女子高生が親友を繧呈ョコ縺励∪縺励◆❷
翌日、私は少し早めに用意をした。もうじき、家を出る時間だ。
あれほど怖かったのに、私は昨晩、少しだけ眠ることができた。眠れば夢を見る、そう思っていて、眠るのが怖かった私を笑うように、私はスマホのアラーム音で目を覚ました。病院の先生に連絡しようかと思ったけど、あまりに失礼な時間に思えて、連絡はしないことにしたのだ。
朝はご飯も口に入らず、電車に乗ると考えることさえ怖い。そう思っていると、玄関からチャイムが聞こえてくる。
「こんな朝早くに? どうしたんだろう」
玄関を開ける前に、家についているインターホンの画面を見ると、玄関に楓がいる。いや、楓だけじゃない。
「雪に、留美もいる……!」
そう。楓の後ろには、クラスメイトで友人でもある美奈雪と兵藤留美がいた。
(そうだ、生きている。二人とも、生きているんだ……!)
驚きながら鞄を掴み、外へ出る。雪ちゃんは、さらりとしたストレートの黒髪に、ふっくらとした体形で、絵にかいたような日本人らしい女の子だ。そして穏やかそうな見た目通り、のんびりしていて、癒し系という言葉がぴったりな子でもある。
以前、校外学習で同じ班になり、それをきっかけに仲良くなった。以来、ちょくちょく一緒に放課後遊んだりしている。
「雪ちゃん、おはよう!」
「おはよー、悠ちゃん」
カステラみたいに甘くてぽわぽわとした雪ちゃんの声に、なんだか気持ちが落ち着いていく。
「留美も、おはようっ!」
「おはよう。ちょっと顔色悪いけど……一応元気そうだな」
落ち着いた声で返してくれた留美はクラスメイトで、文武両道な優等生。見た目も黒髪をすっきりとしたポニーテールにまとめていて、いつも髪紐に合わせた綺麗な色のの眼鏡をつけていておしゃれだ。性格も大人びていてクールだし、服の趣味もかっこいいから、最初はあこがれみたいな感情から仲良くなった。でも、実は意外とツッコミ体質で、私と楓の馬鹿話にひたすら付き合ってくれるようなところもある。
二人とも、私の大切な友人だ。夢の中で死んだところを見たことはないけれど、それでも生きているという事実に、安心する。
楓が満面の笑みで、私に言った。
「よっはろー! 悠! 休んで心配になって、私が迎えに行くって言ったら二人が一緒に行くって言ってくれて……それで、みんなで迎えに来たの!」
「みんな……」
驚いたのと同時、顔が赤くなる。それは嬉しさや、ちょっとした気恥ずかしさ、でも何よりも、感謝があった。留美も雪ちゃんも、私の家からは反対方向の場所に住んでいるから、ここまで来るのはやっぱり大変なはずだ。
感謝の思いが込み上がって、視界が潤む。
「……ありがとう」
私が笑うと、雪も留美も楓も、笑ってくれた。雪がストレートの長い黒髪をくるりと翻し、通学路の先を示した。
「いこー、悠ちゃん」
ほんわかとした声で言う雪に、頷く。
通学路はいつも通りだ。でも、たまに車が横を通るたびに、体が強張る。
「悠ちゃんどうしたの?」
首を傾げて、留美が訪ねてきた。彼女の背負うスポーツバックの向こう、また1台車がよぎる。
「う、ううん、なんでもない」
私は無理やり笑い、首を横に振る。荒唐無稽な、話だった。どう考えても、目から血を流したバケモノが襲い掛かってくるなんて、ありえない。夢の話だから、と割り切ることができない自分が、情けなかった。
「悠ちゃん! 今日のお弁当、みんなで購買いかない?」
「えー、楓、ダイエット中じゃなかったっけ」
「そ、そうでしたっけなぁ!」
「もー、楓ちゃん、そう言ってこの前も購買のサンドイッチを」
「言わないの! もう!」
いつもよりはしゃぐ声。普段は大人しくて声の小さい雪ちゃんも、声を張っているのが分かる。
「ごめんね」
私の口をついて出た言葉に、みんなが歩みを止めた。
ごめんね、とは言ってみたものの、こんなふうに謝ってしまう気持ちを、うまく説明できない。そんな時、不意に、楓の手が私の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、悠ちゃん」
「楓……」
「で、よしよしいっぱいしたいところだけど……」
甲高い音が、駅から聞こえてくる。
電車の発車1分前を告げる音だ。
「あ、電車……」
「走るぞ!」
「留美ちゃん早い!!」
一緒に走りながら、私は少しだけ、恐怖が薄れるのを感じた。こんなふうに私を気遣ってくれる友人がいる。それが、確実に、私を勇気づけてくれた。
家に帰って1人になるのは怖かったけど、それ以外は楓や雪ちゃん、留美が一緒にいてくれる。それがどんなに私にとって、安心できることだったかしれない。
それからは、私の恐怖心以外、何事もない日常が過ぎた。
授業に集中しても、時々、あの光景が目の前に蘇る。だからたまに、外を少し見て、何も起きていないのを確認するようになった。おかげで、担任の切絵先生には心配されてしまった。眼鏡の奥から、あの優しそうな目で「大丈夫?」と聞かれると、本当に全てを話てしまいそうになるんだ。
だけど、今この時も、私は時々、外をちらりと見るのをやめられない。そして、何もないのを確認して、安心する。
すると、
「じゃあ、今日の授業はここまでです」
と、チャイム前に黒板の前に立つ切絵先生が言った。
「今日はホームルームで言ったように、午後から先生たちの会議があります。なので、午後からは休みとなります。部活動も、監督できる教員や大人が居る部活のみ、活動可能です。それ以外の皆さんは、基本的には午後5時までには帰宅するように」
私たちが返事をそれぞれ返すと同時くらいに、チャイムが鳴る。
今は午前0時を回ったくらいだから、これからお昼という生徒も多いだろう。
かくいう私も、悠たちと約束している。荷物をまとめてざわつく教室前の廊下へ出た時、私は切絵先生から呼び止められた。
「悠さん、大丈夫?」
じっと見つめられながら、
「大丈夫ですよ、先生」
と、笑って返した。日に1度は、このやり取りをする。もう……今日で、7日目だ。
今日は、4月10日だ。本当のところを言うと、大丈夫じゃないとも思う。けど、口に出してしまえば、本当のことになりそうで、怖かった。
「本当に?」
「ええ、本当に」
真剣に尋ねてくる切絵先生は、本当に良い先生だと思う。確かにおっちょこちょいというか、不器用なところはあるけれど、私たち生徒のことを本当に大事に思っていてくれる。
(……大丈夫、だよね? バレてないよね)
立ち去っていく切絵先生を見送り、私は胸に手を当てた。
本当に何もなく、夢を見ることさえない。家族からは、楽し気なメールが相変わらず届いてくる。やっぱりあの2つの夢は、本当に夢だった。夢の中で、夢を見たんだ。
この7日間、ずっと自分に言い聞かせてきた言葉を、また繰り返す。
「あっ、いたいたー! 悠ちゃん!」
楓と雪ちゃんが駆け寄ってきて、私の手を引く。これから、4人でどこか行こうという話になっていた。
外は気持ちの良い天気で、桜は満開とまではいかないけれど、ほろほろと花弁をこぼしていた。
「どうしたの? 切絵先生に用事?」
きょとん、とした顔で問いかけてくる雪ちゃんが、ロングストレートのさらさらとした黒髪を揺らして、首を傾げた。私はそれに笑顔で首を横にふり、
「ちょっと話してただけ」
と、ごまかす。
不思議そうにしつつも、それ以上は話しかけてこなかった2人と一緒に、中庭にいるだろう留美の元へ行く。