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14.大胆な寝巻

 日が昇り朝を迎える。雑草についた朝露で靴を濡らしながら賀堂はムーに餌を与えていた。皐月と沙耶は昨日の出来事でまだ疲れているのだろう、未だ起きる様子もない。となると賀堂の相手をしてくれるのはムーだけとなる。

 とはいえこのままでは出発時刻に遅れるやもしれない。起こすべきかそれとも寝かせとくべきか。どうしたらいいと思うとムーに尋ねても鈍い鳴き声しか返ってこない。



 一通り荷物をまとめてムーの側に固めて置いておくことにする。賀堂は様子を見に戻ることにした。

 木製の扉を開けると皐月は食事の準備をしていた。



「ようやくお目覚めか」

「ようやくって……、まだ誰も起きる時間ではないでしょ」

「ん? あぁ、そうだったな。それよりもスリーパーの睡眠時間には驚いた」



 皐月はリーパーの巣窟から帰る途中で眠りについてしまった。時にして夕刻前である。その時間帯から朝まで眠り続けていた。もし賀堂のように旅をする人間なら致命的な欠点になるだろう。



「俺はグラトニーで良かった」

「まぁ、奏みたいな生活をするなら不便でしょうね。私がグラトニーだったら物資不足で終了ね」



 適合者として生きるにはそれなりの苦労も伴う。まず適合者としての性質に逆らえないという事。賀堂なら食料を大量に必要する。皐月は突如、睡魔に襲われる。グラトニーとスリーパーはまだましであると言われているのが現状。ラスターに成り果てた場合は本能のままに動くしかない。つまりあらゆることに我慢ができないということだ。



 ラスターは多くの人間が避けていく。何しろ自己中心で人の話は全く聞かない。自分のやりたいように生きるのだから。協調性の欠片も持ち合わせていない。つまりモータルと化すに近しい存在なのだ。

 その分適合者に寿命はない。歳老いることもない。もちろんそれぞれの性質に逆らわずに生きていた場合だ。身体能力も通常の人間よりも優れ身体の欠損の修復も早くなる。感染が発覚した時点から容姿が変わらないのも関係あるが常に状態を保つという性質であるからだ。



 欠点は脳が破壊されること。怪物と成り果てたモータルに出会うとしたら必ず脳を狙わなくてはならない。

 しばらく賀堂は床に座り皐月が調理をする姿を眺めていた。



「腹減った」

「もうすぐ出来るから。それよりも沙耶ちゃんを起こしてきて」



 あぁ、と返事をして重い腰を上げる。歩くたびにミシミシと老朽化した床の音を鳴らしながら沙耶が寝ているという離れに向かう。

 途中、縁側で皐月の父親、賀堂は爺さんと呼ぶ人物がうたたねをしていた。気になる点はそこよりも干されているセーラー服だ。あれは沙耶が来ていた物ではないかと半ば疑問を持ちながら通り過ぎる。



 離れに着くと賀堂は沙耶が起きていないか耳を澄ます。音は聞こえない。開けるぞと一言添えて扉を開ける。



「ったく。いつまで寝てやがる」



 まるで自宅のように居心地の良さそうな顔をして寝息を立てていた。見る限り起こしに来なければ昼過ぎまで寝ていただろうと思えるほどだ。賀堂はしゃがみ、沙耶を揺らす。



「おい、飯だ。さっさと起きろ」

「んんぅ……。あれ? 賀堂さん?」



 どうやら昨日もそうだったが寝起きは良くないようだ。目も半開きでひどい顔になっている。眠気に唸りながらむくむくと布団から這い出るとダボダボのシャツ一枚の姿だった。



「なんだその恰好は?」

「ん……。私、服を一枚も持っていませんので皐月さんのを勝手に借りたのですよ。一番大きい物を引っ張てきましたが皐月さんでもサイズ違いますよね」



 目を擦りながらあくび混じりにボソボソとつぶやく。

 それにしてもだ。まだ成年に満たない年頃の女子高生がよくその恰好を賀堂に見せたまま恥じらいがない。まだ寝ぼけているようだ。



「まぁ、いい。昼前には出発するからな。荷物をまとめておけよ」

「はーい。分かりました」



 返事をしてまた布団に潜ろうとする。布団を包い芋虫のようにモゾモゾと動き出す。その様子を見て賀堂はため息をつく。



「何してんだ。さっさと布団から出ろ」



 無理やり引きはがそうと試みるが思った以上に掴む力が強い。沙耶も徹底抗戦をするようで全身の力を込めて布団を掴む。



「後、五分だけですから!」

「てめぇの言うことが信じられるかよ! 俺はさっさと名古屋に行きてぇんだよ」

「えっ! 名古屋ですか!」



 急に布団を話す者だから賀堂も驚いて体制を崩す。転ぶまではしなくとも足がもつれてしまった。



「とうとう名古屋に行けるのですね。あぁ、楽しみだな」



 沙耶は軍事国家東京の生まれなのであまり華やかさのない暮らしをしていた。だが、商業国家名古屋は他の都市に比べあらゆる物資が多く集まる都市だ。沙耶が好きそうな物が溢れかえっているのは間違いない。



「前にも言ったが立ち寄るだけだからな。変な期待はすんじゃねぇぞ」

「えー、ケチ! 少しぐらい良いじゃないですか。減るものでもないですし」

「減るものはいくらでもあるけどな」



 つまり賀堂の金である。賀堂が大量に消費する食料や水の補給。それに弾薬が必要だ。それにこの先H2-雷針だけでは心もとない。

 沙耶は顔を膨らませて再び布団に潜った。賀堂が何を言っても返事すら返ってこない。やはり頭を抱えてため息をついてしまう。



「分かったよ。少しだけだからな」

「本当ですね! 約束ですから!」



 結局、賀堂が折れるしかないようだ。まぁ、少しぐらいは良いだろう。沙耶は福岡で命を落とすかもしれないのだ。遊びも知らずしてそれはあまりにも不遇だろう。



「さぁ、飯にするぞ」



 賀堂は扉を開ける。待ってくださいと沙耶も立ち上がってバタバタと床を鳴らして離れを後にする。



「おめぇ……、その恰好で行くのか?」



 座っていた時はあまり気にしていなかったが立ち上がるとあまりにも大胆な姿をしていた。シャツ一枚では足は隠せないだろうに。


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