女子高生が親友を繧呈ョコ縺励∪縺励◆❹
ケーキを食べる日常も、心配してくれる友人も、みんな生きているんだから。
「悠ちゃんは、このスフレチーズケーキとニューヨークチーズケーキだと、どっちが好き? 私はね、このニューヨークチーズケーキのコクがとても良いと思うの。風味付けに、何かベリー系のものが入っているのもポイントね」
マイペースに語る雪ちゃんに癒されながら、答えた。
「じゃあ雪ちゃんのケーキをちょこっともらおうかなぁ」
「うん、いいよー」
「ふんふん……うん。どっちも美味しい!」
「悠ちゃんたらぁ」
くすくすと笑い合う。
楓はすでに次のケーキを取りに行っていて、全種類完全制覇の意気込みが伝わってくるかのようだ。店内はムーディーなジャズがかかっていて、とても居心地が良い。
「ところで、悠ちゃんさぁ。最近なんで落ち込んでたの?」
「えっ? あー、あのね……なんかすごくリアルで悪い夢見ちゃってさぁ」
雪ちゃんが、顔をしかめる。楓が言った。
「それってよっぽどだよね? 本当に大丈夫?」
「平気! てか、夢の話なのに、すごく落ち込んでた私が馬鹿みたい」
「そんなことないよ! 悠ちゃん、いつも、クールで落ち着いているんだもん。そんな悠ちゃんが落ち込むような夢なんて、よっぽどだと思うよ」
二人の言葉に、思わず私は、
「うーん、そうかな?」
と、そっけない返事をしてしまった。本当はとても怖かったのに、本当はとても怯えていたのに、自分の弱さを逆に思い知らされた気分になった。
その時だ。
「……ねぇあの車、おかしくない?」
お店にいるお姉さんの言葉に、キーンと甲高い耳鳴りがし始める。
背中を走る悪寒に、私は思わず立ち上がった。二人が不思議そうな目を向けてくる。
(車……事故……まさか!!)
突然、爆音が聞こえた。散らばる破片、悲鳴に、軽自動車。制御不能になったようなありさまで、軽自動車が店に突っ込んできていた。店前の看板や植木鉢のおかげで中に乗り込んではいないが、ガラス戸が大きく割れてひしゃげている。
運転席の人は意識がないのかぐったりと、ハンドルへもたれかかっていた。
「おい、大丈夫か!?」
近づいた人が手を伸ばし、その人の肩に手をかけた直後。
「いぎぁああ!?」
血しぶきが、上がる。近づいた人の喉を、運転手の牙が切り裂く。
同じだ。
同じだ。
この光景を、この状況を、私は知っている。
「雪ちゃん、楓! 逃げるよ!!」
私の剣幕に、ここから離れた方が良いことは分かってくれたらしい。2人が、おずおずと頷いた。席を立つ2人を急かし、私は店の奥へと足を進める。他のお客さんたちもそれに習いだした。
「うわぁあ!」
「なに!? なんなのよ、あれ!!」
雪ちゃんの手を、私は積極的に引いた。
ややぽっちゃりとした彼女は、運動を苦手としている。
(守らなくちゃ……!)
街中はまだ混乱は薄いが、走る車の挙動が突然おかしくなったり、店内から逃げようとした人が、何者かに捕まったりしている。
ああ、間違いない。
夢と同じ、4月10日だ。
だとしたら、少なくとも、喫茶店の中に閉じこもれば少しは……道も開けるはず。
「店長さん! 厨房、キッチン、とにかく店の奥に入ってふさぎましょう!」
私は思わず、怒鳴るように言ってしまった。50歳くらいの白髪交じりの髪を持つ店長さんが、困惑したような顔で言う。
「いったいなんだ!? 急に、あんな事故が、それにあの人を助けないと!」
「っ、近づいちゃだめです!」
私の声も間に合わず、運転手と血しぶきをあげて倒れた人に掴まれた店長さんが、バケモノに顔を噛み千切られた。
「君たち、なにっぎゃあああああ!!」
悲鳴を上げた店長さんが、視界の向こうに消える。
そしてそれを皮切りに、窓の向こうから次々にバケモノが店内へ入り込んできた!
「えっ、嘘!?」
「いやぁあああ!」
悲鳴があたりへ散らばる。
私は居ても立っても居られなくなり、喫茶店の奥へ2人を押し込んだ。そして、机を立てかけ、他の椅子を机の前にどんどん並べる。他の人たちに指示を叫ぶ暇もなかったから、その人たちが次々と噛みつかれ、喉を切り裂かれ、血を噴き出すのを見ているしかなかった。
呆然としていた雪ちゃんと楓を振り返り、
「はやく! もっと店の奥に!!」
と、叫んだ。それでも固まっていた2人だけど、窓ガラスに突撃してきた目の赤い……血の涙を流すバケモノに、とうとう動き出した。椅子を積み重ね、出来るだけ突破に時間がかかるようにする。簡易的なバリケード、でも、それでも、ないよりましだ。
「……これくらいで、どうにかならないかな」
机を重ね、椅子を積み、棚を倒し、何重にもなったバリケードを見つめる。
お店のキッチンに近い場所で雪ちゃんはへたり込んで、楓は震えていた。何か声をかけようにも、急にたくさん動かした腕がじんじんと痛んで座り込みそうになるが、なんとかこらえた。
「悠、大丈夫?」
「うん、平気」
「外……凄い、悲鳴とか、聞こえてくる」
震える雪ちゃんと楓に、私は安心感を抱いていた。
だって、2人は、死んでいない。噛まれていない、バケモノにも……なっていない。
(夢の中と似たような感じが、する)
これも、夢かもしれない。
そんなことを、ふと思った。もし夢なら、目覚めれば良い。目覚めて、4月10日を過ぎていれば、きっと。きっと、みんなが生きている、何もない明日が来る。
(もし、死んでも、また……同じ日が、くるはず)
膝を抱えて、震えを押さえつける。その時だった。
窓ガラスが、割れる音がする。思わず顔をあげてそちらを見ると、バケモノたちが居た。無理やり体を押し込めているから、割れた窓に彼らの体が引っかかる。裂けた皮膚から血が滲み、臓器がこぼれる。何人向かってくるか、分からない。このままじゃ、バリケードが破られるのも、時間の問題だ。
「ひぃ!?」
悲鳴を上げた雪ちゃんが、座り込んだまま震えている。
「雪ちゃん、楓っ! 店の奥に!」
「わ、分かった!」
なんとか膝に喝を入れて、立ち上がる。雪ちゃんを立ち上がらせ、支えるようにして店の奥のドアを開けた。目を走らせるが、扉もなく、小さい窓が換気扇代わりにあるだけだ。人が通れるような隙間ではない、ここなら安全かもしれない。
一瞬安心した隙に、楓の悲鳴が聞こえた。
「楓!?」
振り返り、店の方を見る。
「悠ちゃん! 来ちゃダメ! ダメよ!」
楓の足に、バリケードを乗り越えたバケモノが食らいついていた。楓は半狂乱になって、泣きわめくような声をあげながら、バケモノの顔を噛まれていない方の足で蹴り飛ばす。
「うわああああっ! うわぁあああっ! あああああっ!」
バケモノの口が離れ、楓は震える足で立った。私は迷わずその腕を引っ張ると部屋に連れ込み、鍵をかけた。死に物狂いだったから気が付かなかったけど……店の奥にあったのは厨房だった。店長が使っていただろう包丁に、切ったばかりのイチゴが張り付いている。
「ううっ……」
うめき声をあげながら、楓が肩で大きく息をしている。
ふくらはぎから激しく出血していて、私はそこへ手を当てようとして、楓に止められた。
「だめ、ゆうちゃん、さわっちゃ、だめだよ」
彼女は、ゆっくりと笑った。