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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
終点、研究国家福岡
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58.これでさよならだ。

 歴戦の賀堂に加え舞もいる。それに拳銃を手にした扇。



 モータルは基本適合者と同等の性質を持つ。身体に打ち込んだところで次第に再生する。常に元の状態を保とうとする働きがある。

 唯一の弱点。身体の命令系統であり思考言語の中枢である脳。一度、破壊してしまえばモータルとて再生することは出来ない。



 歴戦の賀堂に加え多くの修羅場を経験した舞、それに軍人である扇。頭部に命中させることは容易い。次々とモータルは倒れていく。

 たった一人では対処できない人数。だが三人ともなれば死角の背後をカバーしあえる。

 舞と扇は初対面だ。それでも、連携とる動き。即ち、経験の量を物語っている。



「あと一匹……」



 愛銃『H2-雷針』の引き金を引く。発射される弾丸はそれることなく最後のモータルの額へとめり込んでいった。



 片付いた惨状。多くのモータルが地に伏せる状況。だが、ただ一人……。ただ一人は沙耶であることは変わらない事実だ。

 すぐさま沙耶の元へ駆けつけると傷を見るなり渋い顔をする。



「……これはどうしようもないな」



 賀堂の後ろで覗き見ている舞がつぶやいた。頷くわけでも首を振るわけでもない。無反応だ。



「扇……、どういうことだ」

「ヒヒッ……。すべてのお話は後にしましょう。まずは沙耶の治療を」

「この傷が治るのか? 聞いたことねぇ」



 扇の手にはアルミケースがあった。扇はその中身を知っている。だからこそ急いで取りに行ったのだ。



「適合者実験……。ここでやるとしましょうか」



 必ずしも成功するわけではない。むしろ失敗する確率の方が遥かに高いはずだ。それは目にしているモータルの数が物語っている。

 だが……適合者実験に頼らざるを得ないのも事実。福岡の医療技術を持ってしてでも、ましてやLE以前の技術でも難しいだろう。

 なら答えはやるしかない。



「いいですね。やりますよ?」



 扇はアルミケースの中を開け丁寧に納められた注射器を取りだす。液体は既に容器に満たされ注入するだけだ。



「あぁ、……やれ」



 賀堂は後ろにニ、三歩離れた。その間に扇は沙耶の腕に注射針を突き刺す。

 容器の液体が減っていく。沙耶の体へと入っていく。すべてを入れ終え扇も後ろへ下がった。



 明かなる異変。呼吸を停止していた沙耶の呼吸は戻るが荒々しい。

 傷の再生は人知を越えた領域。絶え間なく流れだしていた血は止まり肉も治癒する。

 また呼吸が荒くなる。とても苦しそうに。



 動悸。体をビクン、ビクンと震わせる。全身を浮き上がらせては地に叩きつける連続。三人は見守る事しかできない。

 沙耶は心臓を抑え始めた。



「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!」



 強烈な叫び。モータルと変わらない奇声。鼓膜が破れそうになるほどの声量。



「……これは……ね。賀堂……さん」



 扇がそれ以上言うのを渋った。いや、言えなかったのだろう。

 深くため息をついた。それも人生で一番を争うほどの深いため息だ。舞は視線をそらす。見ていられないということ。



「がど~さ~ん」

 と奇妙な言い方。平坦でのっぺらとして抑揚のない声。普段の沙耶とはかけ離れた話し方。



「そんな姿になっちまって……」



 見た目は沙耶……だった者。モータルになりきれていない半端な存在。適合者とモータルの狭間にいる存在。



 ア・モータル。



 モータルと違い視線がどこかへと向いていない。口が開けっ放しでもない。人間の様に話すこともできる。思考することもできる。

 しかし、理性はない。適合者ラスターよりも質が悪い存在。まさに希少中の希少。



 ――私を殺してください。



 沙耶と出会った時に言われた言葉。賀堂は分かったと返事をした。今がその時。賀堂はジャケットから拳銃を取りだすと沙耶に向けた。



 表情は険しい。苦々しい。重々しい。

 でも、撃たねばならない。運び屋は信頼が大切だ。客の要望には応えなくてはならない。



「わたしを、撃つの、ですかぁ?」



 ヘラヘラとした顔。首を左右に傾げながら問う。



「てめぇとの約束だ。受け取れ」

「だめですよ!」



 沙耶が視界から消える。いや、違う。沙耶だと思っていたら認識できない。既にモータル、適合者と堂々の存在。

 賀堂は捉えていた。引き金を引けば命中する。命中する……。引けなかったのだ。

 気が付いた時には賀堂の懐に入り込み噛みついてくる。素早く左腕を噛ませた。



「ったく。いてぇな」



 ガリガリと歯を立てて噛みついてくる。ジャケットを着ている以上傷にはならない。ただ、痛いだけ。



 扇と舞は手を貸さない。その姿を呆然と見ていた。

 自分の知った顔がモータルへと変わる姿は衝撃だ。今までの性格、行動は失われ壊される。扇に関しては頭を抱えブツブツと沙耶の名前を繰り返していた。



 これ以上長引かせても意味がない。

 賀堂は覚悟を決めて沙耶の額に銃口を当てた。



「これでさよならだ。てめぇの事は明日にでも忘れてやるさ」



 言い残して引き金を引こうとした時だ。

 腕の痛みが止んだ。そして賀堂に映る沙耶に姿は……。



「賀堂……さん?」



 いつもの沙耶だ。間違いようのない姿。

 これはア・モータル。心を鬼にしなくてはならない。例え一瞬でも姿が戻ったからと希望を抱いてはいけない。



 一発の銃声が鳴り響いた。


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