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少しの感情の昂りも、すでに力となって現われてしまう。
ネックレスはすでに、クリスタルの部分は無くなっていた。
真っ赤なハートのネックレスを首から下げ、彼女は暗い表情をしていた。
「外さなきゃ…でも…」
ハートを見るたびに、外そうと思う気持ちは消え失せてしまう。
毒々しくも、見るモノを魅了する赤い色。
それが眼に焼き付くのだ。
「もう…部屋から出なくてもいいかな」
外すぐらいなら、外の世界との関わりを絶った方が良いと思ってしまう。
そうして彼女は部屋から出なくなった。
けれど両親は心配する。
なので夜にたまに散歩することにした。
人に見られるのがイヤだった。
例の学校での事件は、かなり噂になっていたから。
そしてある日、彼女は試した。
街外れには廃墟が建ち並んでいる。
景気が良い時は盛り上がっていたが、不景気になるとここには人が寄り付かなくなった。
廃墟となったマンションやビル、それに工場が建ち並ぶここには、人は滅多に寄り付かない。
彼女はネックレスを握り締め、眼を閉じた。
心の底から、封印していた激情がわき起こる。
彼女は足を踏み締め、その場でジャンプした。
すると軽く3メートルは跳んだ。
建物のベランダに足をかけると、次々と跳び、ついには30階建てのマンションの屋上までたどり着くことができた。
そこまで息1つ切らさず、しかし彼女は愁いの表情を浮かべていた。
「どうしてっ…こんなことができるの?」
例の店に行こうとした。
だが何故か、何度行っても行けなくなっていた。
あの建物と建物の間の道を通っても、裏通りに出るだけ。
そこは住宅街になっていて、店なんてどこにもなかった。
住人達に店のことを尋ねるも、誰も知らないと首を横に振るだけだった。
店の人達のことを聞いても、知らぬ存ぜぬという言葉が返ってくるだけ。
「どうなっているんだろう…」
ため息をつきながら、屋上の柵に寄り掛かった。
感情を押し殺そうと思っても、一度解放することを覚えてしまったせいか、中々上手くいかない。
そのせいで、部屋中の物が壊れてしまっている。
壊したくて壊しているワケじゃない。
けれどもれ出した感情が、暴走しているのだ。




