1.見知らぬ土地で
薄れゆく意識の中、それは言った。
「……いけ……い…………。その…………ら。」
所々聞き取れず、何を言っているのかがわからない。しかし安心できる声だった。
それも束の間意識が暗転し、それは記憶の片隅に追いやられ、消えた。
気がつけば、見慣れない山道を歩いていた。
靄がかかったように、何故こんなところに居るのかが分からない。
見知らぬ土地で、かと言って他県に来たようなあるいは外国に来たような感じでもない違和感を覚える。
左右を見渡しよく見やれば、木が見たことの無い不思議なものだと気づく。
「なんだこれ……。」
見た目から広葉樹なのだが、その葉に触れれば蛍のような光の粒が散っては消えた。
(本当にどこなんだここ……。前日以前の記憶がぼやけてる……。)
未知の場所、それも森の中に居たくなくて村かどこかを探すために歩き出した。
森に居座るより、水や食料を探す方が現実的で気も紛れるのだ。
とはいえここは、見知らぬ土地。見たことも無い木があったから、見たこともない動物が出てもおかしくない。そう警戒しながら適当に進むと、山道に出た。
頻繁に車かなにかが通るのか、二本の線が並行するように草が生えていない。
これに沿っていけば街に行くだろうと、あたりをつけそれに沿って進む。
途中見つけた山菜を抱えつつ、自身の現状と道具を検分する。
「は?俺、ここに来る前なにしてたんだ……?!」
着ている服以外に手荷物が何も無いのだ。
カバンもなければ、携帯電話もなく、出かけるにしてもサイフや携帯ぐらいは持つだろうがそれすらない。正しく手ぶらなのだ。
手荷物がなく、とりあえず食料と水の確保を優先したとはいえ、手ぶらで現状崖っぷちを今更気づいた事に頭を抱える。
「あの時気づけよ俺……。」
呆れ半分に頭を抱えた。
しかし、嘆いても仕方ないと割り切る。たとえ気づいたとしても、結局変わらないと分かったからだ。
とはいえ、今日はもう日が暮れかけていたため、そろそろ野営するかと決めた。
火をおこした後、道中拾った山菜口にする。
知っているものに似た山菜の匂いや見た目、あるいは勘頼りの山菜ではあるが、食べなくとも死ぬ。
何もせず死ぬなら、山菜の毒で死ぬほうがまだマシだと割り切り食べられるかの実験も兼ねて山菜を噛み締める。
味はお世辞にも美味いとは言えなかった。むしろ、薬を飲む時のような苦味が舌を支配した。
「にっげぇ……とてもじゃないが、食えたもんじゃねぇな……。」
急いで水を口に含む。道中ひょうたんのような木の実があったため、簡易水筒としている。
食べた山菜は毒ではなさそうだ。なぜかと言われたら勘としか言えない。
おそらく薬草ではないか?と考え同じ草をよりわけてポケットへいれておく。
「良薬口に苦しだが、毒なら最悪だな……」
そう言いつつも、怪我をした場合消毒液代わりになるかもしれない。
それ以降の他の山菜は何とか食べれそうだったので、恵に感謝しつつ完食した。
あとは睡眠だが、何が出るかわからないが、かと言って対策もない。仕方なく木の幹を背にして眠りについた。
そろそろ朝かと、早朝目が覚めた。警戒しながら寝たからかお世辞にも快眠とは言えず、固まった体をほぐすために背伸びをし、軽い体操を行う。
昨日の山菜は特に毒ではないことを腸の調子から理解し、最低限の安全な食材を確保出来たと内心安堵する。
とはいえ美味しくないものを延々と食べ続けるほど物好きではない。
早めに街に出てまともな食にありつきたいものだ。
十分に体がほぐれたところで、山道に戻り歩く。ここまでで特に野生の動物を見ていない。
仮に猟師が狩猟してる地域だとしても、気配どころか足跡やけもの道など痕跡がまるでない。
「野ウサギとか居れば肉にありつけるんだけどなぁ」
昨日の苦い薬草らしき草を思い出し呟く。他の山菜もくせが強いため未だに舌に余韻が残っている。
結構経ち、さらに一泊しているが、銃声もなにも聞いていない。
あまりに不気味すぎるが、襲われない点だけで言えばむしろ好都合だった。
野生動物を見てないとはいえさすがに、植生が地球、はたまた外国にしては不可思議すぎるのも事実。
バックパックでもあれば大量に荷物を持ち運びできるが、ないものをねだっても仕方が無い。ポケットに入れた薬草らしきものしかなにもないのだ。
「にしてもどうなってるんだ……?鳥すらいないのはさすがにおかしい……。」
そう、なにもいないのである。もちろん襲われる危険がなくなれば万々歳といいたいが、鳥すらいないのは不自然だと違和感を覚えている。
考えに没頭してしまい、いくらなんでも緩みすぎたと反省していると、山道が途切れてしまった。
「嘘だろ?……じゃあなんで?」
目の前には完全に緑が広がっており、さっきまでの草なき並行路がなくなっている。さらに言えば目の前には木々が立ち並び道が途切れただけではないことは明らかであった。
もし途切れただけなら真っ直ぐにさらに進めただろう。
はぁとため息を吐き、どうしたものかと思案する。街に続くかもしれない道が途切れてはどうしようもない。やはり無理かとその場に座り込んだ。
「もうダメか……。」
ここまで歩いてこの道以外は深い森が広がっていた。森を抜けるのは厳しい。ここが森の中央辺りなら尚更だった。
日が出ているうちに歩いて一泊、さらに早朝から真昼ぐらいまで歩き続けていた。距離にしてはなかなかの距離である。
なぜ途切れたのか、今までの道はなんなのかそんな事を無駄に思考して現実逃避しかけていた。
ようやくと言うべきか、諦めかけた時なにやら低い唸り声が聞こえてきた。
「グルルル……」
ゆっくりと走り出せるように体勢を整えて、慎重に唸り声から離れるように進む。
「野ウサギなら歓迎だが明らかに違うよな……」
見知らぬ土地で冷静に対処している自分に驚きつつも、極力音を立てずに刺激しないように進む。しかしながら進行方向からも唸り声が聞こえてきた。
(あー……これ囲まれたかな?)
唸り声はますます、大きくなりどこへ逃げようにも包囲されるように声が聞こえてくればもう諦めるしかない。
「突然よく分からない場所にいるかと思えばもう終わりか。無理ゲーにもほどかあるだろ。」
ため息とともに目を瞑り痛みをこらえる姿勢になる。
しかし、一向に襲われず、ゆっくりと目を開ける。
気がつけば唸り声は止んでおり、代表らしき1匹がポケットの匂いをやや距離を取りながらも嗅いでいた。
「わっ?!……ってこれ?」
一瞬驚いたが、ポケットにいれてあった薬草らしき草を取り出して問う。
ワウ!と一声吠えられ、ある程度距離を取りこちらを振り向く。
「ついてこいって…………ことか?」
恐る恐る呟くと、またワウ!と肯定するように返答し、森の中を先導する。
「どちらにせよ選択の余地はない……か。」
そう覚悟して、狼たちのあとを恐る恐るついていくのだった。
初投稿させていただきます。
異世界転生、転移系が流行し、アニメ化など
本屋にもズラリそれらが並んでいました。
そこから自分も書いてみたいと書いてみた次第。
更新は納得行くまで消して書いてとしてるので極端に期間があくかもしれませんがお付き合い頂ければ幸いです。
おそらくR15指定になっていると思いますが一応そうさせていただきます。
タイトルが意味不明だと思われるかもしれませんが、タイトル回収はいずれします。むしろタイトルからある程度察してる方もいるかもしれませんが(笑)
さて、狼に囲われた主人公の命運やかいかに(棒)