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第3話 初めに見たカラフルな森

「さおりお嬢様。次に近いのは、最初にいた森のところでございます。」

「あ、本当。ここは見たことあるわね。」

乗り物はゆっくりと高度を下げていった。

そして、また川に着水し、乗り物は船に形を変えた。

「木や川を作る人が多いの?」

さおりは思わずイハクに聞いた。

「ええ、そうですね。最初はみなさん、思い思いに作られるんですが、気が付けば同じようなものを作っておいでです。」

「へえ、そうなの。何でなのかしら。」

さおりは首をかしげていた。

「それは分かりかねます。私は人間ではないので、気持ちまでは図ることができません。申し訳ないです。」

イハクはしょんぼりして答えた。

「いや、別にそんなところ気にしなくていいわよ。なんとなく言ってみただけだから。」

さおりは少し焦って言った。

「さおりお嬢様に気を使わせてしまいましたね、すみません。」

イハクはさらにしょんぼりした。

「だから、気にしなくていいんだってば。ね、それよりも、ここでも何かの建物の中に人がいるのかしら?」

「いえ、ここには建物はありません。」

「あら、そうなの。どんな面白い建物があるのか少し楽しみだったのに。」

さおりは少し口をとがらせた。

「も、申し訳ございません!!別の方のを見に行きますか?」

「だーから、何でそんなに気を使うのよ。この世界についてはちゃんと教えてくれないくせに、そういうところはいちいち気にするのね。」

「す、すみません…。」

「いいってば。ね、ここの人はどんな人?」

「男性です。」

「また、性別しか教えてくれないのね。まあいいわ。実際に会った方が分かりやすいだろうし。」

「あ、そろそろ会えるはずですよ。」

そう言ってイハクが指さした先には、25~6歳の男性が1人、木の下にゆったりと座って空を見上げていた。


「こんにちは。」

さおりが声をかけると、男性はゆっくりと顔を上げ、にっこりと微笑んだ。その様子を見て、イハクはさおりを残して、船に戻り、2人をなんとなく眺めていた。

「こんにちは。」

「ねえ、何をしているの?」

「いや、何もしていないよ。」

「私は秋野さおり。あなたは?」

「僕は高城ゆきと。驚いた。久々に人を見たよ。」

そう言うゆきとの表情は何一つ変わっていない。

「驚くのにずいぶん時間がかかるのね。」

さおりはくすっと笑った。

「いや、本当に今驚いたんだ。新しい悪魔さんかと思ったんだ。」

それを聞いたさおりはきょとんとした。

「悪魔って、私のどこが悪魔っぽかったの?」

「だって、あっちの悪魔と仲が良さそうだったから。」

そう言って、ゆきとはイハクを指さした。イハクはにっこりと笑って会釈した。

「仲が良いって、さっき初めてしゃべったばかりよ。名前くらいしか知らないわ。」

さおりがそう言った途端、一瞬だけ、ゆきとの顔が本当にびっくりしたような表情を見せた。

「君、あの悪魔の名前を知っているの?」

「え?ええ。何で?」


「だって、最初の説明の時、悪魔には人間のルールは通用しないから、ここでの生活に関すること以外は質問してこないようにって、釘を刺されただろう?担当さんとか、悪魔とか、呼び方なんて適当で構わないって。」


それを聞いて、さおりはとても驚いた。

「ねえ、他の人も言っていたんだけど、ここに来る前にやっぱり何か説明を受けるものなの?私何も聞いていないのよ。それに、名前は聞いたらあっさり答えてくれたわよ?」

ゆきとは、うーんと唸って考えていた。

「さおりちゃん、きっと僕たちとは違う存在なんだろうね。実際、ここに初めて来た人とは思えないような人なんだもの。説明を受けずにここに来たってことは、ここのこと、何も分かっていないんだと思うけど、大丈夫なのかい?」

「私が?違う存在?どういうことかしら…。それに、大丈夫かどうかなんて、何も分かっていないから決めようがないわ。」

「そうか、それもそうだね。ねえ、さおりちゃんは何か、その、現実世界で困っていることとか悩んでいることとか、ある?」

急な質問に、さおりは驚いた。

「え?うーん、基本的には周りには恵まれているんだけど、そうね。今年就職したばかりなんだけど、職場の上司に1人、セクハラしてくる親父がいることくらいかな。最近やたらとべたべたしてくるの。」

それを聞いたゆきとはさらに考え込んだ。

「そっか。それは辛いね。…でも、ここに来る理由には弱すぎるかな。」

「え?」

「僕は正直、現実でのことはもうほとんど覚えていないんだ。思い出したくないってのも事実だけど、ここに来てからが長いからね。ここに来た人をいろいろ見てきたけど、現実が辛くて辛くて、ここは天国だって言う人ばかりなんだ。」

「そ、そうなの…。」

「ね、さおりちゃん、どうしてここへ来たの?」

「さ、さあ。いつも通りベッドで横になったら、夢を見たの。というか、この、今の現状が夢の中だと思っていたんだけど、もしかして、違う?」

「そうだね、夢ではないかな。夢を見れる場所、と言ったところかな。あくまで、夢を見れる、であって、叶えられるわけではないけれども。」

そう言うと、ゆきとは悲しそうな顔をして下を向いた。

「ど、どういうこと…?」

さおりは困惑して首をかしげた。

「さあ、さおりお嬢様。そろそろ次の方のところへ参りましょうか。」

イハクが突然割り込んできた。

「ちょっと、イハク!またなの?」

「申し訳ございません。でも、あまり長居するよりはいろいろ見て回られた方がよろしいかと。ああ、高城様、お話し中申し訳ありません。」

ゆきとは、ふふっと笑った。

「君ってそんな名前なんだね。それが分かっただけでも収穫かな。それに、悪魔ってそんな表情もできるんだ。どうやら、本当にさおりちゃんは”特別な存在”みたいだね。」

それを聞いてイハクはむっとした表情をしたが、すぐに澄ました表情に戻した。

「では、失礼いたしました。」

「まあ、頑張ってね。2人とも。」

そう言うと、船に乗り込むさおり達にゆきとはにこやかに手を振った。

「うん、またね!」

さおりもゆきとに手を振り返した。

船は再び形を変え、大空へと飛び立った。


「ねえイハク。」

「何でしょう?」

イハクはにこやかに振り返った。

「ここって、夢の中ではないのね。」

「ああ、聞かれてしまいましたか。」

イハクは少ししょげた顔をした。

「ねえ、夢じゃなかったら、これは現実なの?」

「うーん、なんと申し上げれば良いのか。お嬢様は今、ここにいるということは事実です。」

「何とも曖昧な言い方ね。眠ったと思ったらここにいたんだけど。」

さおりは何とも言えない、という表情をしていた。

「ああ、それは私が連れてきましたからね。」

イハクは少し誇らしげな顔でそう言った。

「え、イハクが連れて来たの!?」

イハクは、ふふっと笑った。

「言ったじゃありませんか。私はさおりお嬢様の案内人です。」

「さ、最初に言っていたわね、そういえば…。」

「さて、では次の方の所へ参りますか。」

イハクはにこにこしていた。

「いや、次に行くのはいいけどさ、イハクが私をここへ連れて来たってことは、え、何、不法侵入?」

さおりは困惑していた。

「違いますよ。さおりお嬢様の家には一歩も入っておりません。ご安心を。」

それを聞いたさおりはさらに考え込んだ。

それを見て、イハクは焦っていた。

「も、申し訳ありません。困らせてしまいましたね。今はとにかく忘れて、空での旅を楽しみませんか?え、えっとあの、お、お嬢様、好きな食べ物は何ですか…?」

さおりは思わず吹き出した。

「ちょ、ちょっと、必死で考えた話題がそれ!?あはは、イハクって面白いところあるのね。」

イハクはおろおろしていた。なんで笑われたのか分からないようだ。

「うーん、そうね。好きな食べ物は生クリームのケーキかな。あ、だから最初、お菓子の家が真っ先に思い浮かんだのかしら。」

「そ、そうですか!ケーキがお好きなんですね!では、こちらをどうぞ!」

そう言うイハクの手には、皿に乗った生クリームのデコレーションケーキがあった。

「まあおいしそう。じゃあ、いただくわね。」

さおりはケーキをおいしそうに頬張り、イハクはそれを見て微笑んでいた。

2人を乗せて、乗り物はどんどんと空を進んでいった。

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