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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
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45.黙りませんよーっだ!

 第二先行大隊は司令部より戦略的大隊から外され壊滅認定を下された。音信不通となっていた第一及び第四部隊は通信可能となる。連絡が取れなかった原因は無線機の故障。前線基地襲撃により無線機が使用不可であったことだ。

 どちらにしろ現在の命令系統は復活し第三先行大隊と合流。そして休む暇もなく進軍中である。ガルバニス攻略の鍵は後続の軍人で構成された強襲部隊が動くことだ。第三大隊がガルバニスを観測。つまり強襲部隊を動かすことが出来る。



「はぁ? 動かせないだと」

 賀堂がとぼけた声を出した。



 ビル群を抜けて破城王ガルバニスが潜む市街地へとやってきている。そこで建てられた仮設テント。現在は前線の作戦会議が行われていた。



「伏見閣下は強襲部隊が自由に動けることを確認しろとのことです」

「どこまで俺らにやらせる気だ……」



 軍人の一人が怖気づくことなく言い放つ。賀堂は近くの椅子を持ってきて広げた地図を睨んでいた。



「つまり擲弾筒でガルバニスを攻撃。射程距離を確保せねばならんとなるとこれは厳しいな」

「そう申されましても我々の火力だけではどうしても擲弾筒を頼らなくてはなりません」



 賀堂の悩みの種は軍人が言う火力にあった。基本的な大きさの生物なら小火器で事足りるが全長二十メートルを超える巨大なガルバニスとなると話が違ってくる。それにヤドカリのような生き物をベースとしているから尚更だ。背中の貝殻はもちろん正面から銃を撃っても尋常ではない硬度が予想される爪に弾かれてしまうだろう。

 仮に数回、擲弾筒を使用しても破壊するのは難しいかもしれない。だからこそありったけの弾が必要である。



「射線を考えると……この辺りか」



 賀堂が指を指すと周りの人間も頷いた。放物線を描いて発射される擲弾筒を考えると建物の残骸が残る市街地での運用は難しい。どうしても開けた土地、または建物の上空を通過して発射することが出来る高台を確保しなくてはならない。

 ガルバニス付近に開けた土地は存在しない。ならば高台を狙う必要がある。丁度、市街地を見渡せる丘があるのだが確保は容易ではない。



「このルートではどうでしょうか?」



 地図を囲う一人の男が口を開いた。しかし賀堂は難しい顔をする。



「それは俺も考えている。情報ではかなりの量が潜んでいるって話だ。」



 ガルバニスも丘を取られることを警戒している。見渡しが良いので生物側からすれば不利になることを見越しているのだ。人間は銃火器を持っている。生物の武器は自身の爪や牙。開けた土地では人間側が優位な立場を取れる。



「その前だ。丘を取る前に住宅地を通らねばならない。襲ってくるとしたらここだ」



 物陰が多数存在する市街地では生物が有利だ。人間よりも機敏に動き、僅かな隙間を通って音無く近づいてくる。もし、懐に入られると味方に被弾する恐れから迂闊に発砲は出来ない。その間に突撃をされたら被害は膨れ上がるだろう。



「我々が何を言っても伏見閣下の承諾が必要です。私が連絡を取りますのでしばしのお待ちを」



 軍人の一人が最後に締めるとその場では解散となった。



 現在は両者にらみ合いの状態が続いている。第一、第三、第四大隊の攻勢により痛手を負っているのはガルバニス陣営でもいえる事。今はどちらとも敵が動くのを待っているはずだ。

 だが、生物らが動かなくても人間側は動く。賀堂はそう気がしてならなかった。



「やっと帰ってきましたね。どうでした?」



 手ごろなブロックを椅子代わりにして座る沙耶たちは腹ごしらえをしていた。賀堂は綾崎が差し出した野戦食を受け取ると開いている石ブロックに座る。



「ダメだ。商隊出身はどうでもいいそうだ」

「やっぱりだね。だから最初に僕が言っただろ? 伏見は信用ならないって。軍人からの評価は高いけど僕らからしたら迷惑な奴さ」



 やれやれとした表情の綾崎は固形食を口に入れモグモグと動かした。



「どんな命令が来るか知らねぇが従うしかねぇだろうな。お嬢ちゃん、矢は補充したか?」

「この短時間ではそうも作れん。材料もないからな。二本は作れるから計五本だ」



 舞は白い布を広げて矢の先端に取り付ける爆薬の作成をしている。元々、補給を目当てにしていた分、手持ちの材料はわずかしかないようだ。前線に届いた物資は武器。弾薬、食料。多くの人間が使用する物に限られていた。

 もちろん手榴弾や即席爆弾、擲弾筒等々の爆発物もあるのだが商隊出身ではなく第一軍商混合大隊に割り当てられている。舞に充てられた物資はなかった。



「はっきり言うと俺らは勝手にやってくれってことだろうな。なんせ独立小隊だ。最初から作戦指揮下にいなくてもいいし元より期待もされていない」



 賀堂は言うが作戦を知っていなくては動くに動けない。筆頭守護官を命ぜられていることから顔は出さないといけない。それに他の人間からも期待や希望を少なからず向けられていることもある。やらなくてもいいがやるべき立場に立たされているのだ。



「まったく面倒だ。これならば守護官なんぞ蹴ってやろうか」

「何だかんだ言って手を出すではありませんか」



 沙耶も賀堂と過ごした時間で感じ取っている。口では文句を言う。けれども慈悲深く手助けをしてしまう人間だと。ただのお人よしだと思っているに違いない。



「うるせぇな。少し黙っていろ」

「黙りませんよーっだ!」



 ニコッと分かる沙耶。ため息をつきながらもこの笑顔で晴れる心があると考えると賀堂は複雑な想いを感じた。



「集合! 伏見閣下から命令が下された」

「早いな。あぁ、行きたくねぇ」



 賀堂は手に持っていた食べ物を口に入れ水で流し込んだ後に立ちあがる。よれたダークスーツのポケットに手を入れて仮設テントへと向かった。


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