第十片-奇跡の恋花と悪意の毒草-
今回は珍しく早いペースで仕上がりました。至らぬ部分も目立ちますのでそこは御容赦を…
魔界から亡命してきた魔族・ランプマンの手を借りて歪んだ欲望に駆られた狂気の変態・武見遥夜の魔の手が響に迫るその前…時は遡り早朝、久我山家にて。
「響少年は出ていったか、では私も…」
響が学校に行ったのを確認するとリクスもその後に続くように外出の準備をしていた。
「ん?アンタなにしてんのよ?」
「悪いが今から私も外出する。牧志と出掛ける約束があってな…。」
「あっそ、あんなガキんちょのどーこが良いんだか…。」
リクスの本日の予定は愛してやまない牧志との外出…ぶっちゃけデートである。最初の出会いの悪さからか、未だに牧志に対して苦手意識が強いサンディアはリクスがこうも牧志に夢中になっていることが理解不能だった。
「そういう貴様はどうなのだ?響少年とは?」
「ナニが?」
(コイツ、自覚が無いのか???)
一つ屋根の下で人間とはいえ年下の少年と、それも響の両親は仕事で不在という立派な同棲状態…これで何も起きないなどと言われても信じられるわけがない、リクスは自分よりも人間界の滞在期間が長いサンディアも響に対して何かしら思うところがあるのではと聞いてみたものの、残念ながら彼女の期待していた答えは返ってこなかった。
「ふー…あまり人の事を言えた立場ではないが…貴様という奴は本っ当にタダの居候なんだな…。」
「あー!?何!?ケンカなら買うわよ!?」
呆れたリクスは小さく溜め息を吐き、冷めたジト目で響との関係の進展ゼロなサンディアを一瞥するしかなかった。
「まぁ、いい…それよりも、『不死鳥の軍勢』には気をつけろよ…何時また追っ手が来るやもしれんからな。」
「ハンッ…その時はまとめて返り討ちにしてやるわ、皆殺しにしてね。」
魔界の現在の支配者であるとリクスから度々聞かされた『不死鳥の軍勢』、いつの日にかまたリクス狙いの追っ手などが来るかも知れないため一応サンディアにも忠告したがそこは彼女らしく悪態をつきながらソファーで行儀悪く寝転び、それ以上の会話は無く、リクスは久我山家を後にした…。
その後、貯蓄されていた食料が完全に無くなってることに気づいたサンディアが家を出て響の学校まで赴き、ランプマンと遥夜が起こした吐き気を催したくなるレベルの変態的大事件に巻き込まれる事になるのだが彼女自身も知る由も無かった…。
鳴我家・玄関前にて。
「それじゃあ、行ってくるからマキ君の事よろしくね、お母さん。」
「あいよっ、行ってらっしゃい~♪」
夏休み期間であり響と同じく部活動のために学校に向かおうとしたリューカは赤毛の短髪に目が開いてるかどうか怪しいくらいに細い糸目をしておりまるで茹で卵の様なツヤツヤ肌を一層輝かせる様なニコニコ顔の母親…鳴我笑美子に挨拶を交わして出ていこうとした時だった…。
「お邪魔します。」
「ぶふぅーーー!?」
「おんやぁ???」
予告無しでいきなり最愛の弟たる牧志を恋人と称して言い寄る天敵が現れたため、リューカは激しく動揺してひっくり返り、笑美子は面識が無い彼女を見てクエスチョンマークを頭上に旋回させる。ちなみに今のリクスは人間でいうところの耳にあたる部分のエリマキトカゲ似の皮膜部分や蜥蜴の尻尾といった非人間的な部分を隠して人間の少女に見えるように擬態していたので人前に出ても問題が無いようにしている。尚、後にサンディアが食料が尽きた事に憤慨して響を探しに外出する際にも同じ事をしているがそれはまだもう少し先の時間におこることだった…。
「リューちゃん。このドえらいべっぴんさんは?新しいお友達?」
「断じて違うッ!」
「こちらの方は…義姉上の御友人か?」
「違ェーよ!その人、母!!マザーだよ、マザー!!」
「なん、だと…?」
笑美子は二児の母親ではあるが見た目だけならば殆どリューカと同年代にしか見えず、一緒に並んで歩くと友達かと間違われるくらい若々しかったため、リクスがそう間違えたのも無理は無かった。
「ムッフー♪嬉しいわーん♪アタシったらまだまだ若い子に負けてないってことかしらー!!」
「ごめん、ウチのお母さんは気にしないで…」
「そ、そうか…。」
リクスから若く見られた事に舞い上がってその場でクネクネと変な躍りを始める馬鹿親の醜態にリューカは赤面しながら無視する様にリクスに告げた…見た目若いが如何せん笑美子は調子に乗りやすく少々おふざけが過ぎる悪癖があるため、リューカからは母というよりは本当に良くて友達感覚…悪くて奇妙な生態を持つちんちくりんな珍獣扱いで接されていた。
「コホンッ…義姉上のお義母様、初めまして、御挨拶が遅れました…私、リクス・ヴァジュルトリアと申します。息子さんの…牧志君はいますか?」
「おい待てや、ナニか含みのある言い方なんだけど?ウチのお母さんを『義の母』的なニュアンスで呼んでない?ボクと同じで。」
「んー?ウチのマキに?こちらのリクスさん…?お人形さんみたいな外国人風のべっぴんさんが…ほっほーん?なるほどねぇ♪…最近ああなったのは、そういうことかー♪ムフフー♪」
リクスの中では完全にリューカは義理の姉認定なのに加えて出会って一分も経たない内に初対面の笑美子までもが義理の母扱いらしい。笑美子はリクスの顔を見つめて何かを思い出したかの様に見ていてムカついてくるニヤケ面を浮かべる。
「マキー、マキったらー!なんかリューちゃんと同じくらいの歳の女の子が訪ねて来てるんだけどー!」
「え!?母さん!?ちょっ、ちょっと待って!今イク…アッー!!」
「な!?牧志ィイイイッ!!」
「マキ君ンンンンンッ!!」
母から告げられた恋人の突然の来訪に牧志は慌てながら部屋でゴソゴソと着替えを秒単位で済ませ、そのままの勢いで駆けつけたせいか盛大に階段落ちしてしまい、リクスとリューカは激しく取り乱した。
「…ってー…まだ頭がズキズキする…また元のおバカに戻るかと思ったぜ。あ、リク姉、確か今日だよね?」
「だ、大丈夫か?牧志。約束を覚えていてくれたのは嬉しいが怪我を…」
「私の知らない間に何勝手な約束してるんだ!?」
痛む頭を押さえる牧志を悲しそうに心配するリクス…だが、サラッと二人でデートの約束を取りつけていたことを話してたので、何も知らされていないリューカは激怒した。
(ニッヒヒヒヒッ!!そっかー♪その歳でマキも隅に置けないわねー♪リクスちゃん…か。うん、間違いない!最近のマキの変わり様はあの娘が原因かー♪あの子の歳じゃ明らかに早過ぎるし、リクスちゃんとどえらい歳の差がある気がするけど…ま、いっか♪)
これまでの牧志は正直のところよく解らない生態のおバカな子供だった…それが今や軽い感じになってきたものの以前に比べたら恐ろしくまともな性格に変わり果てており、昨日の夜中まで全然手つかずだった夏休みの宿題の大半を終わらせるばかりか普通に勉強する習慣まで身につけてしまうという有り得ない行動をするようになったため最初笑美子は『別人が成り済ました偽者なのか?』或いは『遂にバカを通り越して狂気を拗らせたのか?』と息子の変化を全然信じられず頭を痛めたものの、どうやらその原因がリクスへの恋だと知れば知るほどにニヤニヤが抑えられなくなった。
「二人共…恋愛はいいけど十八禁はダメよーん♪」
「母さんンンンンン!?」
「え、あ…あの…その…は、はいっ!!御義母様!!」
「待てやコラ、母親!!言うに事欠いて注意することがそれか!?ってか、その顔ッ!なんで意味深なニヤニヤ顔なんだよォオオオオッ!!」
笑美子は母として、大人として…息子とそのお相手である少女に必要最低限の注意こそしたものの…その目は一線を越えてはならないと釘を指すよりむしろ『ヤれ♪』と言ってる様にしか見えなかったため牧志とリクスは動揺して赤面した。この馬鹿親は十八禁や下ネタなどその手の話題に対して理解があるという人としても親としても最悪な人物でもあった。二人の自制心を律するどころか自らソレをブチ壊して暴走させようとする母親にリューカがキレたのも無理は無かった。
「クソッ…もうこんな時間…!?二人共、頼むから常識の範疇に収まるような行動を心掛けてよねッ!!それじゃあ、行ってきます!!」
激しいツッコミばかりしていたせいか時間の経過は早いもので部活までの時間が迫り、こんなアホなやり取りのせいで遅刻してはかなわないのでリューカは牧志とリクスに釘を刺して慌ただしく出て行った…。
「…っよし!んじゃオレ達も出るよ!リク姉!」
「あ、あぁ…そうだ、な…。」
「ちょい待ち!」
「母さん?」
「リクスちゃんそのまんまで行くつもり?ダメよー。リクスちゃん、美人さんなんだからもっとちゃんとした服着てかなきゃ♪」
「私は別にこのままでも…え?あの…御義母様?目がなんだか怖っ…アッー!!」
「リク姉ぇええええ!?」
いざ自分達もと思った時、笑美子から突如待ったが掛けられる…その理由はリクスのいでたちだった。久我山家で御世話になる際に一応の着替えとしてリューカのものである適当なTシャツとジーンズを借りており今も着ている。リクスは世間一般的に見たら笑美子も言うように美人の部類に入るが流石にその服装でのデートはあんまりだと思ったのか、笑美子は目を怪しく光らせてリクスの首根っこを掴んでズルズルとリューカの部屋へと引きずり込んだ…。
禍津町・六道商店街。
「うう、とんでもない目に遭ってしまった…。」
「ウチの母がすんませんしたァアアア!!」
時間にして約三十分近くも笑美子の悪ノリによりリクスは着せ替え人形にされてしまったため母の無礼を息子である牧志が代わりに謝罪の土下座をする羽目になってしまった。ちなみにこの後、サンディアが響の行き先を聞きに鳴我姉弟と一足違いで鳴我家に来訪するのだが笑美子の魔の手により着せ替え人形という名の被害者二号になったという…。
「ど、どうだろうか?私はこういうものには疎いから解らないが…似合っているだろうか…?」
「大丈夫、大丈夫!似合ってるよ!オレも女の子の服とかよく解んないけど…リク姉が自分で気に入って選んだものなんだからさ、もっと自信持っていいよ。」
今のリクスの服装は本来ならばリューカのものであるが、胴体は露出した首元や肩をセクシーに見せるオフショルダータイプの黒地のワンピースに足はサンダルといった落ち着いた雰囲気の服装であった。元々服装などファッションに関して無頓着なため、笑美子から提供された数多くの衣服から最終的になんとなくで自身が選んだコレか似合ってるのかどうか解らず困惑していたが牧志はすかさずフォローを入れた…自分の選んだものだからこそ自信を持ってさえすれば自然と似合ってくるだろうという男特有の無器用なアドバイスであった。
「…ありがとう…牧志…♪」
(まぁ、オレもリク姉の色々な姿を見れて眼福だったのは内緒だけどな。)
そう言われて嬉しかったのかリクスは不安で曇らせていた表情を穏やかな笑みで晴らした。尚、悪ノリが加速した笑美子が調子に乗ってリクスにリューカの学校の制服やスクール水着などを着せており、それを直視してしまった牧志の脳裏と網膜にはそれらの格好が強く焼きついていたという。男という生き物はつくづく助平であった。
「それじゃあ改めて、オレの住んでる町を色々案内するね!」
「フフッ…今日はよろしく頼、む…はうっ!?」
「あー…まずは腹ごしらえでいいかな?」
人間界に来てまだ日が浅いリクスが心細い気持ちで一杯なのを察してか、牧志は気分転換になればと思いデートに誘ったのだ。牧志はリクスの手を取り早速町を案内していこうとしたが、いきなり彼女の空腹の訴えが腹部から聞こえてしまう、そこで…。
「お、美味い…!?このサクサクとしたパンの食感に中のコクのある肉入りのソースがたっぷり入っていて…うむむ、これを作っている者は実にいい仕事してるな…。」
「くぅー!嬉しいねぇ!俺のビーフシチューパンをそんなに気に入ってくれるなんて、お嬢ちゃん、もう一個サービスしちゃおうかな!」
「本当か!!かたじけない、御主人!」
六道商店街のパン店『火炙』の簡易的なテーブル席にて、安くて美味く主婦や学校帰りの学生達にも特に人気の店主が三日三晩じっくりコトコト牛一頭丸ごと煮込んで作った特製濃厚ビーフシチューパン(税込315円)を頬張り、目を輝かせながらその味を絶賛するリクスに気を良くしたか?店長のオッサンは気前良くもう一つオマケの分をタダでくれるというサービスをした。
(気に入ってくれて良かった~。オレあんま小遣い無いからそんな安い奴しかあげられなくてごめん!)
リクスが喜んでくれたのを見てホッとするものの牧志は自身の予算不足を申し訳なく思っていた。彼がまだ自分でバイトするなりで小遣いに余裕のある高校生とかならばまだしも…小四の小遣いなどたかが知れてるため残念ながら普通の飲食店で何かしらの食事をしようと思うと即座に予算オーバーになってしまうという悲しい現実に直面するのでどうしても節約せざるを得なかったのだ。
「牧志。」
「ん?リク姉食べないの?」
「いや、これは牧志が食べてくれないか?最初の時もそうだったが私だけ貰いっ放しでは…。」
「ん…そっか、ありがとう。やっぱ美味いや、ここのパン。」
「礼を言うのはこちらの方だ。久々に良いものが食べられたのだからな…何せ響少年の所では今朝は茹で卵、昨日の夜は食パン一切れしか食べてなくて…。」
「雑ゥウウウウ!!?なんだそりゃ!?初耳だよ、それ!いくらなんでも適当過ぎんだろ!?それに今まで一体どんな生活してんだ響兄とサン姉!!」
リクスは先程店長からサービスされたパンを奢られてるだけでは悪いと思ったのかそのまま牧志に渡した。だがリクスから明かされた久我山家での粗末な食事内容のせいで牧志はパンを貰った嬉しさが一気に消し飛んでそれどころではなくなったのは言うまでもなかった…。
屋内釣り堀『難破船』
この釣り堀は商店街には珍しく一際変わり種な店であり、早朝6時から夕方5時までの開店時間には釣りで暇を潰す年寄りや中年のオッサン、稀に家族連れでやって来る者もおり、此処では主にコイが釣れる。一時間利用で三百円程という良心的な値段のため予算が少ない者でも気にせず利用出来るのだが…。
「リク姉!?それ魚用の餌!オレ達が食べる奴じゃない!」
「む?そうなのか?意外とイケるのだが…こんなに美味いものを魚にくれてやるなんて人間とは変わっているのだな?」
「気に入ったのッ!?」
何を思ったのか?リクスはコイの餌用に用意されているサナギや練り餌を平然と食べていたため牧志は慌てて制止した…というか、擬態しているとはいえ見た目人間と変わらぬ姿の少女が魚の餌を貪る姿など絵面的に完全にアウトなので当然であるがそこは人間とは味覚が違う魔族…その味を気に入ってしまったのだ。
「ぬぬー…中々釣れないものだ。というか私が直接潜って取った方が早いのでは???」
「いやそれ普通にダメだからね?釣り竿以外の事で魚を獲ろうと店のオヤジさんから追い出される。あと、まさかやらないだろうとは思うけど…釣った魚は食べちゃダメ、放流してね。」
「何!?此処はそういう店ではないのか!?」
「やっぱ勘違いしていたか…。」
釣りなど生まれてこのかた一度もしたことがないリクスにとって目の前に獲物がいるのにこんな棒に糸をつけただけに過ぎない頼り無さそうな釣り竿を使う事に激しい疑問を抱き、直接飛び込んで捕まえるというワイルドなことをとしたり釣った魚を食おうとしてたため牧志から即座に却下された。
「確か魔界…だっけ?リクス姉の世界にも魚とかそういう生き物居たりするの?」
「あぁ、居るな…魔界の大海域である魔海に生息する魚妖は時折海を飛び出し、宙を泳ぎながら陸地まで向かうと聞く…と、掛かったか?」
「それ本当に魚?鳥の羽根でもくっついてんの…って、オレもか。」
リクスが言うには魔界にも特有の野生生物である魔獣に分類される魚型の魔獣・魚妖というものが存在し、どの個体もその気になれば海から這い出て空を飛び交う様にフラフラと宙をさ迷っては陸地で出くわすこともあるらしい。牧志は魚妖独特の生態に疑問を持ちしつつもリクスと同時に掛かったコイを見事に釣り上げた。
一時間後…。
「釣りというものも面白いものだな。あそこでは食べられないのが残念だが…」
「主が釣れた時のリク姉、眼が怖かったよ。マジで食べようとしたから止めるの大変だったよ…でも、食いしん坊なリク姉もそれはそれで結構好き。」
「うう、それは誉めるべき点ではないだろう…つ、次は自重する…。」
制限時間十分前くらいの時になんとリクスは初心者故に起きたビギナーズラックとでもいうべきか…この釣り堀の主である全長二メートルはあろう全身に傷を負った歴戦の巨大錦鯉・古威幟一號を釣り上げてしまった瞬間…理性と食欲のブレーキが完全に壊れて食らいつこうとしたものの、牧志に止められ、ついでにその暴挙を見ていた店のオヤジに牧志共々追い出されてしまった。それでも牧志は彼女を嫌うばかりか魅力の一つとして受け入れたため、リクスは今更ながら羞恥のあまり頬を染めた。
その後、リクスと牧志はアイスクリーム店でアイスに舌鼓を打ったり、ゲームセンターでシューティングゲームに夢中になったり、色々な事をしながら時間を過ごし、二人は商店街を出て児童公園に移動した。
禍津町・苛児童公園のベンチにて。
「ふぃーっ…流石に疲れた。ちょっと休憩。」
「疲れたのか、無理もあるまい…そうだ。良い方法があるぞ?」
「それって一体…んあ!?」
遊び疲れた隣に座る牧志の様子を見て
リクスは大胆にも彼の頭を横にして自分の膝に引き寄せて、膝枕をしてあげた。ちなみにこの時間帯、サンディアはちょうど響と共にランプマンと遥夜によって拉致されてしまったが…そうとも知らずに呑気なものである。
「ほら、これなら疲れも取れるだろう?フフッ♪」
(無理言うなっての!逆に取れねーよ!?緊張して…うう~っ!!リク姉の太股、柔らかくて、ちょっとひんやりしていて…うあああああ!!)
リクスは膝枕した牧志の頭を優しく撫でながら彼の疲れを癒そうとしていたが逆効果だった…膝枕の柔らかさに埋まる牧志は最初に出会った時に抱き締められた時のリクスの肌の感触を思い出して顔が茹で蛸状態になってしまう。性格が激変したとはいえ子供であることには変わりなく身悶えしまくっていた…そこへ。
「おやおやぁ~?この近隣にこんなイイ男がいたとはねぇ~?んっふっふー♪」
「げっ!?つ、爪木…!!」
見ていて微笑ましい場面をブチ壊すかのようにネットリとした独特の声と共に現れたのは牧志と同じく小学生くらいの年齢に毛先がカールした毒々しい紫色の髪、幼い顔立ちではあるがキツネの様な吊り目が高飛車そうな性格を表しており、スリムな体型を紫のゴスロリ調の明らかに浮いている服装で包み、不敵な笑みをする少女…爪木氷雨、彼女の顔を見るや否や牧志は『マズイ奴に出会った』と言わんばかりに顔をしかめた。
(…知り合いか???)
(まさか!冗談じゃない!!アイツ、女王様気取りのいけ好かない奴でさ…ハッキリ言って嫌われ者、相手にしない方がいい。)
牧志が言うにはこの爪木氷雨という少女は彼の通う小学校でその悪名を轟かせている女子生徒であった。高名な政治家の父親を持ち、その権力に物を言わせてワガママし放題…欲しいものがあれば強引にそれを他人から奪い取り、気に入らない奴が入れば大怪我を負わせたり学校に居られなくするためにイジメをするなど悪辣な事をしては嘲笑い女王の様に君臨する最低最悪の悪魔のような小学生だ。
「ねぇ貴方、見たところ私の学校の生徒みたいだけど…どのクラス?何年何組?」
「さぁな、少なくともアンタと一緒のクラスじゃねーよ。」
氷雨は牧志が何処の誰なのかを訪ねてきたので適当な返事をするが勿論これは嘘である。本当は最悪な事に一緒のクラスの四年二組だったが幸い牧志は以前のバカ面でならともかく今の凛々しく変化した顔立ちならまだ気づかれないだろうと思い、この場を上手く切り抜けられると考えたがそれが甘かった…。
「ふっふーん♪まぁいいわ、生意気な態度は気に入らないけど貴方が誰かなんて関係無ーい♪私、貴方の事が気に入っちゃった♪だ・か・ら♪私のカレシになりなさい♪」
「はぁッ!?フザケンナッ!何言ってんだ!?てめぇ!!」
まさかこんなふざけた言葉が出てくるなど誰が予想出来たものか、牧志は我慢ならずにキレてしまった。
「んっふっふー♪これで何人目のカレシになるのかなー?もう二十くらいから先なんて数えた事無いしなー♪ま、いいか♪飽きたら捨てればいいんだし♪ポイポイポーイってね!ふっふっふーんっ♪」
「…なんだと?」
牧志の意志をガン無視して氷雨の中ではもうすでに自分の恋人と確定してしまっているようだ。しかしこの女はカレシと称し、解ってるだけで二十人…もしかしたらそれ以上の男子生徒を弄び尽くしては使い捨てのゴミの如くポイしてるという人間として最低な事をしている。この発言にリクスもまた沸々と静かに怒りの爆発準備をし、そして…
「あ、そうそう、貴方に拒否権は無いから♪もし逆らったら学校で生き地獄を…ぷぎゃああああ!?」
「…黙って聞いていれば、貴様は牧志の事をなんだと思っている…?」
「リク姉!?」
リクスは相手が人間…それも子供であることを忘れてるかの様な強烈な平手打ちを氷雨の頬目掛けて放ち、盛大に吹き飛んで地面に何度もバウンドしながら倒れる氷雨をムシケラでも見るかのような感情のこもらない冷たい眼で見下ろした。当然である…自分が愛した者を捨てる事前提で掠め盗ろうとする盗人を許すわけがなかった。
「うっぎぃいいいい…!!アンタァッ!!さっきからずっとこの場にいるけど何なのよ!?その子の一体、何よ!!?」
「私か?私はこの少年に心身共に全てを捧げた身の女…つまりは恋人だ。牧志をこれ以上侮辱するような言葉を吐いてみろ…貴様を殺すぞ。」
「は、はぁ!?バッ…バッカじゃないの!?バッカじゃないの!?明らかに歳離れてるじゃない!高校生くらいの女が小学生相手にマジの恋とか正気ッ!?ゲロいんだよッ!この薄汚い×××女がァアアアア!どうせアンタ×××で×××な×××の癖にィイイイイ!!」
「なんとでもほざいていろ…行こう、牧志。お前の言っていた通り、本当に相手にする価値などない…。」
「あ、う…うん…」
氷雨は打たれた頬を押さえながら涙ぐんだ目でリクスを睨みつけヒステリックに聞くに堪えない放送禁止用語混じりの罵詈雑言を喚き散らした。逆にリクスは怒りは未だに治まらないものの氷雨の負け犬の遠吠えに等しい戯言を無視して牧志の手を取りその場を離れようとした時。
「…うぐッ!?熱ッ…なんだこれは!?」
「リク姉!?」
音も無く上空からヒラヒラとリクスに向かって舞い落ちた一枚の札が張りつき、次の瞬間、激しく炎上して彼女の左腕を銀色の炎が包み込んだ。
「氷雨、悲鳴が聞こえてきたから来てみれば…その顔はどうした!?」
「んふっ♪いいところに来た…♪」
札から発したものと同じく銀色の炎と共に颯爽と現れたのは顔を黒と白の陰陽マーク・太陰太極図を思わせる左右非対称の色の狐面で覆われ頭には烏帽子を被り、服装は着物と袴姿といったまるで平安時代の陰陽師の様ないでたちをしており腰どころか踵まで届くだろう白銀のロングヘアーを靡かせ、黒い狐の刻印が一つずつ刻まれた九つの銀色の尾、その先端全てにオキナグサを咲かせた狐型の獣人である魔族…九尾狐族、どうやら彼は氷雨と知り合いらしく彼女の頬が腫れ上がった顔を見て驚愕した。
「貴様、何者だ?」
「余は天ノ葉銀羅、もっとも…余の名を貴様はすぐ忘れることになるだろうがな。」
焼かれた左腕を押さえているリクスと対峙する九尾狐族の男は天ノ葉銀羅と名乗り、着物の袖から札を取り出して身構え臨戦態勢を取る。
「ねぇ銀羅~♪あのクズ共殺してェー♪いつもみたいに痛めつけるだけじゃ気が済まないの~♪」
「なにぃっ…!?被害に遭った連中、みんなアイツに怪我させられたのかよ!?」
「どこまでも下劣な奴だな…!!」
「んふっ♪なんとでも言えば~?殺っちゃって♪銀羅~♪」
「やれやれ、氷雨のワガママがまた始まったか…まぁいいだろう。シャッ!!」
氷雨は銀羅にすり寄って彼の体に密着し、良い子ぶったような甘い猫撫で声でイチャつきながらリクスと牧志の殺害を頼み込んだ。今まで氷雨の機嫌を損ねて怪我させられた被害者は全て銀羅によって秘密裏に痛めつけられてきたようだ。今回も氷雨の望み通りにしようと銀羅は白・赤・黒…色違いの三枚の札を取り出して地面にヒラリと捨てるように落としながら右手の人差し指と中指とで宙に逆五芒星を手早く描く…すると。
「「「ケケェーーー!!」」」
「我が外法の化身…白炎狐、赤炎狐、黒炎狐…かかれ!!」
「やっちゃえー♪」
札はたちまち色違いの三色の狐面を被り、それぞれ白・赤・黒の炎に包まれた全長三メートルはあろうゴリラの如く太い両腕を持ち、足元が炎で見えない程燃え盛っている大柄な狐型の三体の獣人…白炎狐、赤炎狐、黒炎狐と呼ばれる銀羅の妖術によって生まれた式神となり、それらをリクスと牧志目掛けてけしかける…三体の式神達は銀羅の指示通りに動き、両腕の炎に包まれた爪を振り上げながら一斉に襲い掛かってきた。
「んふーーーっ♪これでアイツら終わりね♪って、えぇ!?」
気に入らない奴等が二人この世から消えた…そう、これが『タダのヒト』だったらの話だが…。
「こんな雑兵で私を殺せると思ったか?駄狐めが。」
「「「ンケェーッ!?」」」
戦闘形態に変化したリクスが三体の式神の爪攻撃を瞬時に生成した巨礫の斧で防ぎ、薙ぎ払う。
「ほう?貴様、魔族だったのか?」
「ククッ…残念だったな、私が魔族でなければ殺せたものを、油断したか?」
「な、なな、なぁああああ!?アイツ、銀羅と同じっ…ヒッ!?」
「黙れ、下郎…私を貴様の様な卑劣な女に仕えるような狐なんぞと一緒にするんじゃない。」
まさか相手が魔族だとは思わなくとも冷静に身構える余裕さえ持ち合わせている銀羅の落ち着きように反して氷雨は想定外の事態にビビってしまう。余程気に入らないのか?リクスは氷雨を金色の眼で睨みを効かせて黙らせた。
「リク姉、ありがとう!」
「ふぅ、無事で何よりだ…それより下がれ、牧志。今は一緒だと危険だ。」
「あぁ、絶対に勝つって信じてるからっ!!」
「任せろ、こんな奴らに負ける私ではない!」
身を挺して守った牧志の無事を確認するとリクスは危ないので彼を安全な場所まで下がるよう告げた。牧志の信頼に応えるべくリクスは斧を構え、敵に向かってそれを投げつける
「邪魔だァッ!!」
「ゲケェッ!!」
魔族としての本来の力を全開にして投げつけられた巨礫の斧は高速で回転し、こちらに向かって来た黒炎狐に命中して勢いのあまりその上半身と下半身をお別れさせて地面に突き刺さる。真っ二つになった黒炎狐の胴体は千切れた黒い札の姿になってそのまま燃え尽きて灰になる形で消滅した。
「次ッ!!」
「ンケケ!!ンゲッ…!?」
「最後の一匹!!」
斧をすかさず抜き取り、今度は白い炎を吐いて攻撃してきた白炎狐の脳天目掛けて直撃させ先程とは違って縦半分に叩き割ってやり、灰と散らした。その際に勢い余って斧が衝撃でバラバラに砕けるが気にせずにリクスは両腕に石礫の双剣を纏わせて最後の式神である赤炎狐を始末して、術者である銀羅を倒そうとしたが…。
「んふっ…きゃははははは♪バーカ♪」
銀羅にベッタリと抱きつく氷雨はニヤリとリクスの犯した失敗に対して嘲笑を浮かべた…何故か赤炎狐は最初の時みたいな勢いの良い動きをやめて突然棒立ちになり、何の抵抗も無くリクスの双剣にその胴体をいとも容易く刺し貫かれる…これがいけなかった。
「コハハハハッ…かかったな、ド阿呆め。」
「しまっ…!?」
…瞬間、公園全てを消し飛ばさんばかりの威力の大爆発が起こりリクスは爆炎に包まれてしまった。
「カハッ…!!何が、起きた…!?」
「リク姉ェーーー!!」
モロに直撃を食らい黒焦げた全身に纏った鉱石をボロボロと落として血を流し、膝をつくリクスの無惨な姿のあまり、牧志は悲痛な叫びを上げた。
「ロシアンルーレット、とやらを知ってるか?弾丸を一発のみ装填した拳銃の引き金を弾いて己の生死を賭けるという遊戯…らしい。余の式神もそれと同じでな、無闇矢鱈と攻撃すれば痛い目を見るぞ?」
「ハッ…何かと思えば、こんな小細工に頼らなければ私とまともに戦えないのか?性悪狐。」
「戯けが、余がそんな安い挑発に乗るか?それに性悪…?なんだ?余を称賛する美辞麗句でも謳ってるのか?コハハハッ!!」
銀羅が召喚した式神達はデカイ図体に反して力は大したことは無いもののどうやら三体一組の内の一体のみが強力な生体爆弾らしく、不用意に攻撃を加えれば大爆発を起こすという厄介な能力を秘めていたのだ。ダメージを負いつつも強がってるのか?負け惜しみの言葉を吐いてリクスが挑発するも銀羅は意にも介さずにそれを捨て置いた。
「さっすが銀羅ー♪私のナンバーワン・カレシー♪人間の男の子なんかより超頼りになるぅー♪さぁ早くあんなトカゲ女、なぶり殺しにしちゃってー♪」
「うむ、承知した…出でよ、緑炎狐、黄炎狐、蒼炎狐ッ!!畳み掛けよ!!」
「「「ゲケェーーーッ!!」」」
氷雨がこれでもかと言うくらいのムカつく猫撫で声でもっとやれと要求してきたので銀羅は緑・黄色・青の炎に包まれた狐の獣人型の式神…緑炎狐、黄炎狐、蒼炎狐の三体を召喚し、再びリクスへとけしかけた。
「「「ゲケケケケッ!!」」」
(下手に攻撃すればどれかは爆発してしまい、しかし抵抗しなければ襲ってくる…クソッ!!コイツら、徹底的に私の攻撃を封殺するつもりか!?)
リクスは三体の式神の爪攻撃を石礫の双剣で捌いてガードする…だが反撃したくともまたさっきの様にどれか一体が爆発したら最後、これ以上自分の身がもたずに力尽きるのがオチだ。リクスは式神達に反撃することさえ許されずに一方的に三体からの攻撃を受け続ける…。
一方、牧志はというと…。
(チクショウ!オレにも何か出来ればリク姉の助けになるの、に…ん?)
リクスの様に戦えず、彼女を手助け出来ない事の無力さに直面して歯痒い気持ちでいたが、ふと、此処であることに気づいた…
(アイツら、こんな時にベタベタくっついて…アレ?なんだ?爪木の背中に何かついてね?)
戦闘中で構ってくれる暇など無いにも関わらず銀羅にくっついては一方的にイチャついてる氷雨の背中をよく見てみると銀羅の九つある尾の内の一つが彼女の背にピッタリとくっついている…更に。
「このッ!!離れろっ!!」
「「ゲケケケケッ!!」」
「ケェーーー。」
(あれ?これ、もしかして…もしかする…?)
リクスは戦いに夢中で気づいてないがいつの間にか動いている式神は二体だけになっており、一体は軽快に動き、もう一体は動きが僅かにだが鈍くなってきてどこかやる気が感じられない。リクスを仕留めたいならば爆発するという強みが折角あるのだし三体がかりで一気に攻めればいいものを…明らかに不可解な行動の違いに牧志は確証こそないが一つの結論に至った。
「いい加減にしろぉっ!!」
「ンゲケッ!?」
(カッとなって、つい抵抗してしまったではないか!爆発こそしてないがこれで確率は二分の一…どっちだ?どっちが爆発する奴だ!?)
式神に下手な攻撃が出来ない状況下に置かれてるためか、一方的な猛攻にイライラしてしまい、痺れを切らしたリクスはつい黄炎狐を石礫の双剣で切り捨てしまった…幸い、爆発こそしなかったものの、これで残りは緑炎狐と蒼炎狐の二体。果たしてどちらが爆弾か?時限爆弾の解体班の様な心境に陥りリクスは焦燥感に駆られる…だが。
「リク姉ーーーー!それ多分、緑色の奴ーーーー!!」
「…だぁああああああッ!!」
「「え。」」
牧志のその一声が耳に入った瞬間、リクスは無意識の内に反応してしまい、突撃してきた蒼炎狐の攻撃を回避して動く事をいつの間にかやめていた緑炎狐を持ち上げフルパワーで銀羅と氷雨目掛けて投げ飛ばした。
「「ぎゃああああああああッ!!?」」
不法投棄された緑炎狐は術者の銀羅とその恋人(?)である氷雨の目の前に落下すると同時に大爆発を起こし、二人はそれに巻き込まれてしまった。ついでに術者のそんな状況に連動してか残った蒼炎狐は元の札に戻って灰になる。
「当たった…?どういうことなんだ…?」
「…うーん、上手くは言えないけど…あの狐野郎だけじゃなくて爪木も何かしていたのか?と思ってさ…それになんか動きが変な奴がいたし…。」
式神達は術者である銀羅によって三体全てが操られていた…と、そう見えるように偽装し、彼は自身の尾を氷雨の背中に付着させて妖力を送り込み、爆発する悪い意味での『当たり』の式神一体だけではあるが彼女にも操れる様にしておいたのだ。ただし妖術に長けた銀羅と違い、氷雨はそんなものがない人間の子供に過ぎないので持続力はあまりなく途中で動きが段々と鈍り、最終的には電池が切れたかの様に棒立ちしたままになってしまうという欠点があった。
「本当にただの勘で、当たってる保証も何もなかったのにリク姉よく信じてくれたね?」
「む?ま、まぁ…な?無謀にもつい本能的に反応してしまったのは否めないのだが、それに牧志を疑うことがどうして出来ようものか…。」
「良かった…オレでもリク姉の手助けが出来て…」
本人も言うように牧志の言ったことなど勝てるアテの無い一か八かの大博打に過ぎず、リクスは自らの財産を迷い無く全額賭けた事に対して反省するがそれでも牧志を信じて行動に移した結果がこの勝利であった。戦う力が無くとも彼女を助けられる事が自分にも出来たのが嬉しいのか牧志はホッと胸を撫で下ろすが…。
「良いわけなかろうが…コホッ…このド阿呆、めが…ゲホッ、ゲフッ…!!」
「が、げ…ンギギ…」
「うわ、ひでぇ…これはいくらなんでも…」
「ソイツは貴様の恋人とやらではなかったのか?」
あれだけの爆発に巻き込まれたにも関わらず銀羅は生きていた。重傷ながらも氷雨を盾にして直撃を防ぎ致命傷にまでは至らなかったのだ。
「ぎ、銀羅…なん、で…?」
「フーッ…フーッ…何故かだと?阿呆な小娘が…『飽きたら捨てる』、それが貴様の口癖だろう?余は貴様と同じことをしただけのことよ…」
「そん、な…」
爆炎による火傷で顔が醜く焼け爛れ髪も黒焦げて息絶え絶えの氷雨は何故銀羅がこんな仕打ちを?と尋ねるとその返事は非常に非情なものだった…彼とて魔界の住人、切り捨てる事に関しては人間なぞよりよっぽど得意だった様だ。因果応報、今までしてきた所業が此処に来て自分自身に返ってきたという事さえ意識することなく氷雨はそのまま絶命した。
「ソイツは貴様の恋人とやらではないのか?」
「ハッ…こんな童に余が寵愛を?笑えぬ冗談はよせ、騙し騙されの化かし合いは狐の得意とするところよ。」
「なんとも、思わないのか?確かに爪木はどうしようもない奴で、いつかこんなことになっても仕方ない様な奴だったけど…」
「思わぬな、それになんと心の醜い事よ…おお、汚らわしい…何せ魔族である余でさえ吐き気を催したのだからな、こんな形であるが早々に始末出来て清々した。」
氷雨が銀羅を本気で愛していたのか?それとも今までの男子生徒達の様に飽きたら捨てるつもりだったのか?死んだ今となっては最早解らないが銀羅としては最初から彼女を利用するだけ利用して捨て駒にする腹だったのだから似た者同士の二人は最高にして最悪の相性と言えよう。
「貴様らを始末してまた何処かの馬鹿な女を惑わせるとしよう、何せあの童は余が少し甘い言葉で誘惑しただけでコロリと落ちよった、余が今まで何人の女を騙してきたかも知らずにな…って、グゴホォッ!?なんだこれは、余の体が石、に…!?」
「もう黙れ、詐欺師紛いの駄狐め…塵砂となって散るがいい。」
魔界にある故郷の魔墓場から気紛れで人間界にやって来ては氷雨以前に銀羅に騙された人間の女性の被害者は数多く、全員骨の髄までしゃぶり尽くしては捨ててきた…氷雨に負けず劣らずドス黒い本性を持った銀羅の言葉をこれ以上聞いてやる義理など無くリクスは邪眼を発動して彼を石化させ、拳の一撃で粉砕してやった。
「リク姉、やったな!」
「…どうやら私も牧志も、恵まれた方だったようだな…」
「ん?それってどういう…?」
勝利こそしたものの戦闘形態を解いたリクスの表情は暗く、銀羅と氷雨の二人の亡骸を見て彼女はあることに気づき、その言葉の意味が解らぬ牧志は首を傾げた。
「もしもだ…私が出会っていたのがあの女の様な悪辣な人間だったら…もし牧志が出会っていたのがあの狐の様な邪悪な魔族だったら…」
「うっ!?それは確かに、嫌だよな…」
「…と、済まないな、こんな事を話して…?」
「大丈夫、オレはリク姉を見捨てたりしないから、裏切ったりしない…絶対に、何があっても…。」
「私もだ…ありがとう、牧志…人間ではない私を受け入れ、愛してくれて…」
リクスは牧志に、牧志はリクスに、この出会いは本当に奇跡の様な巡り合わせといえよう、これがどちらか片方、若しくは二人共…銀羅や氷雨の様な者と出会っていたならばどんな事になっていたか、牧志は考えただけでゾッとした。しかし、だからこそ、出会いの形はともかくこうして出会った運命と恋仲になれた奇跡、その絆の尊さと重みを強く噛み締めた…。
皆様、こんにちは、作者です。今回は最近出番が多くなってしまってる気がするリクスと牧志のデート&バトル回、ちなみに前回の響とサンディアの話の展開の裏で起こったことになっております。
初登場…なのに友達感覚の認識を娘と息子に持たれておりイマイチ母親扱いされてない笑美子の魔の手により着せ替え人形と化したリクス、しかし息子との恋仲に関しては娘と違い意外にも好意的、決して他者を偏見の目で見たりしない人ですが反面建前として注意はするがエロも下ネタもOKというゲスい一面も…アンタ、本当に二児の母かよ(汗)。前回のサンディアの服装も笑美子の手により娘の服を勝手に使って強制的に着せ替え人形にされた結果のものです(酷)
牧志は小学生男子故にあまり出費をかけられないため満足な事をしてあげられなかったのですがリクスとしては見るもの触れるもの全てが新鮮な事もあり、牧志と共に居られればそれで満たされるため問題ありません、釣り堀での御乱心は別作品での食い意地張った性格も少なからず持たせた結果です(汗)
なんやかんやでデートを楽しむ二人の雰囲気をぶち壊す形で乱入してきた爪木氷雨、権力をかさに好き放題やらかし男を真剣に愛する事もなく次々に使い捨てるトンデモ女子。牧志を毒牙にかけることなど彼を真剣に愛するリクスが許すことなくフルパワービンタかまされる羽目に(酷)
氷雨が氷雨ならそのパートナー(裏切り前提)もまた同類…形だけの関係を持ち、遅かれ早かれ彼女を捨てるつもりだった天ノ葉銀羅、式神であるカラフル狐シリーズ(正式名称『式神外法・彩炎虹狐』)の運用法や爆発する仕様の設定など今回一番時間がかかりました。特に牧志に気づかせるにはどうしたらいいかと考えるのが難しく動きで差別化させることにより解決しましたが如何せん粗が目立って駆け足気味なのが否めませんね…(猛省)
最悪な組み合わせ同士の二人はともかく、もしもこれがリクスと牧志のどちらか、或いは両方の身に起きた悲劇ならそれはそれでイフ展開書いてみたいですが(←外道)サンディアと響の運命の出会い同様に二人も如何にそれが奇跡なのかを再認識するいい機会でもあるなということが今回もっとも書きたかったことですが相も変わらず内容が長々となってしまいすみませんでした…。
鳴我笑美子(イメージCV:新井里美):悪ノリ全開で以前の旧牧志以上に手のつけられない珍獣(?)にして牧志とリューカの母、イメージとしてはあまりやらないそうですがそれっぽい感じの声をしている新井さんですかね?
爪木氷雨(イメージCV:井澤詩織):前回の話の遥夜とは違うベクトルでドス黒い極悪小学生にして権力持たせちゃいけないタイプの典型たる女王様(小四)。イメージ的に某不夜城の暗殺者や西洋妖怪の女吸血鬼など悪女ボイスが合いそうなのてポンと浮かびました。
天ノ葉銀羅/九尾狐族(イメージCV:緑川光):魔界のゴーストタウンである魔墓場出身の今回のゲスト怪人枠、パートナー以上に黒い本性を持ち合わせ数多の女性を虜にしてきた罪作りなお狐様。モチーフは安倍清明などの陰陽師であり式神使うあたりまんま捻りなくすみません。咲いてる花はオキナソウ、花言葉は『裏切りの恋』であり今回の事を考えるとピッタリな内容です。イメージCV的に最近アニメとしてリブート化された某超人などヒーロー役やイケメン役が多い素敵な人ですが同時に某悪の黒鬼の様な悪役ボイスも大好きです。
これまでを見ると牧志とリクスの出番があまりにも多いため、絆を深め合った二人には申し訳ありませんが少しの間バランス調整という名の犠牲として出番控えめになってもらいますので御了承下さいませ。
リクス・牧志「「え。」」(←激しく動揺&絶望顔)
次回のメインはこの頃ハブられがちなリューカ、彼女にもついに運命の出会いが…という内容になればいいなと思います。(←多分かよ)
最早後書きまで長くなりすみませんがそれではまた次回、槌鋸鮫でした!