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いばらに潜む兎族

 星がかすかに見えるくらいの暗闇のなかで、立っていたのはカテューシャだった。

 手にした剣は綺麗な波紋を見せており、すぱすぱと何でも切れそうだ。業物だなと思っていると、風に乗って彼女の声が聞こえてくる。


「どうして私がここにいると思ったの?」

「うん、昔から殺意には敏感だったし、エギュリッドも気づいてたと思う」


 俺が抱き上げられたとき、はっきりと彼女は困っていた。手を伸ばして取り返そうとしていたようにも見えたし、彼女にしては珍しく威圧的な態度を取った。

 笑顔を絶やさない兎族だったけど今夜は違った。どこか顔色が悪いし、武器を掴んでいる手に力が入り過ぎている。


 その彼女は、静かな声で話しかけてきた。


「じゃあ、私の兄を殺したのも覚えてる?」

「覚えてる。速くて強くて、いつも正確に首を狙ってきた。だから倒せたんだけど」


 ざざあと響く潮騒は、どこか推理ドラマのワンシーンを連想させる。そんな下らないことを思うくらい、俺は現実逃避をしたかったんだ。


 墓参りに来たいと言ったのは、一人きりになったところを狙って姿を現すだろうと睨んでのお願いだった。そして相手は、この姿であろうと殺意を失わないことも分かっていた。


「弾けろ、黒茨ブラックモス


 ぶわっと真っ黒い茨が地面を覆いつくしてくる。尖ったトゲを持っており、兎族である彼女だけが怪我もせずにすり抜けられる技だ。

 地の利を得られたどころじゃないし、そもそも小学生の身体じゃあ戦いにさえならない。

 だけど俺は、この場とまったく関係ないことを言う。


「昔、俺は最下層にいてさ、見知らぬ爺さんに鍛えられた」


 周囲をいばらで囲まれても、しかし俺は淡々と話し続ける。


「勇者の血があるとか何とかで……まあ、結局はただの洗脳で、俺は利用されただけなんだけど」

「こっちも被害者だなんて言い訳は、聞きたくないっ!」


 言いたくないよ、俺だって。こういうのを情弱って言うんだしさ。

 でも、伝えておきたいというか、相手を騙すのはあんまり好きじゃない。敵討ちをしたがる相手なら猶更で、カテューシャはここで初めて知り合った魔族なんだ。


 ばひゅひゅ、と与えられた剣圧をそのままにかわす。正確に首を狙ってきたし、お兄さんの技とおんなじだった。

 真っ黒な茨の奥で、獣のような目が光った。


「おまえっ! 子供だと偽ったのか!」


 子供では今の早さをかわせないはずだと思われたらしい。だけど種明かしを早く済ませたくて、俺は口を開く。


「戦場で砕け散った千本桜クリムゾンは、俺のなかに取り込まれた。だから一日に一秒だけの時間を取り込んで、好きなときに扱えるんだ。でも今は使っていないし、もし殺されても無かったことに俺はできる」


 ここで滞在していたのは一週間足らずだ。しかし6秒もあれば大体なんでもどうにかできる。


 声がした方向に身体の向きを変えると、うっすらと月明かりに照らされた兎族がいた。敵討ちをするための殺意に満ちており、戦場でいつも見てきた表情だ。


「鍛えられたのは、もっと若いときだったんだ。治癒力をあげるためとか何とかで指をもがれたり、くっつけたり、またもがれたり。何が楽しいのか、手足を縛って樹海に放置されて毒虫まみれにされたこともあった」


 暗闇のなかで、息を飲む音が聞こえてきた。目も耳も鍛えられており、いま彼女の姿は俺から丸わかりでもある。その彼女は、ぎゅっと己の腕を握っていた。


 こらこら、痛ましい目で見ない。可哀そうだと思われることほど、自分を可哀そうに感じることはないんだよ。


「はあ……、この島に来て分かったのは、あれはただの人体実験だったということだ。俺と同じような奴はほとんど死んでて、それが分かって、もうなんか嫌になった。だからここに来て、ちゃんと墓参りをしたかったんだ」


 あ、駄目だ、なんか泣ける。だんだん声が小さくなってゆくのは、カテューシャが瞳に涙をいっぱい浮かべていると気づいたからだ。


 子供の身体ってのは敏感で、ちょっとしたことですぐに反応する。可哀そうに思われたりするのはやっぱりすごく苦手で、ズズと鼻を鳴らしてしまうのが情けない。


 だからここに来た理由、カテューシャが近づくのを待っていた理由を俺は告げる。


「カテューシャ、お願いだ。お兄さんのお墓がある場所を教えて欲しい」


 風にあおられながら、そう伝えた。目の前に立ち、涙を流しながらも俺をじっと見つめている女性に。


「……うン、良いけど。兎族はすぐに首を跳ねちゃうから、あんまり隙を見せないでね。私だって怖い魔物なんだから」


 そう言って、膝を折ってしゃがみこんでくる。服の袖で目元をぬぐってくれる彼女こそ、気持ちの整理がつかないのか涙を次から次へと溢れさせている。


 それでも鼻をつんと突いてきて「分かった?」とお姉さんぶってくる彼女は、普段よりも可愛らしく俺の目に映った。


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