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第4話 人形の学校

「さて、さおりお嬢様。次はあそこになります。」

そう言って、イハクが指差した先には、白くて大きな建物とグラウンドが柵に囲まれているところだった。

その隣には、こじんまりした家が1つあった。

「まあ、学校?こんなところに。」

「ええ。この方は少し特殊ですね。…やっぱりやめておきましょう。」

そう言うと、イハクは乗り物の高度を少し上げ、そこを通り過ぎようとした。

「ちょ、ちょっと!何でよ!?せっかくなら見ていきましょうよ!」

「いや、あの、もしかしたら、あまり良くないものを見せてしまうかもしれませんので。」

イハクは焦ったようにそう言った。

さおりはそれを聞いてむっとしていた。

「良くないものって何?また何か隠し事?」

「え、いえ、そうではなくて。この世界では常識なことでも、さおりお嬢様にとっては気分の悪くなることかもしれませんので。」

「ねえ、ちょっとだけ。ちょっとだけ見ていくくらいならいいでしょう?」

さおりは手を合わせてイハクに頼んだ。

「…しょうがないですね。もし危なそうなら、すぐに引き返しますね。」

イハクはしぶしぶといった表情で、乗り物をグラウンドの中へ降ろした。


「まあ、本当に学校!ここはどんな人が作ったのかしら。」

さおりは目を輝かせていた。

「女性だったかと。」

イハクはさおりの隣にぴったりくっついて離れない。それに、表情は何かを警戒しているようだった。

「ねえ、イハク。近いわ。」

さおりは少しむすっとして言った。

「危険な場所ですので。」

「…そんなに危険なの?」

さおりの顔が少し引きつった。

「帰りますか?」

「まさか。もう少し見ていく。」

そう言うと、さおりは学校の中へ入っていった。


「わあ、本当に学校。でも、何か変ね。」

学校の中は、きちんと教室が分かれており、教室の中には、黒板や教壇、たくさんの机や椅子があり、壁には時計や時間割表がかけられていた。

しかし、時間割表は全て空白で、そこに人はいなかった。代わりに、人型の人形がセーラー服や学ランを着て、机いっぱいに着席していた。時計だけが、規則的に動き続けていた。

「ところで、ここの人はどこにいるのかしら。」

「多分、2階にいるかと。」

「そう。じゃあ、行ってみましょう。」

「危険です。もう引き返しましょう。」

「嫌よ。せっかくなら顔くらい見たいじゃない。」

さおりはそう言うと、さっさと2階に上がっていった。イハクはしぶしぶそれに着いて行った。


「2階も1階と変わらないのね。」

「ええ、ですから帰りませんか?」

「嫌。」

少ししょげたイハクを引き連れたまま、さおりは奥へと進んでいった。

「ねえ、おねえちゃん、だれ?」

さおりは後ろから声をかけられて、思わず飛び上がった。

「いま、じゅぎょうちゅうなの。あ、てんこうせいかな?」

声の主は、15~6歳の女の子だった。見た目とは裏腹に、話し方は妙に子供っぽい。

天然パーマでふわふわの栗毛に、薄茶色の瞳の、実に可愛らしい少女だった。

「あ、ごめんね。少し見学させてもらっていたの。」

さおりがそう言ってにっこり笑うと、女の子もにっこり笑った。

「やっと、はなせるひと、みつけた。」

そう言うと、女の子は、さおりの腕を引っ張り、教室へ連れて行こうとした。が、イハクがさおりを引っ張り、女の子だけが教室に入った。

「ねえ、なんでじゃまするの。」

「すみません、綾野様。さおりお嬢様は連れていってはいけません。」

「なんで。やだ。あたしとあそぶの。」

「いけません。」

「やだーーーーー!!!」

女の子は叫び声を上げながら泣き出してしまった。

その途端、学校が大きく斜めに揺れ始めた。

「さおりお嬢様、失礼!」

そう言うと、イハクはさおりをお姫様抱っこして、2階の廊下の窓から飛び降り、乗り物へと急いだ。

「ねえ、ちょっと、どういうこと!?」

「話しは後で。今は急ぎます。早く離陸してくれ!」

乗り物は、ふわっと地面から浮き、そのまま高度を上げていった。

目下に見える先ほどの建物は、ぐにゃぐにゃと形を変えながら沈んでいった。

そしてそのまま、さおりがお菓子の家を作った時の前に見た、白い雪のような形状の広い土地になった。その真ん中には、何やら青く光る球体のようなものがあった。


「ねえ、女の子は!?綾野ちゃんはどうなったの!?」

さおりは焦ってイハクに聞いたが、イハクは答えてくれなかった。

「ちょっと、なんで何も言わないのよ!?なんであんなことになったの!?ねえ!?」

そう言うさおりが次に見たのは、真っ白な土地の真ん中に現れた、真っ黒な人影だった。

人影は、青い球体を手に取ると、そのまま口へ運んだ。そして、跡形も無く消えてしまった。

「あれは何?何をしたの?」

さおりが焦ったように聞いた。そこでやっとイハクが口を開いた。

「これは、この世界では常識的に起こることなのです。この世界に居ついたものの、この世界には適さなかった者は、あのように、食われてしまうのです。」

「え?食われた?」

「ええ。今の人影は、私と同じで悪魔です。悪魔にも種類がいまして、あいつは、魂の処理専門です。さおりお嬢様の世界で一般的に言われている悪魔、とは主にあいつのことを指すでしょう。」

「え、待って。え?あの女の子、の魂?を、悪魔が食べたところを、目撃したっていうの!?というか、この世界に適さなかったって、どういうことよ!?」

イハクは、はあ、と1つため息をついた。

「そろそろ、さおりお嬢様にも、この世界のこと、少しお話しなければならないようですね…。」

イハクは、少し残念そうな顔をしながら、さおりに向き直り、話し始めた。


「この世界はですね、さおりお嬢様の住む場所とは違うところにあるんです。」

「そのくらい分かるわ。」

「そうでしたね。まあ、簡単に申し上げますと、異世界、と言ったところでしょうか。もう少し詳しく言いますと、天国と現世の合間、ですね。」

「え、次元の狭間のようなところってこと?というか、天国に近いところに悪魔がいるなんて。」

さおりはびっくりした表情を見せた。

「ええ。人間の方々は誤解なさっているようですが、悪魔は天使や神と敵対しているわけではありません。むしろ、協力関係にあるのです。」

「…どういうこと?」

「簡単に申し上げますと、生物が輪廻転生を繰り返すには、ある程度の魂のレベルがいるのでございます。犯罪者や自殺者などは、魂が黒く汚れてしまっているので、輪廻の輪に入れないのです。その魂を、我々悪魔は食べているのです。ですから、悪魔は汚れた魂が好物なのでは無く、汚れた魂しか口にしないのです。」

「え?でも、さっき、魂の処理専門がいるって…。」

「ああ、それはですね、主に魂を主食としているのが処理専門の悪魔、ということです。専門の悪魔だけでは処理しきれないほどに、汚れた魂は多くここにたどり着くのでございます。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、さっきの綾野ちゃんの魂も汚れてたってことなの?」

イハクは、うーんと少し悩んだように見せた。

「それは少し違いますね。汚れた魂を持つ人は、ここに居つくことはできませんので。」

「じゃあ、何でよ?」

「魂が、未熟だったのでございます。」

「はい?」

「そうですね、そのことについて説明いたしましょう。」


「ここは、特に魂の綺麗な者しか集まれない場所です。とても綺麗な魂を持つ者を、我々悪魔はお呼びし、そして、ここでその魂をさらに育てているのでございます。ですが、たまに育てきれない魂もございます。それが、先ほどの綾野様の例でございます。」

「え、ど、どういうこと?」

「綾野様は、現世に縛られたまま、ここに馴染むことができなかったのです。ですから、ここで発狂してしまったのでしょう。この世界に馴染むには、ある程度の魂の強さが必要です。綾野様の魂は、少し脆かったようですね。」

「え?あの、じゃあ、それを輪廻の輪に戻せなかったの?」

イハクは首を横に振った。

「それはできません。ここに居ついた時点で、魂は自殺扱いになります。ですが、魂が汚れたわけではないので、処理するときも、痛みなく、一瞬で処理するようにしています。そのようになってしまった魂は、青く光るので、それが目印です。それから、主がいなくなった土地は、元の何もない土地へと戻ってしまいます。」

「あ、なるほど…だからさっき、土地があんなふうに…。って、自殺扱い?どういうこと?」

「うーん、そこについてはまだ説明したくないのですが…。」

「ここまで聞いたんだから、もう全部説明してよ。それに、育てた魂はどうなるのよ!?」

「…しょうがないですね。説明いたします。」

そう言うと、イハクは乗り物を、先ほどとは違う場所の、何もない真っ白な土地へと降ろした。

「図解や映像があった方が分かりやすいかと思いますので、ここで説明の続きをいたしましょう。」

イハクがそう言うと、建物が1つ現れた。

それは、外観は真っ白な、こじんまりしたお城のようなものだった。

中に入ると、大きなソファやシャンデリア、壁にはモニターがあり、ホワイトボードも横に置かれていた。

目の前の机には、クッキーやチョコレート、ケーキが乗った皿が置かれており、その横には、紅茶の入ったポットや、ティーカップもあった。

「では、くつろぎながらお聞きください。」

イハクはさおりをソファに座らせると、モニターの前に立ち、話し始めた。

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