第七片-礫花満開-
何ヵ月ぶりになるとんでもなく遅い投稿ですみません…(汗)とてつもなく長い話になった上に初挑戦のある描写があります。賛否両論覚悟では書きましたが何分、初めての事ですので御容赦下さいませ…。
数日後のある朝、久我山家にて…。
「ふぁあああ~…よく寝た~。」
「…んんん……眠い……。」
リビングのソファーで寝ていたサンディアと床で寝ていた響が目を覚ます。魔界と魔族の存在を知り、以降の数日間…両親が仕事で不在な上に夏休み期間で学校が休みな事もあってか響は行き場の無いサンディアを自宅に泊めて生活させていたのだ。
「…お腹空いた…なんかある?」
「…無いねぇ、昨日の夜に食べた食パンで最後。仕方ない…。」
寝ぼけ眼で二人は冷蔵庫を開けて覗いたものの、見事なまでに空っぽであった…互いに日々の食事に無頓着且つ無計画に全ての食材を貪り食ってしまったためかこのままだと朝食抜きになってしまう。そこで響は最終手段に出た…。
「リューカさん、何か食べさせて。」
「出来ればアップルパイって奴がいいわ。」
(朝っぱらからダメ人間とダメ魔族がたかりに来たァアアアア!?)
ダメダメな二人が外出し、向かった先は久我山家から約5分程歩いた所に響と親交があるリューカと牧志が住む鳴我家だった。朝っぱらから堂々と図々しくも二人して朝食をたかりにやって来たのだ。
「はーやーくー。」
「この家、発破解体するわよー?」
「あー…もう、はいはい!用意するから部屋で待ってて!!」
リューカは許可も出してないのに我が物顔で客間のソファーに寝転がり全力でだらける問題児共に頭を抱えながら食べられるものを用意するためすぐさま台所へ向かった。
「…あれ?マッキがいない…?」
「知ったこっちゃないわよ、あのアホガキの事なんて。どうせまだ寝てんでしょ?」
ふと、響があることに気づく…それは牧志の存在である。普段の牧志ならばこの時間帯でも平然と起きて逆立ちやブリッジしながら家中をウロウロするなど意味不明な行動に走っているのだが今日に限って何処にも彼の姿が見当たらないのだ。
「そういえば…ねぇ、響君にサンディアさん…マキ君、あなた達の家に行ってない?」
「…?いいや、来てないよ?」
「もし来てたら安眠妨害でアンタん家、訴えてるところよ!」
「…だよねぇ…そうか…はぁっ…。」
リューカは響とサンディアに自分の弟が久我山家にいるのではないかと尋ねたがあんな騒がしくとても目立つお子様が居たら二人の安眠は洩れなく破られていただろう。違うと解るとリューカは溜め息をつきながら落ち込んだ。
「…そういえば、このところマッキの姿自体を全然見ないんだけど…もしかして、家出?」
「まさか!どんなに遅くなっても家には帰って来てるよ!」
響にもその事に違和感があったようでサンディアを自分の家に住まわせてるこの数日間、牧志の姿を全く見なくなってしまっていた。だがリューカが言うには家出などで行方をくらましてるわけではなく、普段通りの暮らしをしているようだ。ただ一つ違うことといえばいつもよりも家に帰るのが遅くなっていることらしい。
「うわぁあああん!!今までこんなこと無かったのに!どうしちゃったの!?マキ君!?」
「グレたんじゃない?良くある話でしょ?近所じゃ良い子ちゃんで通ってる奴がある日を境に唐突に人間のクズに成り下がるってのが…プッ。」
「…えー?反抗期?早くない?とてもイメージ出来ないな、そんなマッキ…んふっ。」
「おいコラ、バカ野郎共、今想像して弟を笑っただろう?うちのマキ君は非行なんかに走ってないやい!!不穏な事を言うと朝御飯やらないからね!?」
身内でしか解らぬ弟の変化に泣き叫ぶリューカに追い撃ちするかの様にサンディアは身体を反転させて頭を床に置き足のみをソファーに乗せた逆さま状態でだらけながら恐ろしく他人事且つ適当なノリで牧志反抗期説なるものを提示したものの響の言うように普段からバカ全開の牧志の非行に走ったイメージがまるで浮かばず、そんな彼の姿を想像して二人のおバカ達が吹き出したためリューカは姉として静かにキレつつも牧志反抗期説を全面否定した。
「じゃあ、なんなんだろうね…?ちなみに今日はどこかイクとか聞いてない?」
「そういえば…穢山にイクって言ってたよ、よくよく考えてみればこのとろ毎日遊びにイッてるなぁ…。」
「人間のガキって無駄に行動範囲広いわね~…まぁ、私には関係無いわ~。」
今もこうしてこの場に居ない牧志の行方を訊ねるとリューカ曰く今日も穢山で元気良く駆け回ってると聞いてすぐさま響はその光景を頭に浮ばせる…人間の子供というものの行動範囲は恐ろしく広く、この家の裏にある不浄山の向こう隣とあって此処からかなり遠い場所にある穢山へでも平然と行ってのける事が出来る牧志にサンディアはすっかり呆れていた。
「…うっ…うう…っ!!こうなったらボク達も今すぐイこう!穢山に!!マキ君が心配だもの!!」
「「え?朝食は???」」
「ンなもん後だよ!後ォオオオオオ!!帰ってきたらいくらでも食べさせてあげるから協力してッ!!」
「…今からアソコ、に?正気?それじゃ時間かかり過ぎて朝食が昼食、最悪夕食になるじゃないか…」
「げぇっ!?や、やっぱり疫病神だわ!!あのバカガキィイイイイイ!!んああああああ!!」
心配通り越してブラコン拗らせてるんじゃなかろうか?と、思うくらいリューカはいてもたってもいられずに穢山に突撃遠征しにいくことを決行、空腹な上に無気力な二人は当然ながらそれを聞いてただでさえ無いヤる気をますます削がれ、しかも下手したら朝食どころか食事さえも長時間お預けになりかねないくらい遠い場所のため響はガクリと頭を項垂らせ、サンディアは忌々しい疫病神(牧志)にまたしてもヤられたと絶叫を上げた…。
数時間後、穢山・山中にて…。
「マキ君ーーーーーーー!!マイブラザーーーーーーーー!!どこォオオオオオー!!?どこでナニをシてるのォオオオオオ!!君の大好きなお姉ちゃんはここだよォオオオオオ!!」
「おーい…マッキ、どこー?」
「どこイキさらした!?クソガキィイイイイイ!!アンタのせいで私ゃ飯ヌキじゃないィイイイイイ!!」
山中に入って早々、リューカは涙目でブラコン全開な呼び掛け、響はやる気の無い気怠さ全開の棒読み声、サンディアは私怨丸出しな怒号を響かせながら穢山を登っていく…。
「ねえ!?ちょっと!!本当に此処にいるんでしょうねぇ!?返事すら無いんだけど!?」
「おいいいいい!!ボクの弟が嘘ついてるとでも言うのか!?マヌケェッ!!」
「リューカさん、サンディアも落ち着いて…もう、本当にマッキの事となると見境つかなくなるなぁ、相変わらず…。」
三人が穢山に着いた頃には既に昼に差し掛かってしまい、朝食が結局食べられず終いになったためサンディアの怒りは既にピークに達しており、そのイライラをリューカにぶつけるが彼女もまた愛する牧志が居ないというだけでも耐えられないのか?完全にガチギレしてサンディアに食ってかかっていた。リューカの牧志への溺愛ぶりは知り合いということもあってか響はよーく知っていたためいつものことだろうと溜め息混じりに醜い争いをする二人の事など止めるつもりもないのだろう…バカを見るような冷たい蔑みの目で静観していた。
「大体、家族なら躾ってもんをねぇ…!!ん?」
「ああん!?なんだと、この…むぐっ!?」
「………静かに、アンタもよ?」
「…………っ。」
「とりあえず、こっち…!」
サンディアはここで何かに気づいたのか、突如、争いを強制終了させるかの様にリューカの口を手で塞いで黙らせ、小声で静かにするように告げると響にも同じことを言った。彼女の表情は真剣そのものでありどうやらただ事では無いと悟った響は無言でコクリと首を頷かせて肯定の意志を見せた瞬間にサンディアは二人を連れて草むらに隠れた。
(…なんか変な奴らがウジャウジャいる?)
(アイツら全員魔族よ、なんだってこんなところに…?)
草むらから外を眺めてると山中の木々を掻い潜りながら忙しなく飛び回る人型のスズメバチの姿をした複数人の虫人間…否、殺人蜂族の姿を目撃した。
「探せ!あの女は人間界にいるはずだ!時間は経ってるが人間界の
地理に慣れてねぇだろうからそう遠くには行っていねぇ!!俺様は他の場所を探すから見つけたらすぐに報らせろよ!?いいな!!」
「「「了解です!バズソードさん!!」」」
どいつもこいつも似たような姿をしている彼らの中で一際目立つ外見…頭には黒いバンダナを巻き、右の複眼には蜂の巣の模様が入った眼帯で覆い、先端部分がフック状に折り曲がっている毒針が生え月桂樹を幾重にも巻きつけ異常に発達してる巨大な左腕、右手の甲には何故か不死鳥の刻印を入れ、大量の派手な金と銀のピアスを交互に入れうっすらと髑髏顔の蜂の紋様が浮かんでいる鋭い剣の切っ先を思わせるような形をした羽を背中に生やしたリーダー格の殺人蜂であるバズソード・ニードルビットは舎弟としている他の殺人蜂族達に何やら指示をしていた。会話の内容から察するにどうやら彼らは誰かを探しに人間界にわざわざやって来たようだ。
バズソード達殺人蜂族は元々、魔樹原の森林地帯を縄張りにしている魔界の一種族に過ぎなかった。だが、あの日…突如、侵攻してきた『不死鳥の軍勢』の猛威を目の当たりにした瞬間、即座に領主であるリクス・ヴァジュルトリアを裏切った。そして今では『不死鳥の軍勢』に上手く取り入ってもらうことに成功し、下部組織の一つ『スティンガーズ』を立ち上げてその傘下に加わったという最低野郎共の集まりであった。バズソードのみならず全員の腕や手の甲にに共通して黒い不死鳥の刻印が入っているのが『不死鳥の軍勢』ならびにその頂点に立つ新たな魔界の支配者・燐神嵐への忠誠の証以外の何者でもない何よりの証拠だった。
「ヒャハハハハハハ!!これであの女の首を獲れりゃあ、一気に昇進決定だぜぇ!!しかも報酬もザックザクのボロ儲け!!ゆくゆくは幹部の一人に加えてもらえるに違ェねぇぜ!!」
ゲラゲラと品無く笑い飛ばしながら最早出世の事しか頭にないバズソードは舎弟達の一部を連れて別な場所への探索のために飛び立ち、残りの舎弟達と別れた。
「…あいつら一体何の話をしてるの?」
「もしかして、サンディアさんの追手?」
「ハンッ…まさか、私が以前居た先遣隊にはあんな連中は居なかった…恐らく、別の誰かが目的でしょうね。」
その場に残ってる残りの殺人蜂達も全員別方向に飛び去ったのを確認すると三人は慎重に草むらから出てきた。彼らは誰かを探している様子ではあったがそれはサンディアではない、そもそも刺客ならば彼女が所属していた先遣隊の誰かしらが派遣されるはずなのでその可能性はすぐさま消えた。
「ど、どうしよう!この山にはマキ君がいるのにあんな奴らが居たら危険だよ!!うわぁあああああ!!嫌ぁああだぁあああ!!」
「こっ、このバカ!?そんな大声、今出すな!!」
牧志を心配するあまり、顔面崩壊かと思うくらい泣き喚き出すリューカはかつてサンディアもやっていた女を捨てたような駄々っ子ダンスを披露したため、もしかしたらその声で先程の殺人蜂族達が戻ってくるかもしれない恐れがあったのでサンディアは直ちにやめるように制止したが…。
「ンだよ!!うるせぇな!?美味そうな木の実が生ってる木があるの思い出したから戻って来りゃ…あ。」
「「「あ。」」」
…時既に遅し。ついさっきまで居た場所には木の実やキノコが生えてる木があちこち生えており、それを目当てに寄り道として引き返してきた一人の殺人蜂族がいきなり聞こえてきた謎の声…否、リューカの声のあまりのうるささに激怒し、怒鳴りながら草むら近くに殴り込むとそこで見慣れぬ妙な三人組…サンディア、リューカ、響と目が合ってしまい、双方どちらも一瞬だけ化石の様に固まった。
「だ、誰だ!?おま…えらっ!?」
「丁度良いわ、ねぇ?教えてくんない?アンタ達ナニ探してんの?」
「な、なんで、テメェに言わなきゃなんねん…!!」
「頭が爆発四散したくなきゃサッサと白状した方が身のためじゃない?ンフフフ♪」
「だぁああああ!!?い、言います!いえ、言わせてください!だっ、だから…殺さないでェエエエエ!!」
此処で一体何をしてるのか尋ねたが当然ながら殺人蜂族は一度は断るもののサンディアはそれを言い切らせるよりも早く鳳仙花の花弁を纏わせた右手で相手の頭を掴んでの爆破解体宣言をして脅迫した。流石にこれには反抗出来ずに殺人蜂族は生命の危機を瞬時に察し、命乞いと共に白状するしかなかった…。
一方、その頃…。
(…今日も来てくれるのだろうか…?)
穢山の奥地、多くの木々が覆い繁るあまりに太陽の光が殆ど差し込まないこの場所で一本の木を背に座り込みながらリクスは人を待っていた。その相手とは…。
「こ、こんにちは…」
「牧志…!」
そう、人間界に来た時に出会った現地の人間の子供…牧志であった。顔を赤らめながら現れた彼を見るや否や、リクスもまた無意識ながらも再会が嬉しいと思ったのか、穏やかな笑みを浮かべ…それに呼応するかのように背中に咲かせてるライラックの花の数がみるみるうちに増えていく。
初めての邂逅の時以来、余程忘れられなかったのだろうか?牧志はあの日以来、毎日穢山に来ては心身ともに疲弊していたリクスに飲食物の差し入れを持っていったり、彼女にとって右も左も解らない人間界についての話などもしてあげるなどの事を繰り返していた。
「あの、これ…。」
「いつもすまないな、ふむ…あむ、ムシャムシャ…人間界の食べ物はどれも興味深い、そして美味いな。」
牧志は握りしめていたビニール袋を開けて自宅の冷蔵庫から失敬してきたジュースの類やコンビニの菓子パンなどをリクスに渡すと、彼女もまた普段から貰ってるためか、完全に人間界の食べ物を気に入ってるようで終始御満悦の様子で食していた。
(顔、綺麗だな…お目々もキラキラしてて、宝石みたいだな…。)
牧志はゴクリと唾を飲み、その様子を…リクスの顔を食い入る様に見つめていた。人間界の世間一般的に見ればリクスはサンディア同様文字通りの非現実的な美しさを誇る少女であり、特に暗い金色の瞳にある妖しい輝きは牧志の心を魅了して離さなかった。
「ふぅ、満足した…感謝するぞ。牧志。」
「んふっ!?ありがとうございます…。」
「?負担をかけてしまってむしろ申し訳ないのに…何故、私に礼を言う?変な奴だな…。」
差し入れを完食し終えたリクスは牧志を自身の胸元に来るように優しく抱き寄せて彼の頭をそっと撫でた。牧志は完熟トマトの如く赤い顔をリクスの胸元に埋め、柔らかな白い素肌の感触と低めの体温に溺れ、姉であるリューカとも、最近やって来たサンディアともまた違う未知の魅力的な年上の女性である彼女とこの様な大胆な接触が出来たせいか、思わず感謝の言葉が出てしまっていた。
(うわ、わわわ…!!おっぱい凄い柔らかいしほのかにヒンヤリしている…あと凄く良い匂い…!!)
鳴我牧志、小学四年生の齢十歳、やはり彼も男であった…。
(…何をやっているんだ?私は…あれだけ神嵐達を殺すと息巻いておきながら…こんなに幼い子供の世話になりっ放しで、何もしてないではないか…)
神嵐により魔樹原を焼き払われ、眷属の殆どを皆殺しにされ、蹂躙され尽くされたばかりか、生きて復讐、ならびにヴァジュルトリア家の再建を遂げるためとはいえ自身も故郷を追われて人間界へと逃げることしか出来ず、挙げ句…頼れる者が今日まで支えてくれた牧志だけで更には彼の世話になってるだけという現状…本当にこのままでいいのか?そう考えながらリクスの表情は段々と不安に駆られた暗いものになっていき、牧志を抱き締める腕が小刻みに震えていた。
「…リクス、さん?」
「…牧志、今の私には…何もない、詳しいことは話せないが…私は全てを失った。いや、奪われたんだ。」
「…うん。」
「…以前の私になら、今まで世話になった分の礼を少なくともあげられた。しかし、今の私ではお前にそのための何かを与えてやることは出来ない…。」
「…うん。」
「…この恩を何かで返せるとしたら、『コレ』しかない…ンッ…!!」
「…!?」
リクスはそう言うと、躊躇いなく…目を閉じながら、これまでの話を静聴していた牧志の唇にキスをした。
「ンッ…ン、クッ…う、くぅっ…!はぁ…はぁ…。」
「ンン、ンン~!?ぷはぁ!え?ええ?な、なんで…!?」
「牧志から受けたこの恩を返せるもの、それは…『私自身』だ。これしかもう残ってない、この心、この体、全てはお前のものだ。好きにしてくれ…」
何もかも考える暇もなく逃げ去ったため確認することは出来なかったが故郷にあるヴァジュルトリア家の財産など恐らく既に家と共に燃え尽きただろうし、何かを持っていく様な余裕も無かった、そのためリクスは牧志に対して何か物的な謝礼が出来ず、何をしたらいいのか?何をすれば牧志は喜んでくれるのか?それが解らずに最後に行き着いた答えがなんとリクス自身の身も心も…全てを彼に捧げるというとんでもないものだった。
「…とはいうものの、その…いきなりすまなかった。まだ幼いお前にこんなこと、こんないやらしいことをして、最低だな、私は…。こ、こういうことはなにせ初めてで…これで嫌いになったのなら、それでも構わない、私は…。」
しかし、自分よりも幼い少年の牧志になんの了承も得ずにいきなり唇を奪ってしまった事に対し、はしたなさ、罪悪感、そして最悪の場合…彼からの拒絶という不安と絶望があったためか、リクスは今にも泣き出しそうな…親とはぐれた迷子の様な顔で声を震わせながら、今尚事態を飲み込めずに戸惑う牧志に謝罪をした…すると。
「…ンッ!!」
「ふぁっ…!?ま、牧志…?ンンッ…!あ、あぁ…くぅ…!!んぁ、ンン………。」
すると、今度はなんと、牧志もまた不意打ちするかの様に低い背を必死に伸ばしてリクスの唇にキスし返し、突然のこの行動にリクスも反応出来ず、だが驚きはしたものの一切抵抗せずにそれを受け入れた。
「…はぁ、はぁっ…牧、志…?」
「こ、こういうのはちゃんとお返事しないとね…僕も初めて、だけど…」
「…え?」
「僕で本当にいいの?ええっと…その、上手く言えないけど…嬉しい!」
「…ッ!!?」
二度目のキスをリクスへの返事代わりにした後、牧志は嘘偽りや気の利いた口説き文句などという変な飾り気が無い純粋な好意の言葉を彼女へとダイレクトに伝えた。
「い、良いのか!?私は…私は人間ではないんだぞ!?尻尾や、背中に花だって生えてるし…!!」
「え?だって似たような人もういるから、別に…なんとも?」
「おい、ちょっと待て!?今、とんでもないこと言わなかったか!?私以外にも似たような奴がいるだと…?それはまさか魔族…!?」
リクスは人間である牧志が自分の様な魔族…人外中の人外を本当に受け入れるつもりでいるため彼の正気を疑ったが、その点に関しては既にリクスよりも一足早く人間界にやって来たサンディアによって耐性が付いてるためなんら問題もなかったが、逆にリクスは自分以外の魔族の存在に驚愕したためその事について詳しく問い質そうとしたが…。
「…フフッ…だが、そんなことは、今はどうでもいいか…改めて名乗ろう、我が名はリクス・ヴァジュルトリア。元・邪眼蜥蜴族の名家・ヴァジュルトリア家の第十四代目当主…だが、今はお前のものだ。この身もこの心も、全てを捧げ、愛することを誓おう…。」
「僕も!大好きだよ!リクスさん!」
…しかし、今のリクスにとって牧志の事で頭が一杯だったし、牧志もまたリクスの事以外考えられる様な状態ではなかった。
「コホンッ…う、うむ…その、あの…牧志…がっつくようで悪いのだが…はしたないことは解ってる!解ってはいるのだが!それを承知で頼む、もう一度だけ、私と口づけをして欲しい…。」
「いいよ!!」
「…フフッ♪ありがとう、牧志…♪」
リクスは牧志と交わしたキスの寒色が忘れられないのか?もう一度だけキスすることをねだってみたが今の彼が断る訳もなく、返事は無論…速攻でOKだった。無意識にリクスは柔らかな…それでいて今まで浮かべたことの無いような恋する乙女の様な愛らしい笑顔を浮かべ、嬉しさのあまり思わず牧志を押し倒し、背中のライラックの数を更に増やした。また、その全てが満開だったのは言うまでもない…。
ところ変わってサンディア達はというと…。
「随分と奥まで来たけど見つかんないわねー?もうとっくに野垂れ死んでんじゃないのー?」
「マキ君、勝手に殺すな!テメェを殺すぞ!!」
「あぁん!?」
「マッキは一体、どこまで行ったんだ…ん、花弁…?」
どうなってるか知らないだけでサンディアは面倒臭そうに普通に生きてる牧志を勝手に死んだなどと適当な事をしたためにブラコン拗らせてキャラ崩壊しているリューカをキレさせてしまった。マジなケンカ一歩手前のバカ女二人のやり取りを無視しながら響はというと自分達が現在踏み入れた森の奥地にて、風に乗せられながら舞う何かの花弁に気づき、ある一本の木を見るとそこにいたのは…。
「はぁ、はぁっ…んっ♪んっ…♪牧志♪牧志…好き、愛してる…♪ん、くっ…あ、あぁっ…♪」
「フゥー…フゥー…!リクスさ…いや、リク姉ェ、僕も…オレも好き!あむっ…ンン~!!」
一人は恐らくサンディアと同じく魔族だろう蜥蜴の尻尾と背中全体を覆い尽くさんばかりに咲き乱れてる先程の風に乗って飛んできたものと同じ花弁を持つ大量の…ライラックの花を咲かせてる無邪気な笑顔で笑う見知らぬ少女…リクス、そしてもう一人は少女の笑顔に応えるかの様に同じく満面の笑みで笑う自分もよく知る年端もいかぬ小学校低学年の少年(十歳)…否、現在進行形で捜索中だった件の問題児・牧志。彼が見つかったのはいいが、問題は二人のヤッてる行為だった。
リクスに地面に押し倒される形で牧志はお互いにまるで恋人同士としか思えぬ様な幸せそうな笑顔で、二人でキスし合っていたことだった。
(な!?な、な、な、なぁあああああ!!?なんじゃこりゃぁあああああ!!?)
感情の起伏が乏しい響も驚きの余りにまるで稲妻にでも撃たれたにも等しいだろう激しく動揺し、口を開きながら普段の彼らしからぬ心の叫びを発しながら絶句した…そして、瞬時にまだこの非常にヤバイ事案発生に気づいていないリューカとサンディアの方へと体をクルリと向けて、こう告げた。
「帰ろう、リューカさん。マッキは死んだ。」
「はぁっ!?」
「ん?どうしたのよ?急に?」
「(僕達の知っている)マッキは、死んだんだ。だから、帰ろう。」
「響君ンンンン!?どういうこと!?ねぇ!?どういうことなの!?」
響は先程の狼狽ぶりはどこへやら?いつも通りの無表情でサンディアの言っていたような適当過ぎる嘘のように牧志を勝手に殺して今見たものを見なかったことにし、このまま下山することを提案してきた。突然の諦めモード全開な発言にサンディアはともかく、流石にリューカは驚愕するしかなかった。確かに響は普段こそドライな所があるが誰かを本格的に見捨てる事は殆どない一面もあるせいか本当に彼がこんなことを言うのはまず有り得ないからだ。
「…響君、ボクに何を隠してるの?」
「知らない。何も見てないし、隠してない。」
「ちょっ…!?アンタ、生まれたての尖鹿獣族の子供みたいに足ガクガクよ!?」
リューカに追求されても響は平静を保ってるつもりだったがこればかりは隠し通すのは精神的に無理だったのか?無意識の内に足を尋常じゃない程に震えさせていた。彼のこの初めて見た反応にサンディアは思わず魔界の魔族である鹿型の獣人種の尖鹿獣族の様に例えた。
「それにさっきから遮る様にボク達の前に立ってるけど、何かある…?」
「あそこに誰かいるわよ?」
「…ハッ!?見るな!見るんじゃない!見たら死ぬぞ!!リューカさん!!サンディアも見るな!むしろ止めろォオオオオッ!!」
必死の叫びも虚しく…サンディアはともかくリューカは遂に響をここまで駆り立てる要因となっている『原因』をついうっかり、直視してしまった…。
「牧志…♪」
「リク姉ェ…♪」
「……………。」
「だから見るなと…!言ったのに…!!」
「?あのガキんちょ、ナニをシてるの?」
未だに互いの唇から離れる様子がなく貪るように口づけを続けているリクスと牧志のキスシーンを見たリューカはショックのあまり白目を向きながら口からカニみたいに泡を吹いてその場に崩れ落ち、響は止めることの出来なかった己の無力さを悔いて同じタイミングで崩れ落ち、サンディアに至ってはリクスと牧志の行為の意味を理解出来ずに不思議そうに首を傾げていた。
「ま、牧志…今度は…その、口づけよりももっと『先の事』をシよう…その、ダメだろうか…?」
「はい!喜んで!!」
リクスは自分の言ってる事の意味を知りつつも羞恥のあまりに着てる黒いドレスをそっとはだけさせながら、即答した彼の了承を得て、更にヤバイ行為に至ろうとした…この会話を聞いたリューカはビクンビクンと陸に打ち上げられた魚かと思うくらい激しい痙攣を起こした後、この場に心電図があれば間違いなく生命の停止を告げる無機質な音が聞こえるだろう…。
「死んでいる………。」
リューカ…鳴我流霞は死んだ。未だに一緒にお風呂に入るくらいブラコンを拗らせる余りに最愛の弟が見知らぬ女性と大人の階段の頂上に登ってしまったというあってはならない現実を直面してしまった結果…心臓に大きな負担が掛かって心配停止状態に陥ったのだ…。
久々の投稿、如何でしたか…?私の不安は前半はともかく問題は後述のリクスと牧志が大半だと思います
数日間久我山家で居候していたせいですっかり馴染んだサンディア(?)響の生活力の無さに合わさったせいでますますポンコツダメ魔族になってきてる気が、それに加えてリューカが異常なまでにブラコンだという新たな点も出来たりしました。
バズソード・ニードルビット/殺人蜂族(イメージCV:高木渉):今回のゲスト枠にしてリクスを裏切り神嵐側へと寝返った典型的なチンピラタイプの魔族かつ殺人蜂族を大勢率いた新興組織『スティンガーズ』のリーダー、声はチンピラボイスが似合う高木渉さんをイメージしながら書いてました。咲いてる植物は月桂樹、花言葉はそのまんま『裏切り』です。
本来ならばメインヒロイン(サンディア)とメイン主人公(響)が先に至るべき到達点であるはずの恋愛描写を何を血迷ったのか…久我山家や鳴我家でだらけまくるダメダメな主役二人をガン無視して牧志とリクスに施すという暴挙に出てすみませんでした…(泣)。キス以上のその先の行為に至ると18禁突入案件になりかねないので寸前のところでストップさせましたが、今思えば二人の幸せモードを見せてリューカがショック死するのを書きたかっただけというおふざけをしたかっただけだと思います(汗)人間と魔族…つまり人外の種族間の壁は厚いと思われますが互いが互いを信じることが出来れば可能性はゼロではないはず、多分…(←断言しろよ)。
尚、前回も明記したと思われますが(←うろ覚えか)、『ホウセンカ』に出ているリクスは別作品『魔界食糧生産期』のリクスとはあくまで見た目と名前が同じパラレル的な別人ですので性格が違うだろとかそういうツッコミは無しでお願いします(汗)それに加えて牧志にまである変化が…ここは次回に明かそうと思います。
次回は当たり前ですが死んだリューカが復活してリクスと波乱の一悶着、そしてバズソードの一団との衝突を予定しております。それではまた、槌鋸鮫でした!