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第六片-折れぬ遺枝-

お待たせ致しました。例によってかなり長いので閲覧の際には御注意くださいませ。

時を遡ること数刻前…魔界(ヘルブラッディア)の森林地帯ならびに草原地帯・魔樹原(ヘルフォレスト)


草原側には人狼(ワーウルフ)族、河馬巨頭(ベヒーモス)族、牛頭魔人(ミノタウロス)族といった数多くの獣人の野盗がのさばり、森側には一度入ったが最後二度と出られぬ無限の広大なる迷いの森『帰らずの森』があり、そこでは蜥蜴人(リザードマン)族などの魔族が中心となって生活し、羆魔(グリズリー)と呼ばれる熊型の魔獣や屍出蟲(シデムシ)などの危険な蟲妖が多く棲息しており中でも『森の魔獣王』鬼熊(オニグマ)と呼ばれる(ドラゴン)をも喰らう超巨大魔獣が闊歩していた…そのはずだったが。


「「「ギャーーーハーーーーッ!!」」」


「「「燃やせ燃やせ燃やせェエエエエ!!」」」


「「「ヒャハッハッハッハッハー!!皆殺しにしろォオオオオオオッ!!」」」


激しく燃え盛る焔の翼を広げる黒い不死鳥のシンボルマークに『PHOENIX-LEGION'S』と綴った軍旗(フラッグ)を掲げ、全員共通して腕や手の甲に不死鳥の刻印を刻んだ女帝・燐神嵐(リン・シェンラン)の率いる魔熔山(ヘルラーヴァ)出身の魔族達を中心とした一大軍団『不死鳥の軍勢(フェニックス・レギオンズ)』が帰らずの森に火を放ち、樹海を火の海に変えながら総力を挙げて侵攻してきたのだ。


既に森の大半が彼らの手により焼き尽くされ、あちこちに蜥蜴人族や小鬼(ゴブリン)族、風妖(シルフ)族…抵抗の末に無惨な黒焦げの焼死体と化した森の住人の成れの果てが散乱し、鬼熊や羆魔といった魔獣の類に至っては五体バラバラの惨殺死体としてその辺に打ち捨てられていた。


「魔熔山の奴ら!何故この魔樹原を狙うんだ!?」


「それに魔熔山の連中だけじゃないぞ!魔海に魔氷河、魔墓場、魔熱砂…他の地域の魔族まで引き連れてやがるだと!?」


まだ生存していた武装している人型のトカゲの異形である蜥蜴人の二人組は応戦するものの相手の圧倒的な戦力差…ほぼ無尽蔵としか言い様の無い敵の大軍に苦戦を強いられていた。敵の構成には魔熔山のみならず、魔界の大海域の魔海(ヘルディープ)、氷河地帯の魔氷河(ヘルグレイシャー)不死魔族(アンデッド)達の住まう魔墓場(ヘルグレイブ)、砂漠地帯の魔熱砂(ヘルディザート)など…その他、ありとあらゆる魔界の各地出身の傘下に治めた他の魔族達も戦力として投入していたからだ。


「ヒヒヒヒヒ!まだ生き残りがいたぜェエエエエ!!」


「テメェらも死にやがれ!!オラァアアアア!!」


「げへへへへ!!殺すの楽しいなぁー!!」


「う、うわぁああああ!?」


「やめろォオオオオオオッ!!」


そうこう話してる内に魔熔山には棲息していない魔界の砂漠地帯である魔熱砂(ヘルディザート)出身の山羊の様なネジくれた四本の角を頭に生やしてる竜巻を模した手甲を身に付けた白銀の異形の魔人…暴風迅(ルドラ)族、魔墓場出身の黒いローブ姿に巨大な大鎌を携えた髑髏の異形である死神(グリムリーパー)族、魔海出身の全身が青白い炎に包まれた幽霊の如く半透明な人間大の浮遊するクラゲ…火玉海月(ヒノタマクラゲ)族の兵士が蜥蜴人の内の一人を強襲した。また一人此処で命を散らすかと思われたその時だった。


「んげっ!?」


「だ、誰だ!?テメ…みぎゃあああああ!!?」


「え?あ?え、えべぇえええええ!!」


一人の蜥蜴人に寄ってたかって襲い掛かろうとした魔族達は背後に現れた何者かの振るった巨大な黒い鉱石で出来た斧により首を跳ねられ、醜い断末魔を上げて三人同時にまとめて絶命し、血飛沫を飛散させながらバタリと倒れるとそこに立っていたのは暗い金色の瞳と黒い鱗や皮膚を持ち、全身から黒い鉱石をアチコチに生やし、先端にかけて鉱石を寄り集めた長い尾を持ち、背中から尾にかけてライラックの花が咲いている蜥蜴人とはまた別の蜥蜴型の魔族の邪眼蜥蜴(バジリスク)だった。


「フンッ…油断した貴様らが悪い。」


「「「リクス様ッ!!」」」


この邪眼蜥蜴の名はリクス・ヴァジュルトリア、魔樹原全域を治める邪眼蜥蜴族の名家・ヴァジュルトリア家の現当主たる少女であり、今の蜥蜴じみた姿は本来の姿とは別の戦闘形態である。


「お前達!戦況はどうなっている!?」


「は、はい…それが…東と西の方は既に陥落しました。他の蜥蜴人は勿論、狗頭人(コボルト)族、刑死呪草(アルラウネ)族、人馬(ケンタウロス)族…全て皆殺しにされてます。」


「北と南は更に酷いですね…我々が苦労して手なずけ戦力化させた鬼熊や羆魔まで全滅です。中には降伏して向こうへ寝返った魔族までいるそうです。」


「クッ…最悪だな。」


リクスが自身の眷属である蜥蜴人達に戦況を訊ねたところ魔樹原側の魔族は完全に劣勢に立たされていた。全滅か裏切り、悪い知らせが二つあるだけで何一つ此処から好転出来る要素が無い…。


「はい、残念ながら…このまま行けば我々の敗北は確定です。」


「…そうか…。」


例えリクス一人が奮戦しようがどのみちこの戦力差をひっくり返せるような奇跡など都合良く起きるわけがなく、蜥蜴人からの諦めの言葉にさえ激昂せずにむしろすんなりとその事実を受け止めた。


「リクス様!せめて貴女だけでもお逃げ下さい!」


「幸い今の貴女は戦闘形態、それを解除させれば奴らは誰も貴女だとは気づかないハズ…このまま逃げ切れます。」


蜥蜴人達は最早これまでと思い、主人であるリクスに『逃げろ』と嘆願してきた。戦闘形態のリクスの素顔は彼ら以外の者には誰にも解らないため確かに解除すれば気づかれずに逃げられるだろう…だが、それは同時にリクスに蜥蜴人や森の住人達、彼らを見捨てる事になる。


「…お前達を残して、か…?」


「我々はどうなってもいい、ですが…お願いします!貴女は生きてください!」


「この森も我々ももうダメです。しかしリクス様が生きていればまた一からやり直せます!!」


(無理を言う…お前達全員の命など私一人で背負い切れるものじゃないだろう…)


確かに彼らの言うように魔樹原の住人が全滅しようがリクスさえ生きていればやり直しはいくらでも利くだろう…しかし、『生きろ』と、彼ら魔樹原の住人達全員の願いはこの地域を治める若き当主たるリクスが一人だけで背負うにはあまりにも重過ぎ、本当に彼らを置いて逃げてもいいべきか迷っていた…。


「へっへっへっ…魔熔山の皆様、此処ら辺が奴らの本拠って奴ですぜ!!」


「アオーン!!居たよ!居たよ!敵が居たよーーーー!!」


「フハハハハハ!!でかしたぞ!ムシケラ共よ!貴様らの種族は神嵐様に口添えして我らの傘下に加えてやろう!!」


「ギャハハハハハハ!!ありがとうごぜぇます!!」


「殺人蜂族…!?あいつらも裏切っていたのか!!」


「あのクソムシ野郎共がぁあああああ!!ふっざけんなぁあああああ!!」


…と、ここで左腕が巨大な毒針になっているスズメバチの姿をした魔族達…殺人蜂(キラービー)族の集団が『不死鳥の軍勢』を引き連れて来た。どうやらこのムシ野郎共はリクス達魔樹原側を裏切り『不死鳥の軍勢』側についてしまったらしくそれを見た蜥蜴人達は激怒した。


「あ?うっせーよ、バーカ!力のある御方につくのは自然の摂理、否、魔界の摂理だろうが!ボケ!」


「ヴァジュルトリアの小娘なんかのために戦ったって未来は無いからな!だったら甘い汁を啜れるコッチについた方が百倍マシだぜ!!」


彼ら殺人蜂族達の暴言の数々は尤もだった。この圧倒的な戦力差という絶望を見せられて何が悲しくてリクス達のために命を張らなければならないのか?元から殺人蜂族達は彼女に対する忠誠心はからきしだったので今回の事は裏切るには良い機会、その上新たな魔界の支配者たる神嵐につけば自分達の未来は安泰なので尚更であり裏切り行為を平然とやる実に魔族らしい言い分であった。


「それに此方の方々をどなたと心得る!?我らが女帝・燐神嵐様の側近であられるマウザー様とザイオン様だぜぇ!!」


「フハハハハハ!これでまた手柄が増えたな!!」


神嵐の側近にして最高幹部である二人の魔族…一人は『不死鳥の軍勢』の構成員としては珍しく体の何処にも黒い不死鳥の刻印を入れておらず、全身が焔を模した刃で出来た剣の魔人といった印象の見た目に顔にはメラメラと焔を溢す橙色の四つ眼が不気味に輝き、両肩にテッポウユリの花を咲かせ、背中に靡かせているマントには焔に包まれた剣の紋様を入れてる煉獄剣(スルト)族のマウザー・インフェルテイン。


「アオーン♪ワンワン♪ワォーーーンッ!!」


もう一人は陽気な声で遠吠えをしまくる全身黒い体毛に覆われ、首には鉄製のトゲが生えた首輪をつけ、右手には長さが余った首輪の鎖を幾重にも巻きつけており、両足は黒い(もや)がかかっていて見えず、頭頂部にフリージアの花を触覚の様に生やしており、胸元には黒い犬の紋様を刻み、腹は何故かポッカリと穴が開いてるせいかカバー代わりに鉄格子で閉じ、爛々と輝く明るい黄色の眼を持つ犬型の獣人…黒牢犬(バーゲスト)族のザイオン・ザッシュ、ちなみに彼もマウザーと同じく不死鳥の刻印を体に入れていなかった。


「ワンワンワン♪ねえねえ?リクスって人はもしかしてそこの黒い蜥蜴の人カナー?マウザー君?」


「らしいな?敵ながら此処まで持ち堪えた事は誉めてやるがそれも今終わる…リクス・ヴァジュルトリアよ。貴様の素っ首、我が主・神嵐様に捧げる。」


(ここまでか…!!)


ザイオンとマウザーが敵将(リクス)の存在に気づいてにじり寄ってきた…リクスは本能的に幹部の二人は自分より遥かに強い手練れであることを悟り、死を覚悟したが…。


「「させるかよォオオオオ!!」」


「ワンッ?」


「なんだと!?」


「お前達!?」


そうはさせまいと蜥蜴人達が無謀にもザイオンとマウザーに組み付いて妨害し、リクスを守る様に必死に踏み留まる。


「ふざけるな!薄汚いトカゲの分際で!!」


「がっ!?」


「ウウウ…ワォーーーン!!」


「ぎゃあああああ!!?」


「やめ…!!」


だが無力というものは実に悲しいことである。一人は左腕全体を巨大な剣に変えたマウザーに串刺しにされ、もう一人はザイオンに首を掴まれて地面に叩きつけられる。それを見たリクスは二人の蜥蜴人を反射的に助けようとしたが。


「い、言ったでしょう?俺達はどうなっても…グフッ…いい、と…」


「は、早く逃げ…」


「…ッ!!」


しかし二人の蜥蜴人は震えながら手を突き出し、『来るな』と言わんばかりにそれを制止した。もう自分達に残された時間は少ないのを知っているからこそ、ならばせめてその死ぬまでの時間と覚悟をリクスのために使おうという固い決意からの判断であった。


「…解った…お前達、私の…ために、私のために死んでくれ…!!」


「わ、我々の最後の願い…を、聞き入れてくださって…ありがとうございます…ガフッ…。」


「お気をつけて…リクス、様…」


リクスはその二人の蜥蜴人の命を張った忠義(すがた)を己の眼に焼きつけた後、完全に躊躇いを振り切った上で決して後ろを振り返ることなく『ある場所』へ向かうために走り出した。


「ま、待て!?おい、コラ!離せ!離さんか!?マヌケェエエエエエ!!」


「意地でも…!離すかよォオオオオ!!」


「アォン?まだ動けるんだねー?」


「どうせ死ぬなら最後まで足掻いてやんよォオオオオ!!」


少しでもリクスが逃げるための時間稼ぎを努める二人の蜥蜴人はマウザーとザイオンにしつこくしがみつき文字通りの悪足掻きをしていた。


「えぇい!!おい、ゴルァッ!何をボケッと突っ立ってる!貴様らはカカシか!?早くヤツを追え!!」


「「「は、はぃいいいい!?直ちにィイイイイ!!」」」


蜥蜴人に邪魔され苛立ちがピークに達したせいかマウザーからブチギレ気味に逃げたリクスをすぐ追うように命じられ、殺人蜂族達は羽根を広げて飛び立ち、リクスを追跡し始めた。


「あのアマァアアアア!!どこ行きやがったァアアアア!?」


「探せ!まだそう遠くに行っちゃあいねぇ!!」


「オラァアアアア!!出てこいやァアアアア!!」


しかし、燃え盛る森の中を探せど探せどリクスらしき姿などまるで見つからない、黒い鉱石に包まれた大柄な蜥蜴という一目見れば一発で解るわりかし目立つ姿をしているのだがそれでも見つかるのは『不死鳥の軍勢』が虐殺した蜥蜴人族や他の魔族の死骸だけだった。


「………行ったか、よし。」


隠れていた木陰から殺人蜂族達が遠くへ行くのを確認するとエリマキトカゲのような皮膜が生え、色素の薄い白銀のロングヘアーを軽くポニーテール状にし、気難しそうな堅い表情に暗い金色の瞳、華奢な肢体に纏う黒いドレス姿、胸元の素肌には蜥蜴を模した黒い紋様が描かれ、臀部に鉱石を寄せ集めたような外見の黒い蜥蜴の尻尾が生えた小柄な少女…否、戦闘形態を解除した状態のリクスは足早に走り出す。


「………私は生きる。生きて眷属達(アイツら)の死に報いる…そして………。」


森の奥地故に火の手まだ回っていない古い洋館…リクスが長年暮らしていたヴァジュルトリア邸の扉を開き、エントランスの絨毯を乱暴に剥ぎ取り、そこから現れた地下室へと通じる隠し階段を降りた。


「………燐神嵐…マウザー…ザイオン…!!奴らを、殺す………!!」


埃を被った様々な道具や書物が散乱する地下室にある無数の骨が埋め込まれまるで封印されてるかのように血錆が染み付く鎖で幾重も覆われた黒い木製の扉…魔界各地に幾つか存在しているとされてる別次元へと繋がっている魔界門(ヘルズゲート)の鎖を引き千切りながら中へと飛び込んだ。自分の領地を殲滅した怨敵…『不死鳥の軍勢』への復讐を胸に抱きながら。


その頃、人間界…禍津町・久我山家にて。


「………って、訳よ。」


「…サラマンダー…じゃなくてサンディアさん…今、なんて?」


烏眼坊との一戦後、現在の魔界で何が起きてることなど露知らず…サンディアは響、リューカに言いかけた魔界の魔族達の企みを改めて暴露した。ちなみに牧志は勝手に外へ遊びに行ってしまっているためこの場にはいない。


「アンタ達、耳聞こえてないの?もぐっ…だから言ってんじゃない?私がこの人間界に調査しに来た目的が…むしゃむしゃ…『あるモノ』が育つのに適した場所を探すためってね、あ…美味しいわね、コレ。」


サンディアは行儀良くテーブルに付き、リューカが家から持ってきたカステラを口にしながら先程言った事をもう一度説明した。


「『魔界樹(ユグドラシル)の種』、私達はそれを植えるに相応しい場所を探しにやって来た。」


魔界樹とはサンディア曰く、魔界の各地域…魔樹原(ヘルフォレスト)魔山脈(ヘルマウンテン)魔密林(ヘルジャングル)魔墓場(ヘルグレイブ)魔熔山(ヘルラーヴァ)魔熱砂(ヘルディザート)魔海(ヘルディープ)魔氷河(ヘルグレイシャー)魔深淵(ヘルアビス)など…ありとあらゆる地域の特定の場所に必ず一本生えている巨大な樹木であり、魔界全ての魔族達の種の生誕の役目を担ってきた生命の源でもある。


太古の時代から存在している魔界樹が落とした実から全ての魔族の元となる魔界原産の猛獣である魔獣・蟲妖・魚妖の類が産まれ、猿から人間への進化のようにその魔獣達が各地域の特色にもよるが現在棲息している多種多様な魔族へと進化を遂げ繁栄していき、それが出来ないものはそのまま野性動物さながらに無尽蔵に繁殖していったのだ。ちなみに今でも極稀に魔獣が突然新たな魔族になることがあるという。


「この魔界樹っていうのが大昔に私達魔族の元になった命を生んでくれたスグレモノでね、成長するために根付く土地の条件さえ合えば熔岩地帯だろうが氷河地帯だろうが悪環境にお構い無しに急速に育つわ。欠点としちゃデリケート過ぎるって事ね?ほんの少しでも適応しないと種が判断したら即座に腐って無くなるわ。」


「なるほど、それが上手く育てば魔獣って奴が勝手に増えては僕達人間を食い尽くし、最終的にはこの世界は第二の魔界になるって訳か。」


「フンッ…理解が早いのが逆に頭来るけどその通りよ。」


恐ろしく生命力の高い魔界樹が仮に適応して育ってしまい、無尽蔵に魔獣を産み出し…最悪、それが万が一にでも新たな種の魔族にでもなってしまったりしたらただの人間なんかでは到底太刀打ちなど出来ず、人間は全て滅ぼされ、魔界の魔族達はその後でゆっくりその有り様を見物しながらやって来ればいいだけだ。それが上層部達の企む『人間界の支配』の方法だったのだ。


「…それを止める手段って無いの!?」


「は?あるわけないでしょ?それにアッチからしたら私は裏切り者なんだし、やめろと言ってもやめてくれるわけないでしょ?っていうか、人間界がどうなろうが知ったこっちゃないわ。」


「…ま、そうだよね。そう聞かされたところで僕らに何か出来るわけでもないし?」


「人間の世界終わったァアアアア!!それに響君!?いくらなんでも冷め過ぎでしょ!!その反応ォオオオオ!!?」


魔族故に他者のことなど基本考えないサンディアのドライさ、人間の癖に既に諦めてる響の冷淡さ…二人の薄情極まるクズな態度にリューカは頭を抱えながら絶叫してしまった。


その頃、この場にいない牧志はというと、サンディアと出会った不浄山(ふじょうざん)の向こう隣にある穢山(けがれやま)へまで遠征して遊んでいた。


「今日は何して遊ぼっかなー?お?デカイ蜂の巣、蜂蜜食べたいなー。」


木登りをして遊んでいた牧志は隣の木にあった蜂の巣を発見し、何故そんな発想が出来るのか?あろうことか蜂蜜を貪り食おうと考え、お子様故の行動力なのか?それとも単に腹減ってるだけなのか?蜂の巣がある木へとジャンプした…。


「…あ?あーれーーーー。」


…が、距離が全然届かずそのまま落下していった。このまま大地をダイレクトに愛する羽目になるかと思いきや。


「…お?」


「…この世界の子供は…随分と大胆なのだな。」


気づけば見知らぬ少女の胸元へとダイブしていた。牧志の危機を偶然にも救ったのは背中に花を咲かせている黒いドレス姿をしている奇しくもサンディアと同じく蜥蜴の尾を生やした少女…人間界にやって来た邪眼蜥蜴のリクス・ヴァジュルトリアだったのだ。


「少年、元気なのはいいがそういう危ないことはあまり感心せんぞ?」


「あ、う、うん?ご、ごめんなさい?」


「良い、素直な者は嫌いではない。」


落ちてきた牧志を受け止めた衝撃に耐えられずリクスは彼に押し倒される形で地面に背をつけ、某火蜥蜴女の如く激昂して怒鳴り散らす様な真似はせずに冷静に諭した上で危ないことをした牧志を注意し、戸惑いながらも謝罪した彼をそっと抱き締めながら頭を優しく撫でていた。


「う?あ、あう、う???」


普段の牧志ならばよく解らないノリで悪ふざけに走るのだがこのリクスの対応に困惑するばかり…それどころか年相応の少年らしくひどく赤面していた。





牧志はリクスの輝きなど一片もないその暗い金色の瞳、自然に浮かばせた妖艶ながらも気品のある穏やかな笑み、ドレスに包まれた慎ましいサイズながらも柔らかさが充分に伝わる胸の膨らみ、そこから聴こえる心臓の鼓動、か細い両腕、気づけば彼女の全ての虜になっていた…。





どうも皆様、作者です。第六話は殆どリクスの話になり肝心の主役であるサンディアの出番が殆どなくてすみません(汗)まさかここまで長くなるとは自分でも思わず…次からはキチンと出します


燐神嵐率いる悪の組織枠『不死鳥の軍勢』、彼女の出身である魔熔山の魔族の他に既に傘下に治めた他の各地の魔族も大勢おりどこぞの仮面のヒーローの悪の組織みたいな混成組織となっています。新しい魔界の覇者である彼らに逆らえる者は現時点では居ません、現時点では(←…本当か?)


その組織の最高幹部、特撮でいうところの幹部クラス怪人枠であるマウザーとザイオン、この二人は実力こそまだ大して明かしてませんが今後の活躍をお楽しみに。尚、二人の名前の由来は埃を被るほど昔に考えた二次創作キャラから流用しました(←おい)。


サンディア同様故郷も眷属も何もかもを理不尽に奪われ復讐を誓うリクス、正直ここまでシリアスに彼女を書いたのは初めてですね、基本的にリクスはなんでもありなコメディのキャラとして考えたのでかなり苦労しました。


魔界の上層部達がサンディア達先遣隊に命じたのは魔界樹の種を植えるための場所の調査、これが一つでも人間界に適応してしまったが最後魔獣、最悪魔族が無尽蔵に増殖というバイオハザードが起きてしまい第二の魔界となってしまいますが如何せん植えられればどこでもいいというわけではない面倒な仕様になってます。加えて上層部達は既に神嵐に皆殺しにされてるので計画の実現は今のところ御破算か…勿論、ちゃんとそこは考えてます、あのバイオレンス女帝は(←燃やされるぞ)。


リクス・ヴァジュルトリア/邪眼蜥蜴(バジリスク)族(イメージCV:川澄綾子):本来ならば別作品『魔界食糧生産期』の主役キャラですがこちらにもパラレル的な存在として登場させました。ギャグ寄りなあちらと違いこちらは故郷を追われるシリアス展開なキャラになってしまった上に牧志と何やらフラグが…?今作の追加要素として戦闘形態がありますが元になったバジリスクの石化をイメージして鉱石の塊みたいな屈強な姿にし、最早主要キャラ特有の花としてライラックという花が生えています。これには『誇り』という花言葉がありますが他にも複数の意味があったりします。


マウザー・インフェルテイン/煉獄剣(スルト)族(イメージCV:関智一):神嵐の側近にして『不死鳥の軍勢』幹部コンビの真面目な方、サンディア程ではないですがこいつも結構切れやすい性格です。熱血ボイス且つ悪役もやってる関さんが何となく浮かびましたので採用、元ネタである北欧神話の巨人・スルトが炎の剣レーヴァテインを持つということから全身刃なボディになりました。生えてる花はテッポウユリ、花言葉は『威厳』など


ザイオン・ザッシュ/黒牢犬(バーゲスト)族(イメージCV:小野大輔):『不死鳥の軍勢』幹部コンビの不真面目な方、何気に魔族版牧志としか言いようがないくらいキャラ被ってますがそれは後々解決しようかと思います。声のイメージ的にはどこぞの六つ子兄弟の五男の様なハチャメチャな奴になってます。元ネタのバーゲストにかなり近い姿をしてますが鉄格子など大分アレンジを入れてます。生えてるアホ毛、もとい花はフリージア…といってもどこぞの団長が死ぬ時のEDじゃありません(←コラ)、花言葉は『無邪気』など


次回はサンディアとリクス、二人の邂逅と牧志に芽生えたある感情の変化についてやっていく予定です


それではまた、槌鋸鮫でした!

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