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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
39/63

36.見てください! 似合いますか?

『……ニテ、シンコウカイシ』

「どうやら始まったようだね。それに比べてここは何も起きやしない」



 綾崎がつぶやいた。仮設テント内の軍用無線が司令部から引っ切り無しに電波を受信する。鬱陶しい無線の中、賀堂は付近のパイプイスに座りながら現状を確認する為、テーブルに地図を広げていた。

「仕方ないだろ。俺たちは補給地点の防衛だからな。敵さんに会う方が難しい」

 テーブルの向かいに座るのは補給品のリストに目を通す綾崎だ。しかしその姿もつまならさそうだ。



「来る日も来る日もやれ弾薬だ食料だ。けれども戦況はさっぱりだ。前線の奴らは何をしているんだろうね」

「さぁな、筆頭の奴らもいるし、軍からの部隊も出ているから心配はしなくてもいいだろう」

「そうだといいんだけどね……」



 やはり綾崎は指揮官である伏見中将が頭に残っているようだ。嫌な予感がすると言っていたことが現実にならないことを祈るばかり。



「俺らは俺らの仕事をすればいい。なに、いざとなれば司令部から通達が来るだろう」



 無線で流れる戦況を鉛筆で地図に書き込んでいく。とはいえ、補給地点の仕事は名古屋から運ばれてくる武器、弾薬、食料、その他の物資を一時的に管理し、前線からやってくる人間に必要な分だけ渡すという作業だ。量が多いだけあって補給物資の種類によって担当が分かれている。第7補給部隊を任された賀堂の担当は弾薬、食料の補給だった。

 つまり、一番要請が多い仕事についてしまったということだ。それでも補給兵がやってくるのにも波があり現在は束の間の休息時間だ。



「見てください! 似合いますか?」



 バタバタと騒がしくテントにやってきたのは沙耶だ。その姿は1式戦闘服の上からセーラー服を着た姿。であったはずなのだが頭には一回り大きい深緑色のヘルメットをかぶっていた。



「似合わんな。それ、どこから拾ってきた?」

「むっ、山下さんがくれたのですよ。女の子だからケガをしたらダメなんですって。なんて優しい人なのでしょうか」



 一人でオロオロとつぶやいて近くの椅子に座り込む。もし振袖があったなら涙を隠す格好なのだろうか。三門芝居が磨きかかっていた。



「戦闘服をやったろ。我慢しろ」



 その言葉にむっとして椅子の背もたれを肘おきにした。



「少しだけ対抗心を燃やしたようですね。きちんと私の心をキャッチしておかないとどこかへと行ってしまいますよ?」

「あぁ、そうか。なら何所なりと好きにするがいい」

「そこは、ちょっと待てよとかないのですか? だから賀堂さんは女心が分かっていないのですよ」



 沙耶は好き勝手言い放題言っているが賀堂は相手にする様子はない。今もなお無線から流れる感染生物ら陣形、討伐隊の進行状況を地図に書き綴っている。



「お前は俺に何をしてほしいんだよ」

「……別にいいですよ」



 ふんっとふんぞり返った沙耶はテントから立ち去ってしまった。しばらくして振り向いた様子があったが無論、賀堂は気が付かない。その様子を蚊帳の外で見ていた綾崎はそうではないようだ。



「お年頃だね。誰かに構ってほしいのさ」

「なら代わりにお前が相手をしてやれ」

「全く、そういうところだよ。女心が分かっていないってのはね」



 綾崎も呆れ顔だった。まぁ、そういうところを含めて奏だねと付け加えて。

 賀堂らの仕事はほとんどが『竹トンボ』の山下ら4人が引き受けてくれた。やはり経験が豊富なだけあって人員をまとめるのがうまいようだ。



「ところでここの小隊に支給された武器は何だ?」

「ここかい? 確か『月桂』が……支給されていたような」

「……よりにもよってそれか」



 綾崎が気まずそうに横目をそらしながら言うが聞いた賀堂も項垂れた。『L-1月桂』は1番目に開発された軽機関銃だ。弾をばら撒き陣地を防衛することを目的に設計されたものだがあまりにも出来の悪さに『バカマシンガン』と呼ばれる。

 30発、保弾板を使用した給弾方式を採用している。にも関わらず弾詰まりが頻繁に起こる上にオーバーヒートをしやすい。利点を言えば細かな部品を極力使用しないので故障が起きづらいぐらいだ。



 過去の日本が製造した62式機関銃の評価と比べると明らかに『L1-月桂』が劣っている。つまり現在の『言う事機関銃』や『無い方がマシンガン』の名は実質、『月桂』の為にあるようなものだ。

 そんな背景もあってか賀堂と綾崎が浮かない顔をするのは仕方がない。信頼性というものが皆無だからだ。



「綾崎……後で違う機銃を申請してくれ」

「いやー、既にしたのだけど前線に配備しているから残っているのがないって言われたんだよ。まぁ、軽機関銃もまだ2種類しかないからね。きちんと整備すれば当たらなくとも弾は出るさ」



 無理やり笑いながら楽観的に考える綾崎。確かに補給地点を襲撃されるとは考えにくい。しかし、防衛火器がないとなるのも不安に駆られる。つまり、弾が出るか出ないかは問題でなくそこにあるということに意味があるのだと賀堂は思った。ただ、『月桂』の場合、頼りにもならないから早々に諦めもつく。



「戦闘にならないことを祈るか」

「その時は個人携帯の銃で応戦だね。試しに『月桂』を使ってみるのもいいかもしれないけど」

「弾の無駄だ」



 しかし、暇だと言わんばかりに背もたれに体重を預けてテントの天井を見上げた。このままガルバニスの討伐が完了したらさっさと次の仕事に移れると考えていた矢先、無線がおおきく鳴り響いた。



「コチ……ラ、ダイニセンコウダイタイ、カイメツ、カイメツ! シキュウ、キュウエンヲコウ」

「ねぇ、奏! 今の聞いたか?」

「音量を上げろ」



 立ち上がった綾崎は無線機の前に座ると音量調整をするつまみを回した。賀堂も次に流れる無線の内容に耳を傾ける。


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