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女子高生流 ただしいゾンビの殺しかた  作者: 原案:首狩りうさぎ 執筆者:六角 橙
正しいゾンビの殺し方
6/18

女子高生が親友を繧呈ョコ縺励∪縺励◆❸

 天気の良い中庭には、意外と人が集まり始めている。せっかくのこの陽気なので、お花見をしながらお昼ご飯を食べようと考える人が、結構多いらしい。


「留美ちゃーん!」


 元気よく手を振る楓は、購買で買ったであろうイチゴのロールケーキ入りの袋を持っている。私の視線に気が付いたのか、雪ちゃんがくすくすと笑った。

 私がじっとりとした視線を向けると、楓は慌ててそっぽを向いて、ワザとらしく別方向を指さした。


「留美待ってるから早くいこっ!」


 雪ちゃんも私もそれ以上は言わずに、中庭へ出た。心地よい風が吹き抜けて、薄紅の桜が舞い散る。学校ができる以前からここにある桜で、切り倒すのも植え替えるのも忍びなかった当時の人たちが、そのまま中庭に残したそうだ。


「うわぁ、綺麗……!」


「ほんとうだね!」


 思わず声をあげる楓や雪ちゃんとは対照的に、私は何も言えなかった。

 記憶の中の出来事、夢の中の出来事でしかないけれど……私は死んだ。死んだのだ。だから。


(また桜が見られるなんて、思いもしなかったな)


 感慨深くそう思っていると、楓に手を引かれる。


「ほら、悠、いこう」


 留美が席を取っておいてくれたらしいベンチは、ちょうど桜の木を見渡せる場所だった。そこに4人で並んで座って、これからどうするかを話し合う。

 このまま近くのファミレスにランチに行くのも良いし、購買でお昼を買ってきてお花見に行くのもいい。私が考えていると、楓が言った。


「そうだ! ケーキバイキングいかない?」


「えっ、ケーキバイキング?」


 私が返すと、満面の笑みで、楓が言う。


「うん。駅前に喫茶店あるでしょ。あそこで、月に1回あるの。どう、かな?」


 追いかけてきた雪ちゃんが、恐る恐るこちらを見てきた。今日は4月10日だ。本当は、家へすぐに帰る気でいた。でも……この1週間、何も起きなかった。それに朝から学校にいたのに、何もなかった。それに、雪ちゃんや楓と一緒にケーキバイキングに行くということも、2つの夢の中でも全く起きなかった出来事だ。


 もしかすると、本当に、本当に、今は夢ではなく『現実』かもしれない。


 私の中によぎった答えは、そのまま言葉として現れる。


「……うん、行こう!」


 楓と雪ちゃんの顔が、パッと明るくなる。2人とも私のことを、やはり酷く心配していたのだと話してくれた。元気づけるために、ケーキをたくさん食べようと誘うなんて、2人らしくてなんとも可愛い。


「留美は?」


 何も言わない彼女に聞くと、申し訳なさそうな顔をされる。


「あー、ごめん。もうちょっとしたら、切絵先生から歴史学の資料借りるんだ」


「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」


「悪い。会議前には借りたいからさ」


 留美は世界史や日本史に限らず、とにかく歴史が大好きで、今はこの町の歴史に興味津々だ。先生たちに言って資料探しを手伝ってもらったり、自分の足で史跡に立ち寄ったりするほどだから、筋金入りだと思う。

 そんな彼女だから、ケーキバイキングより歴史学の資料というのも、頷ける話だ。


「でも留美ちゃんも中身だけ見といてよー、ほんとお得なんだってば」


 そう言う楓が、スマホでお店のホームページを検索して出してくる。


「あっ、ちゃんとお店のホームページにケーキの種類出てるんだ」


 店名を検索して出てきたページには、詳しくケーキの内容が出ている。価格は1名2,000円で、ケーキ食べ放題、なおかつコーヒーか紅茶が付いてくる。かなり、お手頃感がある。


「確かに、これだけ出てきたら、凄いかも」


「そうなの。ガトーショコラでしょ、チーズケーキ、シフォンに!」


「雪ちゃん全部好きだもんねぇ」


 照れたように笑う雪ちゃんの将来の夢は、ケーキ職人だ。パティシエール、と言うらしい。だからケーキのみならず、おやつを食べるときはすごく真剣で、それが彼女のいいところでもあった。


「いいなぁ、今度は私もいっしょに行くからっ!」


 羨ましそうに言いながら、留美が笑う。

 私はその光景に、途方もない幸福感と、いつも通りの日常を感じながら、楽しく笑ったのだった。



====




 4月10日、午後1時48分。


 資料を借りに行く留美に付き添って、それから4人でおしゃべりをしていたら、わりと良い時間になってしまった。図書館に行くという留美とはそこで別れ、私と雪ちゃん、そして楓の3人で学校を出て、駅へ向かう。

 途中、最初に見た夢のトラックが真横を通り過ぎていく。楓や雪ちゃんと一緒にいるせいか、怖さは感じない。


「それでお母さんったら、すっかりアイドルにはまっちゃってさー」


 なかなかミーハーな楓のお母さんの話が面白くて、私は通り過ぎたトラックのことをすぐに忘れた。やがて駅近くの喫茶店の看板を見つけ、私は楓に尋ねた。


「あの喫茶店?」


「そうそう! 人並んでないみたいだし、ラッキー! 絶対全種類食べきってやるんだからねっ! お腹ぺこぺこだし!」


 楓が嬉しそうに言うので、思わず私も笑顔になる。4人掛けのテーブル席が3つと1人席が4つ程度の小さな店内には、すでに3人もお客さんが来ていた。店長さん曰く、これでもまだ始まって早い時間帯なので、人が来ていないとのことだった。

 よっぽど人気らしい。


「じゃあ私はねー、まずチーズケーキとシフォンにしようかな!」


 3人分のケーキバイキングセットを頼み、店長さん自慢の紅茶がくるのを待ちきれず、3人でケーキを取りに行く。さっさと決めた楓は第一弾を持ち帰り、雪ちゃんは迷うことなく端から1種類ずつ取り始めた。

 私は散々迷った挙句、とりあえず、オーソドックスなショートケーキと『店長のおすすめ』と書かれたスフレチーズケーキを選んだ。


「うーん、凄い。この味、この食感……やっぱプロは違うよね」


 真剣な表情で食べている雪ちゃんとは対照的に、


「うん、美味しい。これも美味しい!」


 と、嬉しそうにフォークを口へ運ぶ楓。ほほえましく思いながら、私もまたケーキを口にいれる。


「はい、お待たせ。紅茶、3人分ね」


「ありがとうございます!」


「ミルクとレモンは、あそこにあるからお好みで。それじゃあ、ゆっくり楽しんでね」


 にこにこと笑う店長さんは、初老の50代くらいの男性だ。ケーキを焼いている奥さんと、二人三脚で経営しているらしい。

 と、いうのは、楓情報である。気になることはとことん調べる、彼女らしい情報だった。

 ふかふかのソファも相まって、私はこれ以上ないほどリラックスしていた。


「あっ、ねぇねぇ見て。ここ、席にマッチ置いてあるよ」


 ふと雪ちゃんが、小さな箱を手に取って見せてくれた。それはお店の名前を冠した、可愛らしいケーキの絵が描かれたマッチ箱だった。


「本当だ! 綺麗な柄だね」


「店長さーん、これ、頂いてもいいんですか?」


 紅茶を運び終えた店長さんに聞くと、頷いてくれた。


「うん、いいけれど……お父さんがタバコを吸うのかい?」


「あっ、そうじゃなくて。えーと、記念に」


「ああなるほど。いいとも、いいとも。それはうちの娘が絵を描いてくれてねぇ、可愛いだろう?」


 自慢そうに言う店長さんに、頷く。申し訳ないけれど1人1箱でお願いしたいと言われたが、問題などあるわけがない。物珍しいだけでもらっているのだから、本当ならお金を払った方が良いくらいだ。


「わー、マッチなんて私、理科の実験くらいでしか使ったことないや」


 楓の言葉に、思わず頷く。家族に煙草を吸う人もいないし、チャッカマンの方が便利だと思っている。


「ははは……時代は変わるねぇ」


 店長さんは苦笑いだ。聞けば、昔はこうした喫茶店が少なくて、男性がふらりと立ち寄り、コーヒーと煙草を楽しんでから、仕事に戻っていくことが多かったという。今もその名残で、タバコのためにマッチを置いているんだそうだ。


「おっと、話すぎちゃったね。さあさあ、アツアツの紅茶をどうぞ。少し砂糖を入れてくれた方が、おすすめかな」


 店長さんにお礼を言って、3人ともケーキに手を付けた。

 私は真っ先に、しゅわっととろけるスフレチーズケーキを口の中へ入れ、紅茶を飲む。


「うーん、本当。美味しいね」


「でしょー? 悠も絶対好きだと思ったんだよね」


 ニヤニヤ笑う楓に、私は頷く。


「ありがとう、楓。元気になれそう」


 ()()()()()()


まだ投稿を始めて間もないのに、評価やブックマークをして頂いて、とても感激しております。


さあ、次からまた地獄が始まります・・・。


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