23.ちょっ! 何しているのですか!
「お前と話すと頭が痛い」
「全くチャンスを無駄にするのは悪い癖だよ。肉付きも程よく若い体だから楽しまないと損だよ。これほどいい女の子は中々いないものだよ」
沙耶は褒められているのかそれともけなさされているのか分からない。だが、今まで同じような事を言われている。結局、壁の中で育ってきた沙耶は過酷な世界で生きる人の考えは同じなのだと思うだろう。
「わ、私だって好きでこんな感じになったのではありません」
「こんなって? それは自分の体かい?」
濁して言ったのに綾崎は直球で攻めてくる。恥じらいは捨てなくてはいけない。それが外の世界で生きるためなのだから。
「そ、そうです。胸だって大きいと邪魔ですし。それに肩が凝りますから!」
「ほう……。言ってくれるね。僕は大きい方が良かったのだけど見ての通り沙耶ちゃんより小さい。羨ましいねぇ。奏は巨乳好きなのに」
「いつ誰がそんなこと言った?」
賀堂は口を挟む。身に覚えのない事を言いふらされても困る。それに沙耶の困惑した顔が気になっていた。
「ち、違います! 賀堂さんはお尻が好きだって言っていました!」
「えっ? それは本当かい?」
綾崎は初耳だったようで賀堂に問い詰める
「いや……、あれはだな。別に深い意味があったわけじゃなくて……」
珍しく賀堂が焦る様子を見せた。以前、自身が口にした言葉が今になって身に降りかかろうとは思わなかっただろう。綾崎は賀堂に近づきさらに問う。
「どっちなんだい? 尻か? 全く、奏も男だな」
「……」
口は災いの元。賀堂は目を瞑り、腕を組む。黙秘を決め込むように口を開かなかった。
「仕方ないな。僕のを触ってもいいよ。君だけのものだ」
「ちょっ! 何しているのですか!」
「何って好きならば触らせてあげようかと。って引っ張らないでくれ」
賀堂のひざ元に座り今にも何かしでかそうと企む綾崎の顔を見て早々に沙耶は立ち上がり賀堂から引き離した。
しつこい沙耶の抵抗に観念してか再びソファに座る。
「沙耶ちゃんって案外力が強いんだね。全く、僕の楽しみを邪魔して」
「綾崎さんが悪いのです。一応、私は未成年ですので!」
念を押すように力強くはっきりと物申した。
「何が未成年だい。僕はそんなことは気にしない主義でね。一人の女として見るよ」
「嬉しいのやら悲しいのやら複雑な気持ちになりますね」
「なぁ、綾崎。仕事のは――」
賀堂がようやく口を挟もうとするが綾崎は聞く耳を持たず言いたい放題である。
「なぁ、奏。今夜はどうかな? 僕はずっと待ち続けていたんだよ」
「……何がだ?」
どうせ変なことを言うに違いないと賀堂は予想していた。
「それを乙女に言わせるなんて君は鬼畜だね。分かっているだろ?」
「あぁ、何も分からん」
賀堂は素っ気ない反応だ。
「クリスマスの日。外ではみんなが飲んで騒いで歌を歌っている時に奏では私の声を聞いていたじゃないか」
「確かにお前の訳の分からない話は聞かされていたな」
「奏が獣のように私を求めていたことだってあるじゃないか」
「一度たりとも無いけどな」
綾崎は事実でないことを言いふらしているようだが賀堂は即答で否定する。
「釣れないな。まぁ、いいとしよう。夜道に気を付けたまえ」
一体、何に気を付ければよいのだろうか。賀堂は頭を抱えるばかりだった。
「それでだ綾崎。聞きてぇことがある」
「ふむ。仕事の事かい? それとも名古屋の事かい?」
情報屋は名ばかりではない。常に相手が求める情報を分かっているのだ。賀堂も仕事と名古屋のこと。
「まずは仕事の事だ。今回、お前から振ってきたこの仕事だが、何かおかしい。どうやら東京のいざこざでこの依頼を邪魔だかなんだかよう分からんことになっている。何か知っているか?」
沙耶は賀堂の言葉を平然とした顔で聞いているが内心は心臓の鼓動が高鳴っている。
「そうだね」
綾崎も横目に沙耶の様子を見る。決して暖かい物ではない。鋭い、そして冷酷な目だ。沙耶も綾崎が視線を動かしたことに気が付くが視線をそらした。
「僕にも良くわからないな。ただ、被検体を福岡に連れていけとしか聞いていないけどね」
「綾崎でも分からないか。厄介だな」
「でも受けてしまったものは仕方がない。しっかりとやり遂げたまえよ」
賀堂はため息で返事をした。
「それで名古屋の現状は?」
「奏も聞いているだろう。異業種だよ。まだ正式の固有名は決められていないらしいが時期に出るだろう」
荒廃世界にはウイルスに感染した生物にも名前がある。だが、今回名古屋に姿を現した異業種は未確認の異形種であった。つまり、まだ呼び名が決まっていない。綾崎が言うには時期に名前を決定され討伐隊が結成されるということだ。
「つまり奏は参加しないといけない。まだ商隊が集まっていないから足止めを食らうね」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
沙耶がゆっくり手を上げる。
「前から気になっていたのですけど、なぜ賀堂さんは名古屋から離れることが出来ないのですか?」
以前から特例法が賀堂に出ているやら名古屋から離れることが出来ないと聞いていたが理由は聞いていなかった。
「なんだ、聞いていなかったのかい。奏は名古屋の筆頭守護官だからだよ」
その言葉は沙耶にとって馴染みがなかった。




