11.ふふっ、殺しちゃった。
何やら様子を窺うように直ぐに発砲するわけではないようだ。その間にざっと人数を数えると約二十人弱。甘く見られたものだ。
「なるほど。誘い込んだってわけか。こりゃ物騒だ」
「いいじゃない。この方が楽しいわ。あなただってそう思っているでしょ。いや、その顔を見れば聞かなくてもよさそうね」
「大勢を相手にするのは随分と久しくてな。だがいきなりおっぱじめようてのも礼儀がない。おい! てめぇらの頭は誰だ? 話がしたい」
賀堂はリーパーらに話しかけるが誰一人反応する気配はない。賀堂も会話ができるほど利口は奴らではないと重々承知の上だがそれでも返答がないと頭に来るものがある。
「あらあら、無視を決めこんだみたいね」
と思いきやようやくリーパーは重たい口を開いた。
「へへっ。お前らに話すことはない。大人しく金目の物を置いてけ。命だけは助けてやる。」
その場にいるリーパーらは数の優位に立つことでゆとりが生まれる。絶対に逃げ出すに決まっている。男は殺して女は生け捕りだと意思疎通を図っているだろう。
だが返答は違った。
「なら力づくで聞くしかないな。集落のガキの安否。沙耶をさらった訳。そして、てめぇらの頭の居場所をな!」
開幕、賀堂は雷針の引き金を引く。照準に入るリーパーも遅れて引き金を引こうとするが一歩遅い。既に眉間には小さな穴が開き、鮮血が飛び出る。
仲間がやられたていては黙っていない。リーパーは銃を賀堂に向けるが男は恐れるどころか笑っていたのだ。絶対に撃たれないと言わんばかりの確信を持っている。だが、今のリーパーらにそれは分からないだろう。
「皐月、頼んだ」
賀堂は一言皐月に言う。その瞬間、皐月は姿を消した。正しくは姿が見えないほど素早く移動しリーパーに近づいた。人間の反応速度を上回る皐月の動きを捉えられる人間はこの場では賀堂ただ一人である。
――馬鹿な。
そう感じた頃には頭と胴体は切り離されている。宙に飛ぶ人間と言えた何かが目撃するのは短刀を持ち鬼人の如く人体を切り裂いていく狂者。見てはならないものを見てしまった恐怖がリーパーを襲う。
うごめく影に目がけて言葉にもならない叫び声をあげ銃を撃ちまくる。闇雲に乱射するだけの銃は当たりもしなければかすりもしない。鬼は弾道が読める。いや、見えるだ。それこそ皐月が持つ適合者スリーパーの人間離れの身体能力。睡眠時間が長い以外に特に欠点がない。かつ、適合者同様に常人以上の身体能力を持ち合わせる。
皐月は容赦をしない。的確に首元を狙い一撃で仕留める。一突きしてはまた別の体に突く。この感覚がたまらなく皐月の快楽を満たしていく。刃が肉に刺さる感覚。骨に当たったときの硬い感覚。思い出すたびに新たな体を求めて走り回った。
初めからリーパーに勝ち目はない。何故ならまだ適合者である賀堂が本格的に動いていないのだから。
「お前はただの人間そうだな」
見た目で判断しそう口に発したリーパーには弾丸が返答として返される。
「残念だが俺はもう何百年と生きている。お前らよりは死線は数多く超えてきたと思うが。それにハンデだってくれてやっているのにな」
賀堂は回転式拳銃を一丁。それに対しリーパーは自動小銃や短機関銃など掃射に向いた代物。本来なら賀堂に勝ち目はない事は明かである。
ハンデを負うはずなのに皐月に劣っていると思われため息をつかざるを得ない。生きた年数、戦闘経験。どの要素を取っても皐月を大きく上回るのに軟弱と思われることが僅かに残る闘争心を焚きつけた。
瞬間、残弾すべてを四人のリーパーに命中させる。
またしても認識できない早打ち。気が付いたときには仲間は倒れていく。いつ、自分が狙われてもおかしくない状況に統率力のないリーパーは勝ち目がないと判断し逃走するしかなかった。
「はーい。ここからは皐月おねぇさんがお相手よ」
森林に逃げ込めば茂みを利用して姿を消せる。ここから逃げることができる希望があったはずだがたった一人の血まみれの女に阻まれる。確かこいつの相手をしていた奴らはどうしたんだと思うことだろう。「化け物! まさか全員殺したのか!」
唇が震える一人が恐る恐る聞いてみると皐月はニタァと笑って短刀に滴る血液を舐める。
「ふふっ。殺しちゃった。ほら、あそこを見て。綺麗じゃない?」
残されたリーパーは皐月が指を指す方向に目をやる。
あぁ、確かに綺麗だ。仲間が誰一人生きちゃいない。みんな殺されている。首元を見てみろ、パックリと切り裂かれている。地面が真っ赤に染まっちまってる。
「あなたも仲間外れは可愛そうね。どう?」
ゆらりゆらりと皐月が狙いを定めたリーパーに近づく。恐怖で腰をぬかすリーパーは必死にもがいて後退をしようとするが動けない。
「なぁ、俺の質問に答えるってなら助けてやるぜ?」
皐月に襲われそうになるリーパーに肩を掛ける賀堂。約束は守ると優しくささやいてやる。
「で……出来ねぇ。そんなことした――」
銃声が鳴る。
「ったく、面倒だ。はい、次はお前だ。どうだ? 話してくれるか?」
「人が悪いわね。そんな怯えている人間が答えられるわけないのに」
「尋問は苦手でな」
「はぁ、いいわ。私がやる」
賀堂は話した奴は生かしておけと皐月に伝えると適当な木に腰を掛ける。雷針の整備をしながら皐月の尋問を眺めていた。不器用な賀堂とは違い皐月はすぐに殺しはしない。徐々に肌を薄く裂いていく。肌が切れる感触、流血により思考が定まらないリーパー。次第に意識は薄れていく。
結局、生き残ったリーパーはたったの一人となった。