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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
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48.一息は付けましたか?

 賀堂は土袋に腰を掛けていた。そして丘の惨状を目の前にしながら次々と食料を口に入れ腹を満たしていく。肉体的疲れは適合者である賀堂には感じることはない。精神的疲れもない。見慣れた光景。いや、見慣れはしなくとも何回も見たことのある光景だ。



「賀堂さん。こちらにいましたか」

 両手に配給された食料や水を抱えて積まれた隣の土袋に腰を下ろした。



「随分と多いな。俺の分か?」

「違います! これは綾崎さんと舞ちゃんの分ですよ」



 手を出した賀堂に撮られまいと背中を半分だけ向けた。賀堂は諦めて自分で持ってきた缶詰を開け干し肉を噛む。



「一息は付けましたか?」

「てめぇに心配されなくともゆっくりやっている。それより二人はどこだ?」

「えーっと、その、まだ作業をしていますがそろそろ戻ってくる頃かと」



 第一大隊は多くの損害を出したが丘を占領した。クラウノス、アンダークロウを主力とした強襲戦法。そして、その他生物で一気に突撃する捨て身の戦闘。ガルバニスの策に引っかかりはするも立て直し殲滅。そして占領し防衛拠点の作成に取り掛かっている。

 現状は重機関銃を置き土嚢で囲う。また、有刺鉄線を至る所に設置し侵入を防いでいる。再びアンダークロウの奇襲の恐れから小型地雷を鉄線外に埋めるなど陣地を築き上げる。



「俺たちの仕事はここまでだな。後は後続部隊がガルバニスを対処するだろう」

「そういえばガルバニスの正確な距離が分かったようですよ。後続部隊もそろそろ到着らしいです」



 賀堂はやっと面倒な仕事から解放されると思っていた。今作戦の要である後続強襲部隊の最大火力によってガルバニスを鎮める。第一大隊は後続部隊の経路の安全確保が任務だ。これ以上は陣地防衛ぐらいだろうと。



「ようやく終わった。あぁ、お腹が空いたよ」

「帰って来たか。……お子様はおねむか」

「少しだけ寝ると言っていたね。発作ではないからたたき起こせば目を覚ますはずさ」



 舞は綾崎に背負われていた。とても安らかに眠っている。



「まぁいい。後続に任せて俺たちは片付けて帰る準備でもするか」

「それもそうだね。後は軍に任せるとしよう。その前に人休憩だ」



 一部の見張りを覗き多くの人間は賀堂らの様に仲間で囲い食事を取り休息を取っている。今まで休みなしで動いていた分、疲れがどっと出る事だろう。



 その後は特に目立った荒事は無く平穏に時が過ぎていく。戦場の真っただ中でのくつろぐ時間。本当の意味で安らぐとは言わなくとも疲労が溜まった体には丁度良い。 

 賀堂の小隊は四人中三人が適合者であるから本来は休みは取らなくとも平気だ。しかし基本の行動原理は通常の人間と同じであるから休息はあったに越したことはない。



「ん? 後続が来たようだね」



 市街地方向から軍服を着た隊列がやって来た。荷物を運ぶのに適する牛が感染して変異を遂げたムーを引き連れての行軍だ。

 奪取した丘から見渡せる市街地、つまりガルバニスを観測できる地。ここから集中火力を持って撃退するため、迫撃砲、野戦砲を運び込んでいる。



「擲弾筒と聞いていたが砲まで持ってくるとは準備の良いことで」

「最大火力を持って殲滅するのが伏見のやり方さ。ここまでこれば頼もしいものだね」



 複数人で運用する迫撃砲。最大飛距離はどのくらいか定かではないが一応目視で見える範囲にいるとなると十分なのだろう。軍人が手際よく組み立て射撃準備を整えている。牽引式の野砲は準備に時間は掛からず既に射撃体勢は終わっていた。



「伏見が私たちに無理させてでも丘を取らせたのは納得だな。本当に無理のある作戦だったけど」



 舞は野戦砲、迫撃砲の運用数の多さにそうつぶやいた。いくら大型の異形種、ガルバニスとて視界に一杯に見える砲の数の前では朽ちるのも時間の問題だろう。



「おっと、そろそろだな。耳をふさいでおけよ」

「そんなにうるさいのですか?」

「ならお前はそうしてろ。俺は塞いでおく」



 賀堂は沙耶の疑問に答えず自分だけ耳を塞いだ。沙耶も賀堂のひねくれた正確を理解しているので並んで手を耳にあてた。

 恐らく指揮官らしき男。立派な髭を生やした軍人が指揮棒で合図をすると一斉に弾を込める。複数の合図で全員が準備完了をし指揮官が双眼鏡でガルバニスを確認後、指揮棒を振る。

 轟音、地響き。耳を塞いでいても聞こえる射撃音。地面からゾクゾクと伝わる揺れ。



 目視では着弾点は良く見えないがガルバニスがいた辺りが次々と煙を上げる。以降は指揮官の命令は無く砲兵は休むことなく次々の撃ち込んでいく。

 丘から見下ろす街。遠くの方では辛うじて建つ建造物が壊されていく。目の前にしなければどうとは思わない。まるで観光に来ている気分にすらなるだろう。



 ようやく終わった。沙耶はそう思った。決して一人の力ではないけど初めての戦場で生き残った。荒廃世界を生き抜く自信が欲しくて無理に参加したガルバニス討伐。この先、何があってもこの体験を考えれば何てことないだろうと。


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