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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
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18.綾崎を知らないか?

 足早に壁にたどり着くと銃を持ち慌ただしく駆け回る兵士が目立つようになる。賀堂と沙耶がいるのは壁の中、より細かく言うと名古屋を囲う外壁の中であるので雨はしのげているが服にしみ込んだ水滴で寒い事には変わりない。

 二人を振り向く兵士もいるが基本的に自分たちの仕事があるので構いはしない。賀堂は服を絞りつつ壁の中に入るためのゲートへと近づいていく。



「運び屋の賀堂だ。中に入りたい」



 ゲートを管理する兵士にジャケットの内ポケットから取り出した手帳を見せる。「確認します」とぶっきらぼうな態度だった兵士は手帳の中身を確認した途端、すぐさま立ち上がり敬礼をする。



「も、申し訳ありません! 賀堂様とはつい知らず……」



 その様子を目を丸くして見ていた沙耶。一体、何が起きたのだろうと思う。



「いや、構わねぇ。それよりも聞きたいことがあるんだが」

「恐らく壁の事ですね」



 賀堂が説明する前に兵士は答えた。おおよそ、ここらで聞きたいことは壁以外出てくることはないのだろう。



「あぁ、あれは何だ? まさか外からやられたと言うわけねぇだろうな」

「いや、それが……」



 反応からするにそういう事なのだろう。兵士は非常に言いにくそうだった。



「先日に襲撃されまして、我々もいつも通り応戦しました。それは今に始まったことではないので問題なかったのですが……。例外ですよ」

「異形種か……」



 兵士はコクリと頷いた。



 既に日本に残る生物はウイルスによって異変し人間に敵対する生物もいれば温厚な生物もいる。どれもが生命力が強く、集団になれば脅威が増すのは言うまでもない。

 同種同士でしか行動をしないのが原則だがたった一つだけ例外が発生する。それが生物の中でも突然変異を重ねて生まれた異形種の存在だ。



 多くの怪物たちを束ねることができ自在に命令をすることができると言われている。文献や研究資料も少ないが有力な情報では人間の様に知恵を持っていると言われる。そして恐ろしいことに言葉が話せる個体が見つかった例もあるのだ。



「現在は特例法が出ています。名古屋の有力な商隊が招集されています。恐らく賀堂様にも出ていることでしょう」

「だろうな。今まで連絡はなかったが」

「賀堂様は運送ルートを申請しないのでこちらからは連絡を出すことが出来ませんのでご容赦を」

「そりゃすまねぇ。俺の落ち度だな」



 商隊及び運び屋には仕事をする拠点を持っている。現在、賀堂の拠点は名古屋である。本来なら名古屋を出る前に運送ルートを商隊管理局に提出しなければならないが面倒だと言うことで提出をしていなかった。万が一、賀堂以外が行えば闇取引と言うことで検挙の対象になるだろう。顔が知れ渡る賀堂ならではの行動だ。



「とは言え申請が確認できない商隊が多すぎですので小さな商隊は無視されていますが」



 兵士の言うようにずさんな管理をしているのも事実だ。商隊規模が小さいと黙認されることもある。大きな商隊、有名どころは管理局も目を見張っている。つまり、招集がかかっているということは比較的規模の大きい商隊が名古屋に集結していることになる。



「それよりも綾崎の居場所を知らんか?」

「さぁ、晴れていればどこかの酒屋で飲んでいるとは思いますが」

「そうか。まぁ、自分で探すか」



 ゲートの兵士に別れを告げる。賀堂が背中を向けても律儀に敬礼をしたままだった。



「賀堂さん。綾崎って誰なんですか?」

「俺が探している情報屋だ。恐らくどっかで飲んでいると思うけどな」



 およその行動パターンは読める。一つ一つ当たっていけばいつかは出会うだろうと考えていた。壁を過ぎると再び天を拝むことになる。つまり名古屋の土を踏むという訳だ。



「……誰もいませんね」

「明日は晴れるだろ。そん時は賑やかだ」



 過去に建てられた高層ビルなどの見上げるような建物はない。すべてがLEで雨の様に降った爆弾で破壊されているのだ。広大な土地を更地にし、一軒一軒を立て直して造り上げた都市なのだ。

 繁華街らしきところ以外は隙間なく住居で埋め尽くされている。それも木製、または適当な材料で造り上げたような建物ばかりだ。



「ここらは人通りが多いからなんもないが奥に行くと迷路のようになっているからな。迷子になるなよ」

「わ、分かっていますよ。子供扱いしないでください」



 辺りを見渡しながら名古屋に到着した喜びを隠せないようだ。初めての光景ばかりで新鮮なのだろう。



「色々周りてぇのはそうだがムーがいることには自由に歩けん。俺の家に向かいながら探すとするか」

「そういえば賀堂さんってご自宅を持っていたのですね」

「そりゃ俺にも家はあるさ」



 人が少ないことが結果としてムーが普段歩けない場所も行けた。それを言いことにあちらこちらにある出店や飲み屋に顔を出しては綾崎を知らないかと尋ねる。だが、皆口をそろえて見かけてないと返事をした。



「名古屋ってこんなにお店がるのですね。しかも出店ばかり」

「そんな珍しいか。まぁ、スラム街のようなもんだからな。汚いのは仕方ねぇが物資をそろえるには都合がいい」

「はい! 東京ではお店は建物の中が基本ですので。屋台みたいなのもありますけど名古屋ほどではありません。ここは見ていても楽しいです」



 自分が住まう都市を楽しそうに話す沙耶を見て賀堂は気を悪くしない。むしろ笑みを浮かべて沙耶を眺めているほどだ。



「なら今晩にまた来てみるか。夜の街は病みつきになる。そのころには雨も止んでいるだろう」

「えっ! いいのですか?」

「まぁな。さっきも話したと思うが俺は特例法でしばらく名古屋を離れることができないからな。お前を福岡に送るのはしばらく預けてはくれないか?」



 沙耶は満面の笑顔で返事をした。それと同時に何か申し訳ない気持ちにもなるがせっかくの名古屋を体験したことには生きていた価値は薄くなってしまう。しばらくは大丈夫だと考える。

 その後も名古屋を回りつつ綾崎を探すが見つかることはなかった。



「こりゃダメだな。一度、帰るか」

「賀堂さんのご自宅はどんなのでしょう。楽しみです」

「まぁ、そんな面白れぇもんでもねぇけど」



 賀堂の自宅は壁内の中心地にある。繁華街と住宅街は交互に混ざり合うように建てられている。中心地の繁華街は名古屋の中でも規模の大きい。賀堂はその近くに住んでいる。



「こっちだ」



 賀堂はムーが通れる道を選びずいずいと建物が密集している奥へと進んでいく。やはり中心地でも建物が重なり合い、無理やり住居の上に住居を作ったような建築物。賀堂が口にしていたスラム街というに相応しい街だ。だが、これでも商業都市として知られる名古屋なのだ。人が多ければ物も多い。

 スラム街を抜けたと思うとピタリと住居がなくなる。そして塀を挟み明らかに区分けされている地帯があった。



「な、なぜ鉄門がここに?」

「俺の家はこの中だ」



 二人が立っているのは大きな鉄門の前。その前には守衛付きの監視室がある。そして中から窓越しに二人を見る守衛がいた。賀堂が返事をするように軽く手を挙げると守衛は再び机に向かい書類を書き始めた。



「何をしている。さっさと歩け」



 賀堂は言うが沙耶にはそうもいかない。口を開き唖然としている。なぜなら見たこともない屋敷が、この時代には似つかわしくない豪邸が立ち並んでいたからだ。


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