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スッと彼女の目が細められた。
「わたし…丈夫になりたいんです」
「お体が弱いのですか?」
「ええ…。生まれ付き、心臓に持病があって…。普通に元気には生きられないんです」
「それはそれは」
「だから、普通に生きてみたい」
その声は消え入りそうなぐらい小さかったものの、強い意志がこもっていた。
「―かしこまりました。少々お待ちください」
青年は踵を返すと、品物を置いている棚から何かを取り、戻って来た。
「お客様にはこちらが良いかと思われます」
そう言って差し出してきたのは、1つのネックレスだった。
金の鎖に、ハート型のクリスタルが付いている。
「可愛いですね」
「喜んでいただけて嬉しいです。どうぞお手に取って見てください」
青年から手渡され、彼女はネックレスを手にした。
よく見ると鎖は編みこまれており、ハートのクリスタルも、中に小さなハート型の赤い石がある。
「あの、この赤い石は何ですか?」
「それもパワーストーンなんですよ。それを身に付けていれば、お客様は元気になれます」
「はあ…」
パワーストーンはいくつか持っていた。
けれどそれも物は試しという気持ちだった。
でもこのネックレスは、不思議と惹かれてしまう。
特にクリスタルの中に、赤い石が入っているという珍しいのに、興味がわいたのかもしれない。
「…じゃあ、コレをいただきます」
「ありがとうございます」
彼女は立ち上がり、青年と共にカウンターに向かった。
「お客様は感情が昂りやすいですか?」
「えっ?」
ネックレスを包んでいた青年が言った言葉は、彼女にとっては身に覚えのないことだった。
「いえ、全然。あんまり感情が昂ると、倒れちゃうんで…」
「…そうですか。ならば大丈夫だと思いますが」
青年は笑みを浮かべたまま、包装し終えたネックレスを差し出した。
「感情はコントロールしてください。くれぐれも、あまり昂らせないよう、お気をつけてください」
「はっはい…」
お茶とネックレスの代金を支払い、彼女は店を後にした。
彼女が店を出て行くと、奥から3人が出て来た。
「久し振りの客だったな、ソウマさん」
最近の若者風の青年ことハズミが、ニヤニヤ笑いながら声をかけてきた。
「でもまたマカが怒り出しそうな品物を売ったんですね」
真面目そうな青年ことマミヤが、複雑な表情でドアを見つめた。
「お客様のご要望でしたからね」
「でもあのネックレスの真の力、説明しなくても良かったの?」
紅一点のマリーは壁に寄り掛かり、ネックレスがあった棚に視線を向けた。
「あのネックレスの正体を話したところで、彼女は信じないでしょう。黙ってあげた方が、効果が出た時、喜ぶでしょう」
「でもそれじゃあマカに怒られるんじゃないの~?」
マリーはニヤッと笑う。
ハズミもニヤニヤ笑う。
「そうそう。あのネックレス、いかにもマカが嫌いそうな効果を発揮するからな」
「ですが警告はしましたよ? 後は彼女次第ですよ」
店主・ソウマも笑みを浮かべる。
しかしその笑みの意味は、決して良いものではない。
それを悟り、マミヤは深く息を吐いた。