表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
終点、研究国家福岡
60/63

57.ヒヒッ……。これはもうだめだね

 人間と何一つ違いない姿。しかし、目は大きく開き視点は定まらない。口も締まりがなく唾液を垂れ流している。

 捕食痕……。つまり宮内の血液を全身にべっとりと濡らしゆらりゆらりと二人に近づいていく。



「さぁ、早く!」

 扇は逃げろと合図をだしたときだ。



 ガラスが割れる音。それも一度だけではない。何度も何度もバリン、バリン……と。所内を響かせた。



「まさか……な」



 扇はニタァとする。それは自然に出るものではなく作ったものだ。額からは留まることなく冷汗が流れる。



「沙耶……、武器を持っているかい?」

「いえ、賀堂さんと別れる時に返してしまいました」

「そうかい。こりゃ……私も覚悟を決めないとねぇ」



 前方のモータルを警戒しつつゆっくりと後退する。すぐに襲い掛かるわけでもなく様子を見ている姿は不気味だ。

 まさに得物を逃がさないために動いているかのようだ。



「う……うし、ろ……」

 沙耶は震えた声を出した。



 扇の読みは的中した。新たなモータルが既に二人を包囲していたのだ。

 宮内が割ったガラスは一枚。その部屋から出てきたのは扇の前方にいる複数体のモータル。



 では、背後にいるモータルらはどこからやって来たのか。

 考えるまでもない。宮内は大勢の人間を実験体にしていただけの事。宮内の血に反応して自らガラスを破り出てきてしまったのだ。



「救援までの辛抱! 上を片付けた軍が駆けつける。それに保険を掛けているからねぇ」



 包囲が終わったモータルは一斉に奇声を上げて二人に接近する。



「伏せていなさい!」



 鋭い一閃。瞬く間に首が飛び天井まで血液が噴射される。

 恐怖を知らないモータルは構うことなく得物を襲う。四方八方からの猛攻に扇は手を焼いた。

 しなやかなサーベル捌きで次々とモータルを切り倒す。しかし、数で攻める怪物は次から次へとやってくるのだ。



 沙耶は何もすることが出来ない。目を開けることが出来ない。

 少しでも動けば扇を邪魔するだけだ。ずっと縮こまってやり過ごすしかない。



 疲れることはない適合者。どれほど時間が経とうが動きにスキが出来ることはな

い。問題は使用するサーベルであった。

 使えば刃は欠ける、切れ味はみるみるとなくなる。扇が使用するサーベルは既に鈍ら同然の刃だ。



「くっ……」



 モータルの肉に食い込んだまま引き抜けない。サーベルを捨て拳を握る。格闘戦になる以上近づかなくてはならない。危険度は増してしまう。

 このままでは押し切られる。扇は活路を開くため渾身の蹴りを腹に食らわす。よろりと倒れるモータルは雪崩のように地に伏せた。



「今のうちに地上へ!」



 扇は沙耶の手を取り走った。引かれるがまま立ちあがり足を動かす。

 そこで沙耶の目には見えてしまった。ゆらりと立ちあがり扇の背中に近づく手が……。まさに触れる瞬間だ。



「なっ……」



 扇は倒れ込んだ。背中に掛かる衝撃。何が起きたか分からないだろう。

 まさか……、沙耶が血を流し背中を庇っていることは頭にないはずだ。だが見てしまった。

 素早く立ちあがると手が血で滴るモータルの首を折り曲げる。そして沙耶の元へと……。



「これは……ひどい」



 右わき腹はえぐられ穴が開いている。文字通りあるはずの身体の一部がなかったのだ。




「ごほっ……。大丈夫、です……ね」



 吐血する。僅かな時間で正気が失われていく。



「なぜ私を……。適合者だ。傷はすぐに再生する」

「なんで……かな?」



 沙耶自身もなぜ飛び込んだのか分かっていない。思いついた頃にはもう体が前に出ていた……。それが憎かった扇であってもだ。



「馬鹿だ。沙耶……君は本当に馬鹿だね」



 沙耶の返事はない。流血もひどい。まず……、崩壊世界の医療技術では助からない。例え研究国家福岡であっても可能性はゼロに等しい。



「ヒヒッ……。これはもうだめだね」



 抵抗することを諦めた扇。近づくモータルに対して警戒態勢を取らなかった。そして扇に喰らいつく瞬間、脳漿が弾けた。

 次々とモータルの額に小さな穴が開く。火薬の匂いを充満させる所内。そして、扇の目の前に自動拳銃が投げられた。



 『H7-鋭牙』Hシリーズ初の自動拳銃だ。射程距離は短く、威力が低い。しかし反動制御はしやすく命中精度も良い拳銃だ。扇のいつも使っている拳銃だった。



「なんて顔してやがる。俺を呼んでおいて出迎えもなしとはいい身分だな」

「賀堂……さん」



 階段からは賀堂及び舞が立っていた。

 扇が言う保険。それは賀堂他ならない。これ以上に頼もしい救援はないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ