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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
27/63

24.あれ? 賀堂さん。今、笑いましたか?

「守護……官?」

「あぁ、そうとも。行政の指令で奏はいつでもお役人となるからね」



 守護菅。それは名古屋行政が定めた特例法による産物だ。腕の良い傭兵や運びを名古屋警護の為に一役を担ってもらうために定めたもの。つまり、特例法が発動されている間、賀堂は名古屋の守備の為に動かなくてはならない。

 守護菅に選ばれる者はどれもが歴戦の手練れである事は間違いない。おいそれと容認する人間は少ないので相応の報酬が名古屋から定期的に支払われる。賀堂も条件付きで守護菅の座席を容認している。



「だから奏はこんなに無駄にでかい家に住んでいるのさ。いやー、これにすがれるとは私もよき友をもって嬉しい事だね」



 賀堂は何も言わなかった。いや、言っても無駄だろうと思っただろう。どうせ綾崎の事だから何を言われても居座るに違いない。



「賀堂さんって実はすごい人だったのですね」



 沙耶は徐々に賀堂の名古屋での立場を理解していっているようだ。だが、実感が持てない。ただの顔が厳つくて、不愛想で、お人よしの賀堂が名古屋では重要な人間だとは知る由もなかったからだ。


「実はも何もすごいさ。古参も古参。僕の依頼をきちんとこなすのは奏ぐらいだからね」

「えっ、他の方だとこなせないのですか?」



 綾崎は情報屋だ。賀堂だけに仕事を流している訳ではない。だが、真に綾崎が持ってくる仕事をこなすのは賀堂だけであるということだ。綾崎は運び屋、または商隊を見て適している仕事を受け渡しているに過ぎない。



「そうだね。やってほしい仕事がある時は奏ぐらいしか頼まないさ。他の奴らには見合ったものしか流していないね」

「そのせいで今もこうして面倒なことに巻き込まれているのだけどな」



賀堂は横やりを刺すように口を挟むが綾崎は詫び入れる様子はない。



「それは僕が悪いわけではないさ。東京に言ってくれ。それか沙耶ちゃんから聞くのがいいかもね」



 ニヤリと綾崎は沙耶に視線を流す。その目は高みの見物といった様子か。まるで手のひらで踊らされているような感覚に沙耶は陥るだろう。だが気が付かない振りをする。



「こいつに聞いても分からねぇだろ。まぁいい。何とかする」

「さすが奏。僕はそういうところが好きなのだよ」

「そりゃ、結構だ」

「釣れないな」



 綾崎は賀堂の素っ気ない反応に肩を落とす。当然、返答は予想していたかもしれないがそれでも心に来るものはあるだろう。



「まぁいいさ。いつかは振り向かせて見せるよ。それよりも僕はお腹が空いた。何か食べに行かないかい?」



 時間も夕食の頃合いとなり腹をさすりながら綾崎は提案をした。



「私もお腹が空きました。賀堂さんはそろそろ何か食べないといけないですよね」



 沙耶も同意して賀堂に促す。グラトニーである賀堂は食事をとり続けなくてはならない。つまり返答は決まっている。



「そうだな。雨も止んでいるだろうし食いに行くか」

「いいね。それとこれもどうだい?」



 綾崎はおちょこで飲む動作をする。



「てことは今日は飲んでないのかお前は」

「そりゃ奏が帰ってきたと聞いたんだ。我慢をするしかないだろう」



 少しばかりだが目つきの悪い賀堂が笑みを浮かべる。もちろん沙耶はその変化が分からないようだが綾崎は気が付いた。



「よし、では行こうじゃないか。あ、沙耶ちゃんは未成年だからダメだよ」

「知っています! 私はおいしい物が食べられればそれでいいですから!」



 三人は立ち上がって廊下へと向かう。綾崎はシャーロックハットを被ると最後に廊下に出ようとする。そこで気が付いたように部屋の明かりを消して扉を閉めた。

 廊下には談笑をする三人の姿。普段の廊下なら二人だ。それが今は新たに一人、中央に沙耶を加えている。今ぐらい仕事を忘れて楽しむのもいいだろう。賀堂は隣で歩く沙耶のを見て懐かしさを感じる。



「あれ? 賀堂さん。今、笑いましたか?」

「見間違いだろう」



 そう。特に意味の無い会話を続けて夜の街へと歩いていった。


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