New Game
作者の短編処女作なのでご注意ください※たまに内容を濃くしたりしなかったり?ゆっくりしよう
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この世界は、アンディルという剣と魔法の存在する世界。その、トルキアという名の国の西端。暗い森の中の事。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
その少年はひたすら走っていた。
一見すると少女とみまごう用な少年であった。茶髪のショートカット、紅い瞳、小柄な体佝、胸元には猫を象った首飾りを掛けている。世間一般的には美少女……美少年と呼ばれるであろうその少年の名を、人は『ロコ』と呼んでいた。
「オグルウグァァァァ!!」
「いや、何言ってるか解らないからね!!コブリンの言葉とか知らないよ!?」
そう。この少年はコブリンに追われているのだ。
暗い森の中木を利用し、木の根を飛び越え、キュッキュッとフェイントを上手に織り混ぜつつ、コブリンの追跡を撒こうとしている。
しかしゴブリンもバカでは無いようで木を、片手に持つ錆びた剣を使い、あり得ない様な力で叩き折り、しかも全くスピードを緩めずにロコを追ってきている。
このままではいずれ追い付かれてしまうだろう。いくらこちらが小柄で動きが素早いと言っても相手の方が基礎体力が高いのは明らかだった。
死の鬼ごっこは数十分で終わった。ロコが暗かったせいか、大きい木の根っこに気付かずに転んでしまったのだ。
「あ……ヤバイ……」
「グルォ?ブフォッブフォッブフォッ」
心なしかゴブリンが笑っているように見えるのは気のせいなのだろうか。いや、気のせいではない。それはそうだろう。何せ、やっと捕まえたご馳走なのだから。そんなゴブリンとは対象的にロコの顔は、青ざめていた。
ゴブリンの黄色い乱杭歯が剥き出しにされ、気持ち悪い笑い声を撒き散らす。
そして、ゴブリンは笑い声を引っ込め、錆びた片手剣を持った右手を思いきり降り下ろそうと、
「『四連剣』!」
「ウグルォゴガ!?」
「えっ……?」
した所でゴブリンが四つ切りにされた。ロコが恐る恐る顔を上げると、そこにはゴブリンの死体と、剣についたゴブリンの緑色の体液を払い、剣を腰の鞘に納める長身の女性が立っていた。
「君、大丈夫?怪我とかない?」
「……へっ?あ、大丈夫です」
ロコは少し見いってしまっていた。
それほど美人だったのだ。綺麗な黒髪、僅かにあどけなさも残る目、薄く朱の入った唇、来ている軽鎧のせいで解りづらいが、スタイルも相当よい。ハッとする美人だった。
「えーと、どうしてここに居るかなんて聞くのは野暮って物だよね。私はレイ。貴女のことを教えてくれる?」
「あ、はい。僕はロコって言います。今年で17歳です」
「へぇー……。私と同い年かぁ、見えないなぁ」
それもそうだろう。ロコとレイの身長差は約5cmもあるのだ。世間の人々が見ると姉弟ととってもおかしくはないであろう。
「とりあえず此処はまた別のゴブリンがまた来るかも知れないから、一旦近くの街に戻らない?」
「そうですね。流石にそろそろキツいですし」
「アハハ、敬語なんて使わなくていいよー。若干無理してるでしょ?わかってるよー」
「あ、そう?じゃあお言葉に甘えさせて貰おうかな」
「そうそう。遠慮しないしない。ほら、じゃあ行こう?」
「うん……あ」
「どうしたの?何か異常でも起きた?」
「え……っと、腰が抜けちゃって……」
レイはプッと吹き出し、じゃあ私がおんぶしてあげるよ。と言い、ロコを軽々と持ち上げ街まで連れていった。
街に着くとロコも腰が治った様で、歩ける様になっていた。宿屋に向かう途中、レイの前を歩いていたロコの顔が真っ赤だったのは秘密である。
二人で宿屋にチェックインし、二人同じ部屋に入ると、……ロコは個別にしようと言ったが、レイがどうしてもと聞かなかった。……部屋に入って、お互いにシャワーを浴びると、ずっとゴブリンに追いかけられていたため、肉体的にも、精神的にも疲れていたのかすぐさま眠気が襲って来たのだが、
「今日は癒しが欲しいなー?」
「ひぃぃ!?」
お風呂に入ったばかりなので体から湯気を立てながら突撃してきた私服のレイに襲われ、ダブルベッドの上で抱き締められている。
顔が真っ赤になり、じたばたしているロコを気にもせず、レイはすー……すー……と寝息を立てている。
この腕をほどくのは不可能と思いロコは、ログアウトした。
「ふぅ……あの状態で寝落ち出来る訳がないよ……」
頭からバイクのフルフェイスのヘルメット状の機械を外し、ロコ……路子咲夜は呟いた。
「でも……さっきの人、美人だったなぁ……。ううん。明日も学校あるんだし、寝よう」
部屋の壁に付けてあるデジタル時計をみると、10:13と書いてある。もうそろそろいい時間である。
咲夜は自分のベッドに潜り込み毛布を頭から被ると、五分くらいかけてやっと寝た。
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次の日の朝、いつも通り学校に行くと、教室が少しザワついていた。席に付き、後ろの男子に何かあったの?と聞くと、転校生が来るという噂があるということを聞いた。
へぇ、転校生か、それならザワつきもするよね。と思いつつ、いつもの通り机に突っ伏して、すー……すー……と寝ていると、教室からおおおおーー!と何か大きい声が聞こえて、なんだ、うるさいなぁと顔をあげると、
「どうも、初めまして。坂下零花と言います。よろしくお願いします」
昨日見たレイさんにそっくりの人が立っていた。昨日していたゲームの中の人と服装以外が全て同じの人だった。
ぽーっと見ていると後ろからクラスメイトの男子が声を掛けてきて、
「ずいぶんと可愛い子だな。俺が落とすぜ?」
とか言ってきた。とりあえず黙っといた方がいいよと目線を送り前を見ると、
「じゃあ、坂下の席は……咲夜!お前の横だ。ちょうど空いてるしな」
「あ、はい。わかりました」
あれ?おかしくない?そう思う暇もなく、坂下さんが隣の机に来て、そして、こっちを見て完全に固まった。因みに咲夜は苦笑いをしている。
それ以外のことでは特に何も無く、休み時間になり、
男子からの怨みの視線を受けつつぐったりとした咲夜を抱き抱えて質問責めにあう零花の姿があった。
「何でレイさんが居るのさ……」
「それは私のセリフよ?昨日の夜中ゴブリンに殺されかけてた子が私の同級生に居るなんて……。なんて運命かしら!」
時は過ぎて放課後、生徒の質問攻めをなんとか受け流し、咲夜と零花は屋上に二人で居た。
いかにもラブコメなどでありそうな様子だが、しかしそこにあるのは極度の緊張感と、ギリギリにはりつめた空気だけである。
「ロコ君……ナデナデさせなさいっ!」
「絶対に嫌だぁあああ!!」
つまりこういうことである。レイがロコをナデナデしたくて追いかけ回しているが、ロコもVRMMO内で見せた用な無駄の無い、そして洗練された動きで避けている。
その頃屋上に入る扉に隠れていた男達は、
「くそっ!何で咲夜ばっかりが!」
と血涙を流していたという。
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