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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
36/63

33.あ、もしかして私が心配なのですか?

 場所は名古屋作戦司令部の前。賀堂は小隊の申請をするために訪れていた。しかし、穏やかではない。沙耶が賀堂の服を引っ張り本部の建物に行かせないようにしていた。



「私が入ってあげますから。それでいいじゃありませんか」

「何度も言っているだろ。てめぇが来ても足引っ張るだけだ」

「そ、そんな言い方はないじゃありませんか。私だってやる時はやれますから」

「なぜそんな行きたがる。時々、おめぇの行動が読めん」

「なぜって、それは……。お、女の子には事情があるのです」



 二人のやり取りを見ていた綾崎は楽しそうだ。通行人も何事かと二人に目をやりながら横切っていく。そのたびに綾崎は苦笑いをしてゆく人にはぐらかしていた。正直、いつ止めようかと迷っている。



「むっ、このままでは話が進みそうにないですね。少し待っていてください!」

「待つも何もお前の話はハナから聞かねぇよ」

「いいですよーっだ!」



 そして沙耶はずいずいと綾崎の元に行く。さすがの綾崎も勢いに負け後ずさりをした。



「な、なんだい沙耶ちゃん。僕に何をしろと言うんだい?」

「綾崎さんはどっちの味方ですか? 私ですか? それとも賀堂さんですか?」

「難しいことを聞くね。そんなこと言われても僕はどう答えたらいいのだい?」



 必死に答えるのを避けようとする。が、沙耶はそれを逃がさない。



「いいのですか? もし協力してくれたら賀堂さんと二人っきりにする時間を作ってあげますよ。ほら、賀堂さんは私に甘いですから」

「き、君、想像以上に性格が悪いね。奏も可哀そうに」



 不敵な笑みを浮かべる沙耶。使えるものは全部使っていやるという心構え。目の前の綾崎は沙耶の性格を垣間見ることになった。しかしせっかくのチャンスを無駄にすることは出来ない。悩みに悩む。



「それで? どうされますか?」

「うぅ、し、従うよ。ただし約束は絶対だからね。破ったら承知しないから」

「えぇ、もちろんです」



 沙耶と綾崎は手を酌み交わした。そして沙耶は再び賀堂の元へと戻る。



「さぁ、賀堂さん。綾崎さんはこちらに付きました。どうされますか?」

「……お前が何をしたか知らんが連れて行かねぇからな」

「むっ、いい加減諦めたらどうですか? 私は一歩も引きませんよ!」

「諦めるのはお前の方だ!」



 やり取りの終わりは見えない。むしろ泥沼化している。



「まぁまぁ、奏。ここはひとつ折れたらどうだ?」



 綾崎が手助けに入る。賀堂もため息をつかざるを得ないだろう。



「全く。何を言われたんだ」

「べ、別に何もないから。それより本当に沙耶ちゃんを連れて行った方がいいと僕は思っているよ」



 沙耶に促されたわけではない。綾崎の本心からそう言った。



「奏と僕はしばらくここから離れる。となると誰が沙耶ちゃんを見るんだい? 何も知らない土地に置き去りにするほど酷なものはないさ」

「……確かにそうだが」



 綾崎の言う事にも一理ある。たった一人で数週間を過ごせるかというと簡単にうなずけない所があるからだ。



「そうですよ。もし誰かに襲われたらどうするのですか? 私は賀堂さんの大切な荷物なのですから」



 先ほどと違い優位に立ったと見て堂々として優越な表情だ。沙耶の言葉に即答できない賀堂は言葉に詰まった。更に畳みかける。



「あー、か弱い女の子一人を置き去りにするなんて。賀堂さんの人でなし!」



 やれやれという表情だ。してやったりと満悦な様子の沙耶を諭すように賀堂が口を開く。



「今から何が起こるか俺にも分からねぇ。そこにお前を連れていくのも気が引ける」

「大丈夫ですよ。賀堂さんが守ってくれますから」

「段々と性格が悪くなっているな」

「違いますよ。生き抜く術を覚えたのです」



 要は言い方である。沙耶の身にもしものことがあれば賀堂の運び屋としての名に傷がつく。かと言って討伐隊として連れていくのも危険に飛び込ませるようなものだ。



「何にしろ経験だ。もしここで死ぬようではそれまでだってことだよ。その時は僕が証人になってやるさ」

「そういう事を言っているわけではねぇ」



 賀堂は自身の名前はどうでもいい。運び屋はいつでも必要とされる。だが人の命は違う。たった一つだ。一度、失ってしまえばそれまでとなる。



「あ、もしかして私が心配なのですか?」



 悪戯っぽく笑みを浮かべた沙耶。賀堂は目を背け顔もそらした。頭をかきながら目を閉じると



「あぁ、そうだな」



 それはとても小さな声だった。でも沙耶の耳には一字一句間違いなく届いた。

 まさか賀堂が素直な言葉をするとは思っていなかったのだろう。沙耶は頬を赤らめて照れた。



「そ、そんな事言われると何だかは、恥ずかしいです。で、でも、連れて行ってもらいますからね!」

「もういい。お前の言う通りにする。だが、小隊長は俺だ。言うことは聞いてもらう」

「はい! 分かりました!」



 これは超えるべき試練だ。この荒廃した世界を生き抜くために身を呈してでも術を身に付けなくてはならない。もう、誰にも守られることなく自分の身は守らなくてはならない。そして、誰かを守る力を付けたい。それも、適合実験で命を落としてしまえば意味はない。

 ただ、生き抜いたという自己満足が欲しいがため。今はあらゆる事を利用させてもらう。



 沙耶の笑顔の内面は真っ暗闇だ。自分という人間がどうであるかなんて分からない。自分が何をしているのかもはっきりしていない。だからこそ、誰かに認めてもらいたいのだ。


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