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63 聞いてほしい話

「……あなたは、すでに知っていると思うけど、それでも、聞いてほしい話があるの」


 アーサーと二人きりになりたかったのは、弟の新たな婚約者をエレノアにしてもらえるように「お願い」するためだけではない。


 もう一つ、聞いてほしい話があったのだ。


 これから私が話す事は、アーサーには知っていようがいまいが、どうでもいい話だろう。


 それでも話すのは、私なりのけじめだ。


「……私を産んだ母親は、王妃様ではなく妾妃のメアリー・シーモア、あなたの大嫌いな女なの」


 王妃に打ち明けたのだ。


 だから、婚約者(アーサー)にも打ち明ける。たとえ、彼がすでに知っているとしてもだ。


 予想通りといおうか、私が重い口を開いて言った真実に対して、アーサーは全く動揺しなかった。無表情のまま私の話を聞いている。


「……あの女、妾妃は、王妃様の取り巻きに最初に産んだ子供、私とアルバートの兄のヘンリーを殺された復讐のために、王妃様と自分の子供を取り替えたわ。……だから、アルバートを産んだ母親も妾妃ではなく王妃様で……あなたとロバート、ロクサーヌのいとこは、本当は私ではなくアルバートなのよ」


 ロバートとロクサーヌの父親のウィザーズ侯爵とアーサーの父親の宰相、そして、王妃は兄妹だ。王妃が産んだ息子であるアルバートこそが彼らの従弟なのだ。


「……あなたにとっては、本当のいとこが私だろうとアルバートだろうと、どうでもいいのだろうけれど」


「まあ、そうですね」


 肯定されたところで今更傷ついたりはしない。


「私にとってアルバートは大切なたった一人の弟なの。だから、あの子が王位を望まないなら私が女王になるわ。勿論、あの子を犠牲にしないでよ」


 アーサーと結婚して女王になろうと決意した。


 だが、それは、決してアルバートを、弟を犠牲にしてではない。


 たった一人の弟。


 私は、ずっと弟が私を気に掛ける一番の理由は、私が異母姉だからではなく、愛する女(妾妃)が産んだ、彼女が愛する娘だからだと思っていた。


 私が妾妃が愛する彼女の娘でなければ、アルバートにとっての私は実の姉だろうと何の価値もないのだと。


 けれど、そうではないと気づいたのだ。


 アルバートにとっての私が、ただ単に愛する女の娘というだけなら、王妃に対して私を庇う発言をしたり、わざわざ私を憎んでいないと言うはずがない。


 アルバートが(わたし)を気に掛ける理由の大半が愛する女の娘だからというものであっても、(わたし)に対して肉親の情がない訳ではないのだ。


 形式上の母親と生母と、私はアルバートから二人の「母親」の愛情を奪ったのに――。


 弟が弟なりに(わたし)を愛してくれていると分かったのだ。


 だからこそ、余計に、あの子を犠牲にして女王になどなりたくない。


「私が本当は、あなたの大嫌いな女が産んだ娘だと知って、婚約破棄したくなったかしら?」


 私は冗談めかして言ってみた。


()()を期待して話されたのなら無意味ですね」


 アーサーは耳に心地よい美声に何の感情も込めずに言った。


「でしょうね」


 私は笑った。これも予想通りだ。


 おそらくアーサーは私が打ち明ける前から知っていて、それでも、ずっと私の婚約者でいたのだから。


「私のお腹の子の父親が自分でなくてもいいとまで言ったのですものね」


「――私が本当に、()()思っていると思っていたんですか?」


「アーサー?」


 今まで無表情で私の話を聞いていたアーサーの様子が変わった。


 無表情である事に変わりはない。けれど、どこか、婚約破棄宣言したあの夜のような気迫があったのだ。


「あの場をおさめるためには、ああ言うしかないでしょう?」


 ()()()アーサーは、内心では、腸が煮えくり返っていようと表面上は感情の乱れ一つ見せなかったのだ。


 それは、将来の王配として、「王」として、相応しい姿だ。


 けれど、なぜだろう?


 胸が痛い。


 アーサーの冷静沈着さもまた彼を構成する要素の一つで、だから、その部分も私は愛しているのに。


(……私は怒ってほしかった? 詰ってほしかった?)


 私を愛しているからではなく自分のプライドのためでもいい。


 少しでも、アーサーが生の感情を私にぶつけてくれる事を期待していた?


 私がどれだけ邪険に接しても、どこ吹く風という感じだったアーサー。


 怒りでもいい。憎悪でもいい。


 少しでも、私に感情をぶつけてほしかった?


 愛していると言いながら、信じなくても構わないなどと言い放つ彼。


 私は悲しいのだと自覚した。


 演技だと見抜かれていようと、本当の私として向き合ってこなかった私が思っていい事ではない。


 それでも、彼が私に本気で向き合ってくれることを期待していたのだ。




















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