50.すまねぇな。この時代だ。
残るのは破城王ガルバニス。底知れない生命力は感服をする。いくつもの砲撃、銃弾をもらってもなお立ち続ける。たった一匹で集団で襲い掛かる人間を振り払い咆哮をあげる。
「弾が残っちゃいねぇ。そっちはどうだ?」
「矢が一本。拳銃は残っているがあいつには無意味だろう」
「それは同感だ。だが、ないよりはマシだ」
賀堂は『S2-アジアンタム』を捨てジャケットから『H2-雷針』を取りだす。手になじんだ拳銃。ガルバニスに効果があるか定かではない。
会話を続けている間も止むことのない銃撃。多くはガルバニスの甲殻に弾かれ効果はない。
だが、まったくとも言えない。ひび割れた隙間に食い込む銃弾に過敏に反応する様子を見せている。
時折、足はもつれ体を地に着け始める。仕留めるには強力な一手が足りない。
「最後の一本は奴の口にくれてやろうと思っているがどうだ?」
舞はにやりと笑いながら言う。自前の弩に矢を装填して賀堂に向いた。
「それはいいな。どっちみち奴がくたばるまで徹底抗戦だ。援護しよう」
「頼んだぞ。私はひき肉になりたくないからな」
「それは俺もだ」
二人とガルバニスの距離が近付く。無論、ガルバニスの目に捉えられるため体を賀堂らに向け反撃する。
ハサミが真横から飛ぶ。もし直撃するようならば横たわる人間同様肉塊に代わるほどの速さだ。しかし二人は適合者。視界に入る瞬間に跳躍、または前転をして避ける。
「しぶとい。これほどの力は残っているってわけか」
賀堂は素早く足元に駆け寄るとひび割れた足の一本に向かって近距離で全弾を撃ち込む。紫色の体液を飛散らせるがたかが拳銃如きでは怯む様子はない。
素早く装填、そして撃ち込むがまたしても意味をなさない。
「どうしたものか……」
弾を込めながら考える。その間にも鋭い鋭利な足で反撃をするガルバニスの攻撃を避けながらの思考だ。
もう一度狙いの足に照準合わせた時だった。甲殻がはじけ飛ぶのを目にする。
「グララララァァ!!」
ガルバニスの叫びだろうか。いや、威嚇だろう。鼓膜が破れそうなほどの咆哮が響き渡った。同時に節が折れ、地に伏した巨体のガルバニス。しばらく身動きは取れない。
賀堂が撃ち込んだ弾丸ではない。大隊の多くはガルバニスの顔やハサミを牽制している。狙撃の人物はただ一人だ。
「情報屋にしておくには惜しい腕前だ」
綾崎ただ一人。賀堂たちを援護する為に狙撃体勢に入っていた。狙いは正確。申し分ない狙撃だ。
「今だ!」
既に舞は射撃体勢に入っていた。ガルバニスは顔をハサミで隠す。だが、隙間から外の様子を伺っている。舞はその隙間を狙う自信があった。
決まった。トリガーを引こうとしたときだ。
「はがっ」
舞は吹っ飛んだ。宙を舞い飛んだ。そして受け身の体制を取れずに地面に叩きつけられた。
「くそっ!」
ガルバニスの足だ。それも賀堂のいる反対側の足で横腹を思いっきり殴られた。賀堂は素早く駆けより舞を抱きかかえ離脱。距離を取る。
「おい! 大丈夫か!」
返事はない。一撃で気を失ったようだ。外傷は見られない。適合者である舞ならばしばらくすれば立ち上がるはずだ。しかし、ガルバニスは待ってはくれないだろう。
視界に入らないように瓦礫の陰で横にした。そして後は任せろと言わんばかりに弩を握る。
賀堂たちが距離を取ったころにより一部始終を目撃していたのだろう足を集中的に狙い始めた大隊。賀堂が戻る事にはもう何本か破壊をしていた。
「これならやれそうだな」
一人でに呟きトップスピードで走る。ガルバニスは賀堂を目の前にすると死期を悟ったのか防御を捨て一気に攻撃を仕掛けてくる。近づけさせまいと猛攻を繰り広げた。
片方を避けても片方が飛んでくる。避ける避ける。徐々に確実に口を狙える射程まで詰める。
気の緩みは死を意味する。いくら適合者とはいえハサミを食らってはただで済まない。足だった舞は不幸中の幸いと言う事だ。
「どうだ? 今の気分は?」
賀堂はガルバニスに話しかける。返事はもちろんハサミだ。元より会話が通じるはずもない。
「俺はてめぇがやろうとしたことが何となく分かる気がする」
年月を重ねて変異に変異を重ねた異形種、破城王ガルバニス。同等の年月を生きていてもおかしくない適合者。
賀堂はガルバニスがなぜ名古屋を襲ったのか考えたことがある。だが、答えは単純明快。生き物だからだ。
腹が減れば飯を食う。眠たくなったら寝る。そして敵が現れたら戦う。それが同類を殺す相手ならなおさらだ。
ガルバニスは人間ではない。和解の文字はない。ならば戦うまでだ。生物の頂点に立つ異形種ならばその責務があったのだろうか。
「だけどなぁ! 俺は人間、てめぇは異形。所詮、分かりあえねぇんだよ! 悲しいことにな!」
至近距離。狙うまでもない。賀堂は弩の引き金を引いた。
バシュンと射撃音を奏で一直線で口内に入る。爆発音。鈍い爆発音。そして煙を吐く。
力なくハサミが地に落ちた。僅かに浮かしていた体も同様だ。
「すまねぇな。この時代だ。貴様らを保護する法律なんざどこにもねぇ……」
ガルバニスの姿を見た大隊は声を上げた。ようやく終わったと。これこそ本当に終わったと。
周りの歓声を上げる中、賀堂は舞の元へと歩いた。
「ふっ、やったか?」
「起きていたか」
「私がくたばるわけないだろ。まだ死ねない。私にはやらねばならないことがたくさんだからな」
「そうか。それは良いことだ」
賀堂は横たわる舞の横に座る。ポケットから携帯食料を取りだすと口に入れる。
「貴様、そんなものいつも持っているのか」
「悪いが俺はグラトニー。ここで煙草を吸うのが決まりだが俺は生憎吸わない人間だ」
「偏見だな」
遠くの方で手を振りながら近づく影が二つ。近づいてくる人間は見当がつくだろう。
「賀堂さん! 終わりましたね!」
「あぁ、ようやくだ」
珍しく安堵の様子を見せた賀堂。そして右拳を綾崎に出した。綾崎も同じように拳を当てた。
「正直助かった。俺のでは火力不足だった」
「なら今度酒でもおごってくれよ。パァーっと飲みたいね」
「それもいいな。帰ったら行くか」
綾崎はガッツポーズをする。また、ただ酒を飲めることが余程嬉しいのだろう。
「舞ちゃんは大丈夫ですか? 私は見ていましたが」
「心配はいらん。私は適合者だぞ。貴様の様に軟弱ではないわ!」
「あぁ~そうですか。ならこうしても大丈夫ですよね?」
バシッと横腹を叩くと「うぐっ」と痛そうな声を出す舞。年齢相応の声を出す。
「やめんか! けが人だぞ!」
「あらあら~、口の利き方には気を付けたほうがいいですよ?」
ニヤリと笑みを浮かべる沙耶。叩くジャスチャーを舞の前でやる。
「お、おい! この小娘を何とかしろ!」
「まぁ、無理だね。性格が悪いからね。沙耶ちゃんは……」
綾崎と沙耶は声を出して笑った。賀堂もクスリとした。
「帰るか。もう俺たちは十分働いた。やることはねぇだろう」
「そうですね。行きましょう。賀堂さん!」
賀堂と沙耶、そして綾崎はその場から立ち去ろうとする。まだ動くことができない舞は自分で立ち上がれない。
「その……だな。できれば運んでもらえると助かるのだが……」
「え? 今、何か言ったか?」
賀堂が真っ先に答えた。顔を真っ赤にして怒り出しそうな舞はグッと堪えてもう一度言う。
「運んで……くだ……さい」
「仕方ねぇな」
賀堂は舞を持ち上げて背中に乗せた。広くて大きな背中だ。
舞は揺られて考えた。父親がいたならこんな感じだったのだろうかと。心地よい背中。そしてスリーパーの発作。瞼が重たくなる。すべてが終わった今は気兼ねなく眠ることが出来る。
目を覚ました後はどうしようか。それはその時に考えればいいだろう。




