しょうもない話、聞いてくれますか?
ある程度のフェイクは混ぜています(棒読み)
本当なら父の日にあげたかったものですが、よければ読んでください。
しょうもない喧嘩をした。
きっかけが何だったかも思い出せないくらいに些細なものだった気はする。ただ、やたらと白熱した兄弟喧嘩をした。
兄弟で喧嘩、というのは日常茶飯時なことだとも思うが、お互いが二○代ともなれば少々大人気ない。
口の応酬から始まり、手や足が出て。果てには互いの周囲にあるものを雪合戦のようにぶつけ合った。
思い出せる限りで書き上げると、飲みかけのペットボトルから始まって空き箱。後は投げられたので思わず投げ返した洗濯ノリ。そう言えば洗濯したばかりの母の下着も投げた気がする。
体感で大体五分たった頃、息は両者ともに切れていた。奇しくも互いに手にしていたのはリモコン。こちらの手にはテレビの、あちらの手にはエアコンの。
土俵に上がった力士のように睨みあった。
利き手に構えた長方形に力が入る。狙うは胴。さすがに急所は狙わなかった。狙いたくなかった。改めて思えば、そこを狙うほどに理性をなくしていれば良かったのかもしれない。
結果としてそれは裏目に出た。あちらが投げたリモコンは明後日の方向へ飛んだことに笑ったその時、狙い通り腹に当たった此方のリモコンはフローリングに落ちる寸前で拾われる。
くの字に曲げた身体から素早く投擲の体勢になる瞬間に見た彼の顔に、久方ぶりの戦慄を覚えた。
あちらが狙っていたのは、こちらの武器。
彼はおそらく先程の応酬で投げ返された洗濯ノリを浴びて悟ったのだろう。ただ投げても意味がない、と。
だからこそすぐに取りに行けない方向へ投げた。意外と的確に投げてくる相手に補充をさせないために。
とどめは相手の武器で刺す。
彼の勝利が決まったのは、その身体にリモコンがぶつかった時だったのだ。
こめかみ近くに衝撃を受けた後、背後で硬質な何かが砕けるような、その場に別の緊迫感を与える音が居間に響く。背後に視線を送って後悔した。彼が投げたリモコンは勢いをなくさぬまま直進し、食器棚のガラスと共にオブジェと化している。
鉄臭い何かじゃない、別の液体が頬を伝った気がした。
しょうもない喧嘩をして、帰ってきた父に説教された。
大の大人が二人、無言で割れた食器やガラスを拾う様が父親の目にどう写ったのかは想像したくない。
とりあえず、父の表情から怒りが消えたら呆れと悲壮感が残ったのは確かだ。もう寝る、と言って居間から去ろうとした父の背中を思わず追いかける程度には。
その先で見たのは、吐血し崩れ落ちる父の弱々しい姿だった。
「……で?」
「急いで救急車呼んで緊急搬送。で、当直医の先生にどんな状態か教えてもらった」
「うん、先生はなんだって?」
「おそらくストレスによるものでしょうが胃に穴が空いてます。ところどころ胃潰瘍の痕が目立ちますねって」
「……ふーん」
「……だから、ごめん」
「それが理由か」
「いや、だってさ。夢だって分かっててもさ、なんかその……正夢になりそうなぐらいに心当たりが、あったりして」
「そう思うならもう喧嘩するなよ、いい歳で」
「うん、ごめん、分かった」
「後、母さんの下着を夢の中で投げたことを謝りに行こうとしなくていい。混乱するだろうから」
「あ、やっぱり?」
「ただの夢だって分かってても謝る程度には気にしてるんだろ?」
「……まあ、その……、うん」
「正夢にしないように頑張ってくれよ?」
「……ハイ、努力シマス」
父は少々呆れたような笑みを浮かべて自室に戻っていった。親子の目線で言わせてもらえば、帰宅直後に比べて良い笑顔をしてたと思う。
しょうもない夢の話を父にした。
彼の体調は先日の健康診断で中性脂肪が少々多いと嘆く程度である。
携帯で投稿したのでパソコンからだと句読点が気に食わない方がいらっしゃいましたでしょうか?
会話にあえて地の文を混ぜなかったのも見辛さの要因でしょうか?
感想などでご指摘していただけると嬉しいです。