広ヶ薙物語⑴
僕が、いま住んでいるのは、長崎から船で十五分。永璃市広ヶ薙。
昔、海底炭鉱が盛んだった小さな島。
炭鉱が閉山してから人口の減少はとどまるところを知らず、人口の七割が、この島を離れていった。
「じゃあ、今日一時にー オッケー じゃあねー」
直嗣からの電話だった。
「母ちゃん 今日も直嗣たちと遊んでくるからー」
と、お母さんに報告し、今朝も父の遺影の前に座り、手を合わせる。どことなく心が落ち着く。
そのまま寝ていまいそうなところに、母の呼ぶ声が目覚ましとなり、我にかえった。
眠そうな声で返事をして、立ち上がると、一瞬ヴゥゥンという音と、めまいがしたが、あまりきにとめな
かった。
「直嗣ー、次俺いくぞー!」
と、大声で叫び、高さ五~六m程度の堤防から勢いよくジャンプした。
体がフワッと浮いたと思うと、いきなり足に冷たいものがあたり、いっきに体全体が冷たいものにつつま
れる。鼻がツーンと痛くなりバシャバシャと空気を求め、水の中から這い上がった。僕が涙目になってる
のを見てみんながら大笑いした。僕も笑おうとしたが、鼻が痛くて愛想笑いになってしまった。みんなで
プカプカ浮いていると、怪談好きの美和子が島の真ん中にある山の頂上にある大木を指さした。
「あの大木のてっぺんって満月になると青白く光るんだって。んでね、その青白い部分を触るとパラレル
ワールドに連れてかれるんだって。どっかの満月の日にでも行ってみない?」
そう言って、海から堤防をよじ登ってもう一度飛び込む準備をした。
誰が最初に飛び込むか、ジャンケンをして、僕が一番手になった。
「広ヶ薙小学校5年1組3番!大村大貴いっきまーす!」
と、長崎の本島に聞こえるくらいの声で叫んだ。とうっ、と言って上手く一回転して頭から
飛び込んだ。バシャーン!と大きく音を立てて海の中に入る。
結構深く潜ってしまったみたいで、どんなにもがいてもなかなか空気にありつけなかった。
だんだんと水を掻く力もなくなる。
ふと、ドボーンと、音が聞こえるかと思うと、3回ほど連続で、ドボーンと聞こえた。
(直嗣ここだよ…ねえみえてないの?…)
「緊急事態発生。緊急事態発生。速やかに地下の荷物を運び出し避難せよ。繰り返すー」
赤いランプが、くるくると回り、ブーブーと、警報がなっている。あいにく、この地点はおれと、
もう一人の男、名前はえーっと、永璃だ。水が凄い勢いで流れ出てきてる。止めなきゃ。
どうしよう。助けなきゃ…あれ、体が動かねぇや。おい!動けよ!体動けよ!おい!あ、あれ?
か、体は?あっ…体が…ない……!
「はっ…」
気づけば知らない畳の部屋だった。
「ここ…どこ…?」
自分一人だった。