女子高生が親友を繧呈ョコ縺励∪縺励◆❸
天気の良い中庭には、意外と人が集まり始めている。せっかくのこの陽気なので、お花見をしながらお昼ご飯を食べようと考える人が、結構多いらしい。
「留美ちゃーん!」
元気よく手を振る楓は、購買で買ったであろうイチゴのロールケーキ入りの袋を持っている。私の視線に気が付いたのか、雪ちゃんがくすくすと笑った。
私がじっとりとした視線を向けると、楓は慌ててそっぽを向いて、ワザとらしく別方向を指さした。
「留美待ってるから早くいこっ!」
雪ちゃんも私もそれ以上は言わずに、中庭へ出た。心地よい風が吹き抜けて、薄紅の桜が舞い散る。学校ができる以前からここにある桜で、切り倒すのも植え替えるのも忍びなかった当時の人たちが、そのまま中庭に残したそうだ。
「うわぁ、綺麗……!」
「ほんとうだね!」
思わず声をあげる楓や雪ちゃんとは対照的に、私は何も言えなかった。
記憶の中の出来事、夢の中の出来事でしかないけれど……私は死んだ。死んだのだ。だから。
(また桜が見られるなんて、思いもしなかったな)
感慨深くそう思っていると、楓に手を引かれる。
「ほら、悠、いこう」
留美が席を取っておいてくれたらしいベンチは、ちょうど桜の木を見渡せる場所だった。そこに4人で並んで座って、これからどうするかを話し合う。
このまま近くのファミレスにランチに行くのも良いし、購買でお昼を買ってきてお花見に行くのもいい。私が考えていると、楓が言った。
「そうだ! ケーキバイキングいかない?」
「えっ、ケーキバイキング?」
私が返すと、満面の笑みで、楓が言う。
「うん。駅前に喫茶店あるでしょ。あそこで、月に1回あるの。どう、かな?」
追いかけてきた雪ちゃんが、恐る恐るこちらを見てきた。今日は4月10日だ。本当は、家へすぐに帰る気でいた。でも……この1週間、何も起きなかった。それに朝から学校にいたのに、何もなかった。それに、雪ちゃんや楓と一緒にケーキバイキングに行くということも、2つの夢の中でも全く起きなかった出来事だ。
もしかすると、本当に、本当に、今は夢ではなく『現実』かもしれない。
私の中によぎった答えは、そのまま言葉として現れる。
「……うん、行こう!」
楓と雪ちゃんの顔が、パッと明るくなる。2人とも私のことを、やはり酷く心配していたのだと話してくれた。元気づけるために、ケーキをたくさん食べようと誘うなんて、2人らしくてなんとも可愛い。
「留美は?」
何も言わない彼女に聞くと、申し訳なさそうな顔をされる。
「あー、ごめん。もうちょっとしたら、切絵先生から歴史学の資料借りるんだ」
「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」
「悪い。会議前には借りたいからさ」
留美は世界史や日本史に限らず、とにかく歴史が大好きで、今はこの町の歴史に興味津々だ。先生たちに言って資料探しを手伝ってもらったり、自分の足で史跡に立ち寄ったりするほどだから、筋金入りだと思う。
そんな彼女だから、ケーキバイキングより歴史学の資料というのも、頷ける話だ。
「でも留美ちゃんも中身だけ見といてよー、ほんとお得なんだってば」
そう言う楓が、スマホでお店のホームページを検索して出してくる。
「あっ、ちゃんとお店のホームページにケーキの種類出てるんだ」
店名を検索して出てきたページには、詳しくケーキの内容が出ている。価格は1名2,000円で、ケーキ食べ放題、なおかつコーヒーか紅茶が付いてくる。かなり、お手頃感がある。
「確かに、これだけ出てきたら、凄いかも」
「そうなの。ガトーショコラでしょ、チーズケーキ、シフォンに!」
「雪ちゃん全部好きだもんねぇ」
照れたように笑う雪ちゃんの将来の夢は、ケーキ職人だ。パティシエール、と言うらしい。だからケーキのみならず、おやつを食べるときはすごく真剣で、それが彼女のいいところでもあった。
「いいなぁ、今度は私もいっしょに行くからっ!」
羨ましそうに言いながら、留美が笑う。
私はその光景に、途方もない幸福感と、いつも通りの日常を感じながら、楽しく笑ったのだった。
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4月10日、午後1時48分。
資料を借りに行く留美に付き添って、それから4人でおしゃべりをしていたら、わりと良い時間になってしまった。図書館に行くという留美とはそこで別れ、私と雪ちゃん、そして楓の3人で学校を出て、駅へ向かう。
途中、最初に見た夢のトラックが真横を通り過ぎていく。楓や雪ちゃんと一緒にいるせいか、怖さは感じない。
「それでお母さんったら、すっかりアイドルにはまっちゃってさー」
なかなかミーハーな楓のお母さんの話が面白くて、私は通り過ぎたトラックのことをすぐに忘れた。やがて駅近くの喫茶店の看板を見つけ、私は楓に尋ねた。
「あの喫茶店?」
「そうそう! 人並んでないみたいだし、ラッキー! 絶対全種類食べきってやるんだからねっ! お腹ぺこぺこだし!」
楓が嬉しそうに言うので、思わず私も笑顔になる。4人掛けのテーブル席が3つと1人席が4つ程度の小さな店内には、すでに3人もお客さんが来ていた。店長さん曰く、これでもまだ始まって早い時間帯なので、人が来ていないとのことだった。
よっぽど人気らしい。
「じゃあ私はねー、まずチーズケーキとシフォンにしようかな!」
3人分のケーキバイキングセットを頼み、店長さん自慢の紅茶がくるのを待ちきれず、3人でケーキを取りに行く。さっさと決めた楓は第一弾を持ち帰り、雪ちゃんは迷うことなく端から1種類ずつ取り始めた。
私は散々迷った挙句、とりあえず、オーソドックスなショートケーキと『店長のおすすめ』と書かれたスフレチーズケーキを選んだ。
「うーん、凄い。この味、この食感……やっぱプロは違うよね」
真剣な表情で食べている雪ちゃんとは対照的に、
「うん、美味しい。これも美味しい!」
と、嬉しそうにフォークを口へ運ぶ楓。ほほえましく思いながら、私もまたケーキを口にいれる。
「はい、お待たせ。紅茶、3人分ね」
「ありがとうございます!」
「ミルクとレモンは、あそこにあるからお好みで。それじゃあ、ゆっくり楽しんでね」
にこにこと笑う店長さんは、初老の50代くらいの男性だ。ケーキを焼いている奥さんと、二人三脚で経営しているらしい。
と、いうのは、楓情報である。気になることはとことん調べる、彼女らしい情報だった。
ふかふかのソファも相まって、私はこれ以上ないほどリラックスしていた。
「あっ、ねぇねぇ見て。ここ、席にマッチ置いてあるよ」
ふと雪ちゃんが、小さな箱を手に取って見せてくれた。それはお店の名前を冠した、可愛らしいケーキの絵が描かれたマッチ箱だった。
「本当だ! 綺麗な柄だね」
「店長さーん、これ、頂いてもいいんですか?」
紅茶を運び終えた店長さんに聞くと、頷いてくれた。
「うん、いいけれど……お父さんがタバコを吸うのかい?」
「あっ、そうじゃなくて。えーと、記念に」
「ああなるほど。いいとも、いいとも。それはうちの娘が絵を描いてくれてねぇ、可愛いだろう?」
自慢そうに言う店長さんに、頷く。申し訳ないけれど1人1箱でお願いしたいと言われたが、問題などあるわけがない。物珍しいだけでもらっているのだから、本当ならお金を払った方が良いくらいだ。
「わー、マッチなんて私、理科の実験くらいでしか使ったことないや」
楓の言葉に、思わず頷く。家族に煙草を吸う人もいないし、チャッカマンの方が便利だと思っている。
「ははは……時代は変わるねぇ」
店長さんは苦笑いだ。聞けば、昔はこうした喫茶店が少なくて、男性がふらりと立ち寄り、コーヒーと煙草を楽しんでから、仕事に戻っていくことが多かったという。今もその名残で、タバコのためにマッチを置いているんだそうだ。
「おっと、話すぎちゃったね。さあさあ、アツアツの紅茶をどうぞ。少し砂糖を入れてくれた方が、おすすめかな」
店長さんにお礼を言って、3人ともケーキに手を付けた。
私は真っ先に、しゅわっととろけるスフレチーズケーキを口の中へ入れ、紅茶を飲む。
「うーん、本当。美味しいね」
「でしょー? 悠も絶対好きだと思ったんだよね」
ニヤニヤ笑う楓に、私は頷く。
「ありがとう、楓。元気になれそう」
もう大丈夫だ。
まだ投稿を始めて間もないのに、評価やブックマークをして頂いて、とても感激しております。
さあ、次からまた地獄が始まります・・・。