第6話 この世界と元の世界と2
さおりは今、ソファに1人で座っていた。
部屋の端の方で、イハクとイコラが何やら話をしており、それが終わるのを待っているのだった。どうやら、さおりにどこまで話したか、どこまで話してもよいのか、についての話のようだ。
「はあ。」
さおりは1人、クッキーをかじりながら紅茶を飲み、待っていた。
「それにしても、本当にどうしたものかしら。仕事に復帰できないかなあ。」
現在、元の世界の私はどうなっているのだろうか、何でイハクは私をここへ連れて来たのか、なんていうことを考えながら、さおりはため息をついていた。
「お待たせいたしました、さおりお嬢様。では、話の続きをさせていただきます。」
イハクは、さおりの目をじっと見て、にっこり微笑んだ。
「ええ。お願い。」
さおりもにっこりと笑った。
「おいおい、俺も忘れるなよーさおりちゃん。ああ、自己紹介がまだだったな。まあ、ザッヒーと同じくイコラって呼んでくれや。」
イハクの後ろから、イコラが頭を掻きながら出てきた。
「分かったわ。よろしく、イコラ。」
「おうよ。で、単刀直入に聞こう。何聞きたい?」
こう言った直後、イコラはイハクに後ろから頭をはたかれた。
「打ち合わせと全然違うじゃありませんか!!!」
イハクはイコラをにらんでいた。
「ま、まあまあイハク。いいじゃない。それに、私も聞きたいこといっぱいあるし。ね。」
さおりがこう言って笑うと、イコラも、へへっと笑った。
そして、再びイコラはイハクに頭をはたかれていた。
「さおりちゃんもこう言っているんだし、いいじゃんかー。な、何聞きたい?」
「じゃあ1つ目。魂を育てているって言っていたけど、育てた魂はどうするの?やっぱり、輪廻の輪に戻すの?」
そう言うさおりを見て、イハクはにっこりして答えた。
「ああ、それはですね、育てた魂は天使となり、神様にお仕えすることになります。」
さおりはきょとんとした。
「え?悪魔が天使の卵を育てているってことになるの?」
「ええ。先ほども言いましたが、悪魔と天使と神は、協力関係にありますので。天使になるには、現世にとらわれない、まっさらなものである必要があります。しかし、それなりに育った魂でないと、天使になることはできません。ですから、現世から綺麗な魂を持つ方をお呼びし、育てているのです。」
「へ、へえ。大変なのねえ。」
その会話を、イコラはつまらなそうに見ていた。
「なんだよ、さおりちゃんが質問したらちゃんと答えるのかよー。ひいき良くないぞー。」
「お黙りなさい、イコラ。」
イハクがイコラをじろりと見た。
「ちぇー。あ、さおりちゃん。天使になる直前の人って、さおりちゃん見ているはずだぜ。あの、名前なんだったかなー。カラフルな森作ってた、あのー男のー。」
「あ、高城さん!?そうなの?」
イコラがぱあっと顔を明るくした。
「そうそう!そいつそいつ!きっと今頃、神様にご挨拶に伺っているはずだぜー?だからもう、森はなくなっちまっているんだけどなー。」
さおりはびっくりした。
「え、高城さん、天使になったの?」
「そうでございますよ。」
イハクが横から顔をのぞかせた。
「みなさん、最後は天使になられます。」
「そうなの…。森が見られないのも、何か寂しいわね。」
「さおりお嬢様…。」
「さー感慨に浸ってないで、次の質問はー?」
イコラがうながし、さおりは答えた。
「じゃあ2つ目。今、その現世の私はどうなっているの?」
「ああ、ではお見せいたしましょう。」
イハクが返事をし、モニターの電源を付けた。
そこには、白い部屋の中で、白いベッドに横たわるさおりが映し出されていた。
「え、ここどこ?病院?誰が運んでくれたのかしら…。」
そのまま見ていると、ベッドの横に、50代くらいの女性が現れた。
「あ、お母さん!」
それはさおりの母だった。母は、さおりの横に座り、そっと手を握っていた。
「お母さん…。」
「おお、よかったよかった。ちゃんと生きているし、これで安心だろー?」
イコラが笑いながらそう言った。
さおりはイコラをきっとにらんだ。
「良くないわよ!県外に住んでいるお母さんをわざわざ呼び出すようなことしてくれちゃって!いっそ、誰もいない方が気が楽だったわ!私早く帰りたい。ねえ、なんで私をここへ呼び出したりなんかしたのよ?恨みでもあるの?」
さおりは泣きそうになっていた。
それを見た悪魔2人は、とても困惑し、ひそひそと話し始めた。
「なんでここで泣きそうになるんだー?どういうことだ?」
「気持ちは分からないが、さっき、ご家族やご友人と話すのが生きがいって言っていたから、生きがいが無くなってしまいそうで、怖いのではないかと。」
「えー、じゃあ、今の見て、居場所はあるって分かったんだから、少し安堵するはずじゃねえのかー?」
「私もそう思って映像をお見せしたんだが、逆効果だったようだ。どうするか…。」
2人がひそひそしているのを見て、さおりは声を上げた。
「ちょっと、何ひそひそしてんのよ!早く家に帰してよ!」
「す、すみませんさおりお嬢様。ここに連れて来れば喜んでいただけると思ってのことで、けして嫌がらせなどではございません。恨みなどもございませんので、ご安心を。」
イハクはおろおろして答えた。
「何で喜ぶと思ったのよ!早く帰りたい。というか、なんで私を喜ばせようとか考えたわけ?」
「そ、それは、ここに来た方々、みなさん喜んでらしたので、人間の方はみなさんここがお好きなのかと…。」
イハクはもう、しどろもどろだ。
「夢にずっと現れたりしていたのは、私に目を付けたから!?ちょっと試そうとでも思ったわけ!?」
さおりは相変わらずイハクをにらんでいた。
「まあまあまあまあまあ。さおりちゃん落ち着いて。とりあえず、家に帰る方向で考えよー。」
イコラがそこに割って入った。
「当たり前よ!早く家に帰して!」
「で、ところで、現世に帰ってこれからどうするの?仕事も無くなるかもなんでしょー?」
さおりが、うっと口を閉ざした。
「ね、実は今、もう2か月経っているんだ。ここは現世と違って時間の送り方が全然違うからねー。」
「に、2か月!?」
さおりは卒倒しそうになった。
「でー、提案なんだけど、悪魔って、それなりに記憶改ざんとかできるのね?でもまあ、実際に進んだ時は巻き戻せないから、今の時間軸で、の話になるんだけどー、よかったら、さおりちゃんが今後生きやすいように、こっちで手配させてよ。ま、こっちっていうか、俺ってことになるけどー。俺が記憶改ざんのプロみたいなもんだしー?」
そう言ってイコラは、にっと笑って見せた。
「そ、そう。じゃあお願いしようかしら。でも、あんまり時間かけすぎないでね?」
さおりはそっとイコラを見ながら言った。
「おっけーおっけー。まかせてー。じゃあ、ザッヒーとでもしゃべっててよー。あ、でもその前に、さおりちゃんだけ、ちょっといいー?」
そう言うと、イコラはさおりの耳に口を近づけた。
「え…?」
さおりは、ささやかれた言葉を聞いて、思わず黙った。
「ちょっとイコラ、一体何を言ったんです!?」
イハクはイコラに詰め寄ったが、イコラはぺっと下を出して笑っていた。
「まーまーまー、いいじゃん?あ、そうだザッヒー。dんわくtgふぁkMdhfgvbzzK<ewfuykj,AEDhwkabszkj。」
「ああ、hsふぇうhfbgm、ぜうsfhkszbdmzwsae awhdfhfckjsz。」
「え?何?何て?」
さおりは急な会話運びにただただ驚いていた。
「ああ、ごめんねーさおりちゃん。さおりちゃんには聞かれたくない内容だったから、母国語でしゃべらしてもらったよー。」
「すみません、さおりお嬢様。困惑させてしまいましたね。では、打ち合わせも終わりましたので、作業が終わるまで、こちらでくつろいでおきましょう。」
イハクはそう言うと、さおりを連れてソファに戻った。
「じゃあ、行ってくるわー。仲良くなー。」
イコラはそう言うと、1回ウインクをして、ドアから出た。
直後、ばっさ、ばっさという、羽の音が聞こえてきた。
「では、さおりお嬢様。ここで話すのも最後になります。お聞きになりたいことでもあれば、どうぞ、なんなりと。」
イハクは、そう言って、いつも通りにっこり笑っていた。




