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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
終点、研究国家福岡
55/63

52.では賀堂さん。今までお世話になりました

 研究国家福岡。九州に佇む唯一の国家。東京の様に軍事的に発達したわけでも名古屋の様に商業的に発達したわけでもない。あらゆる分野の研究に特化した科学国家である。

 つまり現時点の日本の最高峰の頭脳が集まる。研究内容は様々で兵器研究、生物研究はもちろん歴史や文学。又は経済を専門とする研究者も住まう。壁の中は大半が研究者となる。



 賀堂一行は正門で手続きを済ませ壁内へと足を踏み入れる。ムーは宿が見つかるまで預かるとのことだ。



「ほぉ、前と全然違うな」



 賀堂は福岡に来ることが滅多にない。たとえ来たとしても門番に荷物を渡して終わり。それは国が依頼した場合だ。今回は適合者研究所の直接依頼なので責任者に引き渡すまで仕事になる。



「以前はどんな風でしたか?」

「名古屋と変わらないか少しマシな程度だ。見ないうちに綺麗になったもんだ」



 商業国家名古屋は狭い路地の脇に木製やトタン製の建物が隙間なく建てられて屋台街。悪く言えばスラム街。

 しかし福岡の現状は舗装された道路。並ぶ街灯。LE以前と相変わらない建物だ。賀堂にとっては懐かしさを感じるだろう。



「私も初めてみました。こんな綺麗な建物があるのですね」

「LE以前は壁の外も家が立ち並んでいたがな。ここまで再現できるとはさすが福岡だ」

「ここは見ないうちに発展する。他の国家がウダウダしている間にも福岡だけがあるべき時代に戻っているな」



 舞が口を挟む。賀堂も「確かにな」と同意をする。



「それで研究所はどこだ?」

「確か向こうだったはず」



 賀堂は先導して歩き出した。沙耶もついて行くが浮かない顔をしていた。



「貴様が今から何をするのかは知らんがこれが仕事だ。別れは済ませておけ」



 沙耶は自分よりも小さい体の舞に言われると不思議な気持ちになる。彼女は適合者として多くの別れを体験している。



「それはもう済ませましたよ。賀堂さんも仕事だから情はねぇって言ってました」

「ふんっ。あの男の言葉ほど信じられないものはない」

「全くですね。素直に寂しいっていえばいいのに」



 沙耶の笑顔を見てムスッとする舞もにこやかな表情を見せる。別れに関しては舞は多すぎる体験をしたからこそ沙耶の気持ちが分かってやれる。必ずと分かっているからこそ変な情は入れこまない方が良いが賀堂の背中を見れば女々しい奴めと笑いがこみ上げるだろう。



「舞ちゃんは私がいないと寂しいですか?」

「何を期待しているか分からんが欲しい答えは出せないぞ。まぁ、あの男と二人になるのは少々問題だが」



 頬をピクピクさせながら苦笑いをする。



「似た者同士ですからね。二人ともいつも怒った顔をしていますから。全く、私がいないとどうなる事やら」

「ま、まぁ、うまくできるだろう」



 果たしてどうだろうかと問いかけたい沙耶だがやめておく。それは二人のこれからだ。



「それよりもあっちに構ってやれ」



 黒いジャケットを着る男に指を指す。沙耶は「そうですね」と言い賀堂の隣まで歩みを進めた。



「賀堂さん!」

「……なんだ」

「私がいなくなると寂しいですか?」

「邪魔な荷物が無くなると考えれば気が楽になるな」

「ひ、ひどい言い方ですね。ほら、もっと、さみしいぃよぉとか言ってもいいのですよ」

「アホか」



 バカっぽい話し方の沙耶を一蹴りした。



「怒られちゃいました」

「だろうな。確かに今のはアホだな」



 舞の元に戻り追い打ちを食らった沙耶は舌を出した。詫び入れる様子はない。

 しばらくすると福岡で一番立派な建物が見える。適合者研究所を目の前にした。

 崩壊世界では滅多にないガラス張りの建物。研究国家で一番力を入れ人員も金もつぎ込んでいる場所だ。



 賀堂は正門ゲートの門番に話を付ける。門番が看守所へ行くと研究所の方から白衣を着たメガネの男がやって来た。



「お待ちしていました。名古屋で騒動があったようで。あっ、僕は宮内と申します」

「依頼を受けた賀堂だ。荷物を一つ。それでいいか?」



 その言葉に沙耶は心臓を鳴らしていた。

 本来なら荷物は私ではなく別の誰かだ。東京ですり替わっていることがもしもばれていたらこの話はなかったことになる。



「えぇ、そうです。受け取ります」



 ばれていない。



「では賀堂さん。今までお世話になりました」

 頭を下げて最後の別れを告げる。舞にも手を振った。

「……」

「では受け取りました。失礼します」



 一方、賀堂は何も言わない。沙耶は後ろを振り向いて研究所の中へと歩いていく。背中を目で追った後、背中を向けた。


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