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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
23/63

20.で、では、一緒に入りましょう!

 沙耶は感嘆の声を漏らした。



 もう雨は止んでいるのだろう。上方、壁に設置されたガラスを通して光が漏れ、放射状に降り注ぐ景色は幻想的な雰囲気を作り上げていた。白黒の正四角形のタイルが浴場を忘れさせるようなデザインだ。

 他にも壁面には絵画が施され、辺りには小さな彫刻物が設置されている。



「なんか王様になった気分ですね」

「正直こんなのいらねぇんだけどな。それに俺には芸術の良さが分からねぇ」



 賀堂の場合は興味がない。見た目よりも使いやすさを重視する。となればこの屋敷は一人で住むには不便である事は間違いないが運び屋、適合者グラトニーである事から物が増えるのは避けられない。ほとんど物置としか考えていないだろう。



「これで良し」



 賀堂は壁の小さな蓋を開けてバルブを回すと浴場の湯口から水が流れ始めた。徐々に湯気が混じりだしあっという間に浴場内は蒸気で包まれる。



 二人は再び脱衣所に戻った。



「さぁ、後は好きにしろ。洗剤なんかは隅の籠に入っているから勝手に使え」



 指をさす方向の籠を見に行くと乱雑に未使用の石鹸やらタオルやらが入れられていた。好きにと言われたので選別する為に品々を見ていくと沙耶は目を輝かせた。



「こ、これって結構値段が張る物ですよね。しかもシャンプーとトリートメントがセットの女性用です。ん? 女性用?」



 現代の日本では日用品は比較的高い品物だ。最悪、生きるためには必要の無い物であるから金を持つ人間を相手にするため高級であることが多い。沙耶の目の輝きはそれが一つの理由でもあるが女性用というところが大きく占めていた。



「あぁ……。それは俺のではないな。そこにあるのは自由にしていい。使っちまえ」

「えっ? いいのですか?」



 賀堂のではないと言うことは誰か他に居住者がいることなのだろうかと考えてしまう。しかし賀堂の素っ気ない態度と使ってもいいという許可も降りているのでありがたく使わせてもらおうと思う。



「さすがに冷える。さっさと入れ。風を引かれても困るからな」



 賀堂も沙耶も服は濡れている。もう長い事そのままなので体中は冷え切っていた。適合者である賀堂が風を引くことはまずないが普通の人間である沙耶は十分にあり得る。

 賀堂が脱衣所から出ていこうと扉のノブに手を掛けるが様子がおかしい。扉の前に立ち尽くす賀堂の姿を見た沙耶が何事かと思い近づいてみる。



「賀堂さん。どうされました?」

「……これを見ろ」



 そういって右手を差し出したので沙耶が両手で受け取る。ずっしりと重い金属の塊だった。



「これってドアノブではないですか!」

「あぁ、壊れた。いや、壊されたか。しまいには外から鍵を掛けられている」



 ため息をつきあきれ顔の賀堂。



「い、一体誰がこんな事をするのですか」

「まぁ……、一人だけ心あたりがある」

「えっ! 他にも誰か住んでいるのですか?」



 沙耶が聞くと賀堂は渋い顔をする。



「いや、俺一人だ。と言いたいが勝手に鍵を作ってよく出入りしている奴が一名いる。しかも耳がいい事この上ない奴でな。ほら、見てみろ」



 賀堂が脱衣所の籠に指をさす。沙耶も指先の籠を見てみると中には白いバスタオルが入っていた。



「いつの間に! それに二人分ありますよ。あっ……、もしかして」



 沙耶が浴場に足を踏み入れる前に見た扉の動き。もしやあの時に侵入していたかもしれない。



「どうしろってんだよ。何が狙いだ」

「そんな変な人を自宅でうろついているっておかしいですね」

「おかしいも何も恐らく綾崎の仕業だろ」

「あぁ、情報屋の……」



 奇妙な行動をしていることは間違いない。綾崎という人は頭のおかしい人なのだろうかと思うだろう。

 そんなことよりも浴場を目の前にして濡れたままの服とはいただけない。沙耶は早いとこお湯に入りたかった。しかし目の前には賀堂がいる。堂々と脱ぐわけにもいかずどうしようかと考えていた。



「俺は扉と会話でもしているからお前は入ってこい。何、振り向きはしない」

「えっと、それは嬉しいのですが賀堂さんも濡れたままというのは」

「俺は適合者だ。気にするな」



 それでも一人だけ湯につかり体を温めるのも気が引ける。どうすればいいかと悩んだ結果、沙耶から思いもよらない言葉が出てきた。



「で、では、一緒に入りましょう! こんな大きいお風呂ですから大丈夫です」

「……はぁ? 何言ってやがる。俺は男だぞ」

「いいじゃないですか別に。私はびしょ濡れの人を脱衣所で待たせるほど鬼ではありません。広い心を持っているのですから」



 賀堂の言うことは真っ当だがそれでは気持ちよく風呂に入れないと沙耶が渋る。賀堂は何度も説得しようとするが既に聞く耳を持たない沙耶に何を言っても無駄であった。



 ため息をつかざるを得ない。



「……分かったよ。入ればいいんだろ」



 となれば賀堂の行動は早い。沙耶が隣にいるにも関わらず濡れた服を選択籠に投げ入れてタオル一枚で浴場にさっさと行ってしまった。賀堂が突然脱ぎ始めると沙耶の心臓が高鳴り、まじまじと体を見てしまった沙耶。自分で誘ったのは良いけど今さらになって緊張をし始めてしまった。



「ど、どうしましょう。初めて男の人の肌を見てしまいました」



 動揺したまま一枚ずつ服を脱いでいく。大きめのタオルを引っ張り体を隠し、浴場へと足を運んだ。


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