表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

受験記

作者: つぶ貝

-四日前 火曜日-


ペンを置く。

時計を確認する。9時13分。

ゆっくりと室内を見渡す。机、散らかった本、ベッド、カーテン。

それぞれのものが、くっきりと実感をもって存在していることを確認して、静かに、深く息をはく。

受験まで、あと四日。

憧れが、輪郭を帯び始める。


-三日前 水曜日-


昨日は思いの外眠れなかった。

寝ようとする僕の頭のなかで、活きのいいポップコーンのように、イメージが弾けては消えていく。

静かな心とは裏腹に、頭はすごくうるさくて、僕はただ目を閉じているしかなかった。

それでもたぶん昨日、僕の安眠を邪魔したポップコーンのお陰だろう。

今日の僕の心はすごく居心地がいい。

固すぎず、柔らかすぎず、留まりすぎず、漂いすぎず。

いい感じだ。

清々しい朝日とともに、ゆっくりと「三日前」が動き出す。


-二日前 木曜日-


今日は、いつもより少し早く図書館を出た。

予定していたことをやりきったからと、出発の準備をするためだ。

今朝降っていた雨は午後にはすでにやんだらしく、清々しい青空が僕を出迎えてくれた。

雨上がりの香りが、ふわっと咲いた。


ヤバい、逸る。

落ち着け。

受験票、鉛筆、切符

持ち物を確認して、鞄に詰める。

それだけの動作なのに、気がつけば口角が上がっている。

ずっと憧れた場所。

そこへ行くのが、楽しみで仕方がない。

明日になれば、緊張がじわじわと僕の心に入り込んでくるんだろう。それでもいい。

今日は潔く、この高揚感に身を投じていよう。


- 一日前 金曜日 -


凄く、濃い一日を過ごせた。


新幹線の窓から見た、雄大な景色は僕の小ささを改めて教えてくれた。

外国人が多いこの土地で、笑顔で英語を使いこなすプロの人たちに、僕の生きる世界の狭さを思い知らされた。

得意教科で僕を圧倒する人と話せた。そういう人の存在を、知ってはいたがわかってなかった僕の目を覚まさせてくれた。


今日が終わる。

両親が用意してくれた高級ホテルのベッドの上で、心地よいBGMに包まれながら、今日という一日を振り返る。

楽しかった。悔しかった。情けなかった。

そして、実感した。

ここは、僕の知らない世界で溢れている。

そう思ったとき、憧れが、いっそう強い光を放ち出した。


湧き出てくる高揚感を、少しずつ胸にしまうように、深く、深く息を吐く。

集中。段々と思考に沈み、頭のなかをイメージが駆け巡っていく。

それに身を委ねる、この瞬間。

悲しみが、僕を襲う。

理由はわからない。それでも僕はこのとき、心地よい悲しみを感じなかったことはない。

そして深く、沈んでいく-


イメージを終えると、心は心地よい静けさに満ちている。

今日の「受験記」を記そう。そう思ってサイトを開くと、彼女の小説が更新されていた。

少しの高揚感と共に、それを開く。

読み進めていく。そのうちに、ふっと笑みがこぼれた。

彼女の小説は相変わらず、僕にいとおしく思わせる。

彼女にありがとう、と伝えて、今日を終えよう。

そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ