ 執筆者:六角 橙
正しいゾンビの殺し方
8/18

女子高生が親友を繧呈ョコ縺励∪縺励◆❺

彼女は、()()()()()()()()




「ゾンビ映画で、あるでしょ。噛まれた人は、ゾンビになっちゃう。私、あれ、いま、すごくわかる」


「楓……?」


「からだが、あついの。どんどん、頭、かんがえるの、つらくなるの。お願い、おねがい、悠ちゃん……」


 楓の手が、震えながら包丁をとった。それを自分の胸に向けて、彼女は言う。


「わたしを、()()()()。ここから、てが、うごかないの……」


 見ると、楓の手が、ぴくとも動いていなかった。彼女の体は、殺されるのを嫌がっている。それも……彼女の意思とは、無関係なのだろう。

 だったら、なおさらだ。


「そんな、できるわけないよっ!」


 思わず、私はそう言った。

 楓は悲しそうに、首を横に振る。その眼もとに、ぷつぷつと、赤い血の涙が膨れ上がっていた。次第にそれは、白目を覆いつくしていく。


「おねがい、ゆう、ちゃん」


「だめだよ、楓、かえでっ!」


「おね、が……いっ、い、ぃいいいいぃぃいいい!!!」


 楓の背が、のけぞった。包丁がぼとりとその手から落ちて、そして。


「うそ、楓ちゃん。目が、真っ赤……うそ……」


 雪ちゃんが、震えた声で言う。あの夕暮れと同じように、楓はバケモノになっていた。

 まただ。また、私は、()()()()()()()()()()()()()

 自分が戸惑ったばっかりに、彼女の気持ちも全て……台無しにしてしまった。


「そんな……」


「ぁああぁああーーー!」


 声をあげた楓が、私に突撃してくる。思わずそれを受け止めようと、腕を広げた私を、楓が無視した。私にぶつかるように奥へ行った楓が、雪ちゃんに飛び掛かる!


「いやっ、いやぁあああ!」


 雪ちゃんの喉が、血を噴き上げる。楓の噛み千切った肉片が、床に落ちた。がつがつと、歯と骨がぶつかり合う。もう、一刻の猶予もない。


「っ、かえでぇえ──っ!!」


 楓が握っていた包丁、それを手にして、私は突撃した。楓の背中、心臓の裏を目掛け、全体重をかけて包丁を突き刺す。()()()、と、鈍い音がした。夢の中で、バケモノとなった楓は、頭が半分そげても動いていた。

 これだけじゃ、足りない。


(もしかして、頭を落とせば! ……)


 包丁を引き抜くと、血が吹き上がって、私の体を濡らした。間髪入れず、頭に包丁を突き刺す。そのまま、雪ちゃんから引きはがした。

 楓から流れ出る血の量がどんどん増えて、まるで水たまりのようになっていく。


「雪ちゃんっ! 逃げてっ!!」


 楓の首筋に、包丁を突き立てて、馬乗りになる。

 真っ赤な血の涙を流す楓に、私はもうこれしか方法がないのだと言い聞かせ、


「ごめんっ……!」


 と、謝りながら、体重をかける。ぎりぎり、ぎりぎりと、楓の骨に包丁が食い込んでいく。楓の体がバタバタと跳ねて、踊っているように床を叩いた。

 そして。

 がづんっ、と衝撃が手に伝わる。指先がじんじんと、痛む。床に、包丁が、くっついていた。ごろり、と落ちた楓の首。床一面の血の海の中で、楓の体は動かなくなっていた。


「……っ、雪ちゃん!」


 振り返ると、雪ちゃんは首をおさえながら、泣きそうな顔で笑っていた。


「ゆう、ちゃん。ごめん、つらいの、させちゃった」


 分かっていた。分かってしまった。彼女も、楓と、同じだ。

 もうじき、同じように、バケモノになる。


「さいごの、おねがい、()()()()()()?」


 震える声で言う雪ちゃんに、私は頷き、彼女の心臓に向け、包丁を握りなおす。彼女はそっと、目を閉じた。その目から……赤い、血の涙がこぼれていく。


「ありがと、ゆうちゃん」


 小さな声に、私はなにも言えなかった。震えて仕方がない手を、両手を、黙らせるように脇に力を籠める。殺すことへの恐怖より、悲しみより、何もかもより、絶望が上回っていた。

 たとえここで、雪ちゃんを殺したとしても……外の世界はきっと、あのままだ。


(それだけじゃない)


 きっと、私はまた、目を覚ます。夢だと信じた世界から、現実へと……目を覚ます。

 振り下ろした包丁が、雪ちゃんの制服を切り裂き、服を破り、柔らかな肋骨の隙間をかいくぐって、心臓に達する。どくん、どくん、とうごめく心臓が、次第に小さくゆっくり、止まっていく。

 ぐい、と、包丁をひねった。

 少しでも早く、雪ちゃんが楽になってほしかった。


(……ああ)


 3度目の血しぶきが、顔にかかる。

 そして引き抜いて、私は迷うことなく、切っ先を今度は自分の胸へ向けた。頭の中はなぜか、スッキリとしていた。死ぬしかない、そう思えたせいかもしれない。

 2人を殺した私は、もう生きている価値も、理由もないのだから。


「ごめんね」


 呟いて、迷わず私は胸へ包丁を突き立てた。

 楓の時とも、雪ちゃんの時とも、違う感触。()()()()()()()()、その感覚が腕へ伝わる。痛みはない、痛くない、2人に比べれば……断然、優しい。

 勝手に、意識が薄れていくからだ。まるで体が痛みを感じまいとするように、自然と頭から血が下がり、貧血の時のように目の前がぐるぐると回りだす。暗がりから、周辺へ、ちかちかと光が瞬いた。

 虹のように美しい光の乱舞を見上げながら、私は不思議な感覚に襲われていた。


 そうだ。あの時も、あの4月10日もそうだった。楓に食べられながら、私はこの感覚を……感じていた。


 雪ちゃんでもない、楓でもない、ここには私たち3人しかいないはず。だけど、もう1人の、いや、もっと大勢の、()()()()()()()()()


(あなたは、誰? ……)


 私の意識が、ぶつりと途切れた。


4月10日。私は、死んだ。


 死んだ。

 死んだ。

 死んだ。死んだ。死んだ。


「じゃあ、ここは!?」


 悲鳴を上げる。自宅のベッドの上に、私はいた。ベッドだ、ベッドの上だ。いつも寝て、何の問題もなく目覚めていた、あのベッドだ。アラームが鳴り響く。スマートフォンの、アラームが、部屋中に鳴っている。


「いやぁあああああっ!!」


 そのまま、スマートフォンを、私は壁へ叩きつけた。

 ぱりん、と音がして、スマートフォンは停止する。音も、ならない。静かに、なった。


「いや、いや、もういや、いやぁあああっ!!」


 目を閉じる。

 夢で良い、夢で構わない。この現実から逃げられるなら、夢を見たかった。

 その時だ。玄関の、チャイムが鳴り響いた。

 直感で思った。これは、きっと、楓たちだ。あの日のように、あの4月3日のように、私を迎えに来てくれたのだ。


「同じだ。同じだ、ああああぁああおなじだっ!!!」


 夢じゃない。夢にならない。


「眠れっ、ねむれ、ねむれねむれ!! いやぁああっ!」


 もう私は、限界だった。


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