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坂田恭介の場合。  作者: こんにちわ
そもそもお前と出会ったことが間違いだったんだよ。
3/7

付属品というにはあまりにも

俺があの教師に出会ったいきさつを簡潔に説明しよう。


あの教師との初対面は入学式の時。

教師とは名ばかりのとても異様な雰囲気の教師と出会った。

そしてその教師は校内で迷っていた俺を教室まで案内してくれた。


ただそれだけの出来事だったのだが、その教師の綺麗な顔といい、声といい、妙な性格といい、

存在感が強烈すぎて、一生忘れそうにはない。


その教師は俺に名前を訊いてきたくせに、最後まで自分の名前を名乗ることはなく、そのまま去っていき、それ以降一度も会うことはなかった。


しかし、俺は何故かとてもその教師に惹かれた。

男女がどうたらとかじゃなく、純粋に。

あのような人間をいままでに見たことはないし、これからも見ることはないだろう。


なので俺はこんな馬鹿広い学校じゃ、もう会うこともないかもしれないと、

校舎内で名前を訊き回ったり、長瀬に名簿を見せてもらったりとして、名前を調べ上げた。


その教師の名前は、水沢一彰━━━━…。

「水沢……先生……」


「お、なんだ、知ってるのか恭介ー、まあ目立つから知ってても不思議じゃないかー」

長瀬は普通に驚いた顔をしてこっちを見てくる。鬱陶しい。

それにしても、本当に水沢先生だというのか…。

「あの…目立つってどーゆー事っすか?」

「そのままの意味だよ、派手ではないんだがな、目立ちすぎる」

ごめんなさい、よく意味がわかりません。

しかし、俺が会った時に感じた強烈な存在感を目立つと捉えたのなら、その通りというわけか。

でもそんな教師が彷徨いてたら絶対に分かるはずなのだが、俺は入学式以来一度も目にしてない。

「じゃあ質問がなければそのまま希望用紙に記入して、一番後ろの奴がまとめて前に持ってこい」

長瀬は興味無しという雰囲気をあからさまに漂わせつつとりあえず説明を終わらせ、

椅子に座ってから窓のあたりを眺めていた。

まあ、英語を選択するのは当然だな。

俺は既に英語に丸が付いている記入用紙を眺めて、用紙を机に伏せた。

とりあえず、このことは神崎に言っとくか。


神崎は昔ながらの友人で、小、中、高、ずっと同じクラスで、

一緒に行動することも多く、幼馴染という感じのやつだ。

ぼーっとしてるわ、何時の間にやら寝てるは、よく分からん奴だが、悪い奴じゃない。

この俺が保証する。いや、俺に保証されても意味は特に無いんだけど。


「おい、神崎。お前も英語な」

「へ?」

神崎は以外にも驚いた様子で返事をした。

神崎が暇あれば寝てるか死んでるかの時に、目を見開くことなんてそうそうない。

なんでそんな貴重な顔をどうでもいい日常会話で使うんだ、お前は。

「え…まじ?…英語だよ?え、い、ご」

分かりやすく噛み砕いて説明してくださったのはありがたいが、何故か無性に腹が立った。

「そうだけど?なんだよ、どうせ体育選択しようとしてんだろ」

「そうに決まってるじゃんか。ただでさえ授業が多いのに、こーゆーものまで勉強を選んでもさ…」

つまり、神崎は入る気はない、か。

俺は神崎の顔を見るために上げていた首を下げて、再び顔を伏せた。

「そ。じゃ、いいや。俺は英語いくけど」

「え!!?待ってよ!何で!?」

いきなりのタイムを要求された。

何でも何もねえよ。

「英語行きたいし、俺絶対英語行くし」

俺は少し拗ねた調子で答える。

そんなことより眠い。

「じゃあ僕も英語行く!!」

即答された。

「あ…そう…、いいのかよ、体育いくんじゃねーの?」

俺が気だるそうに神崎に指を指すと、神崎は妙ににこにこして返してきた。

いや、どっちかというとニヤニヤしている。気持ち悪い。

「そうだけどね、体育人数多いしいいかなって…。

それに、最初から人数に少ない所にいってれば希望通りになりやすいし…」

えへえへ、とニヤニヤしながら話を続ける。

正直何を言ってるのかがよく分からない。というか、考える自体が無駄な気がする。

「ふーん…」

俺は神崎を適当に促して希望用紙を提出した。

「あっ……えっ…ちょ………」

神崎も急いで用紙に丸を付けた。

この様子からいくと、英語を選択してくれたんだろう。


しかし、神崎が入ってくれて助かった。

人見知りがちな俺は今現在、こいつと担任の長瀬としか絡んでないからな。

唯一の友人のこいつと離れるのは少し心細いところだし、正直嬉しいものだ。

いや、嫌われてもいじめられてもないぞ?

ここでなんか俺がみんなとうまく関われない可哀想な子だと思われては困る。

俺がただみんなとあまり会話しないだけだからな?

俺に社交性が無いとかじゃないからな?

俺からあまり構うなオーラが出てるだけだ。うん。


長瀬が集計するから適当に本読んどけ、と馬鹿でかい声で叫ぶ。

教室内は元々静かだったので叫ぶ必要はどこにもない。

なんなんだろうか、憂さ晴らしと見ていいんだろうか。

その後長瀬はパイプ椅子にどっかりと腰掛けて、回収された紙をぺらぺらと捲っていた。


まあ、授業が潰れたのは嬉しいことだ。

俺は寝ている態勢から身体を起こして、神崎を視界に捉える。

暇だし神崎で遊ぼう。

訂正、神埼と遊ぼう、だ。

さり気なく俺の好感度を下げるところだったぞ。危ない危ない。

「で?」

俺は質問する。

「え?何が?」

神崎は間抜け顔。

「何で入ったの?英語」

「え…恭介が入れって…」

神崎の間抜け顔。

「え?俺そんなこと言ってない」

「いや、言ったよね?絶対言ったよね?」

神崎が間抜け顔。

「そっか…悪ぃな…俺科学選択したんだけど…」

「何で!?別なの選択してるのにも驚きだけど、選択のチョイスも驚きだよ!」

神崎で間抜け顔。

「お前、ツッコミ下手だな」

「そんな能力誰も必要としてないよ!」

神崎な間抜け顔。

「ツッコミ能力を必要とする全底辺芸人に対して喧嘩売ったな、ちなみに俺は頂点だ」

「恭介の方が喧嘩売ってると思うんだ、僕」

神崎と間抜け顔。

いや、これはなんか俺が間抜け顔みたいだから違うのにしよう。

神崎…、神崎に…神崎へ…。

「んー…」

「話聞いてる?」

神崎がよく分からない顔で、俺の顔を覗き込んできた。

邪魔するなよ、今必死に考えてるんだが。

「そーだな」

「絶対僕の話聞いてないでしょ、少なくとも真剣に聞いてないでしょ」

神崎がむすっとして何かを喋っている。

どうでもいい。

「日常会話って真面目に行わないといけない行事だったのか?失敬」

「違うよ!自分からふった話題ぐらい最後までちゃんと話そうよって話!」

「お前な……真面目ぶって一部からコアなファンつけようとする魂胆がみえみえだ」

「そんな需要ないから、いらないから」

俺は眠いので、顔を伏せた。

うーん…暇だな。

神崎のツッコミが思いのほか面白くない事に今更気付くなんて。

眠い。

「恭介って本当に国語苦手だよね…さっきの文章にすらなってないし。僕、傷つくんだけど」

人のモノローグ読むなよお前。

しかし、国語が苦手っていうのは不正解。

日本語能力が乏しいと言われれば、はいそうですとでもいうのだが、生憎総合的な国語の点数は良い。

「あ、そういえば、科学選択したときのはなしだけどさ、

あれは何で英語にしていないのかを一番最初に突っ込むべきだと思うんだよな」

「…………もうどうでもいいよ………」

神崎が疲れきった声で呟いた。


「うーい、さらっと集計終わったぞー」

長瀬が何か叫んだ、多分集計が終わったのだろう。

というかさらっとってなんだ、さらっとって。

しかし、俺が神崎と遊んでいる時間が思いのほか長かったようだ、結構時間を食っていたらしい。

暇も潰れたし、神崎の能力不足にも気づいたし、これが時間の有効活用ってやつか。

「じゃあ俺が今から呼ぶ奴は放課後俺んとこ来いよー、人数編成するからなー」

多分、人数編成というのは、体育とか芸術とか、人数が多いクラスを余ったクラスに割り振るんだろう。

長瀬がだるだるとした口調で、ぶつぶつと読み上げていく。

だるだるとした口調は癖なのか。

俺の名前は無いようだし、神崎の名前も無かったので、選択授業は英語ということに決定したようだ。

おめでとう、俺。


ぼーっとしている間に授業は終わった。

俺は、背伸びをしながら神崎に話しかける。

「うおー、俺ら英語か」

「え…さっき恭介科学にしたって…」

「するわけねーじゃん、めんどくさい」

「………」


水沢先生との接点を作るのには成功したようだし、もう心配することはないか。

とりあえず今は、予想以上にダメージを受けている神崎を看護することにしよう。

「なー、神崎ぃー」

俺は神崎の椅子を後ろから揺さぶった。

「…………何……?」

うあ、すごく暗い、死にそう。

「傷つくなよ、そんなに」

「笑いながら言わないでよ…………」

もしかして俺は知らないうちに殴ってたんだろうか、本当に具合が悪そうだ、HP削られてる。瀕死だ。

神崎が鬱陶しすぎて無意識に身体的暴力でも行なってしまったんだろうか。

そんなことがあったら長瀬のせいだ。うん。

何だっけ、瀕死ってどうやったら治るんだっけ。ザオリクだっけ、メガサルだっけ。

メガサルやったら俺死んじゃう。流石に自分殺してまで神崎助けようって気はないし、どうしよう。

「神崎……」

とりあえず、俺は神崎を起こす。死なせないように声かけを絶やさないことは、雪山では必須だ。

「………何?」

何もかもどうでもいいという様子で、言葉だけで返事をする神崎。

「ザオリク!!!」

俺は全力で呪文を唱えた!

「……ドラクエやってる人じゃないと分からないネタだよ、それ」

「ぐほぉ……俺のMPがぁぁ…」

俺のMPが削られていく、俺のMPを犠牲に神崎は助かっただろうか。

それでも、こんなときですら突っ込みは欠かさなかった。

ちなみに神崎はそこまで突っ込みキャラでもダメガネでもない。

「……………」

なんで瀕死のままなんだよ、お前。

俺が精神力を犠牲にして魔法を使ったというのに。

「………………恭介ぇ…」

泣きそうになりながら、俺の腕に縋り寄ってくる。

何だよ、気持ち悪い。

「…………」

「てのは冗談でな」

そろそろ神崎に本気で申し訳ないので謝罪タイムに入る。

流石に、こんなにほのぼのと死人を出す訳にもいかないからな。

「…………」

「体育入りたかったんだろ?悪ぃな、俺に付き合わせて」

「…………」

「さり気なくお前、俺に対していろいろと付き合ってくれるよな」

あれ、冷静に考えたら何言ってんだろう、俺。もう何言ってるのか分からなくなってきたぞ。

あ、すごい恥ずかしいこと言ってる、俺。少女漫画みたい、俺。気持ち悪い、俺。

やべぇ、ちょっと恥ずかしさがピークに達しそう。

だがしかし、ここで照れたりなんかしたら神崎が厄介なことになる。過去に何百回も経験したからな。

あくまでも無機質に、さり気なく。うん。

よし、いこう。

「あんがとよ」

俺は出来るだけ普通に、さり気なく言ってみた。

よっし!さらっと言った!さらっと言ったぞ!

しかし、考えすぎてしまうのも俺の悪い癖。何だかここまで言う必要は無かった気もする。

「………………へ?」

神崎が涙目で呆けている。気持ち悪い。

だんだんと口元が緩くなってくる所も気持ち悪い。

「……何?」

俺は本日最大級の後悔を胸に、この後の展開に身震いしながら会話を促した。

しまった、もう少し当たり障り無い言い方の方が良かったか。

しかし、これはもう駄目フラグだな、神崎が面倒臭くなるぞ……。

俺は気持ち悪い神崎を横目に、一応会話をしてやる。

「…………もう一度言って…」

涙目で少しニヤけながら見つめてくる神崎ほど気持ち悪いものは無いだろう。

心の底からそう思った。

それほど、神崎の目が潤んでいた。と同時に何かに期待するように輝いていた。

「…何でだよ…さっきの回復呪文だかんな、おれMPもうないから、回復呪文使えないから」

そうだ、俺はザオリク使ったあとに超魔法(という名の寒い台詞)使ったからMP足りねーよ。

「……もっかい言って!」

もう神崎は別次元の何かを期待しているようだった。何これ怖い。

目は既に涙もひいて、きらきらと輝かしさだけが増していた。

あーあ、神崎さんニヤニヤしちゃってるよ。胸の鼓動抑えきれてないよ。気持ち悪いよ。

「聞こえなかったの!言ってよ!」

絶対聞こえただろお前、なんで輝いちゃってんの、気持ち悪いって。

神崎はもう取り返しのつかないレベルの次元までに飛んでいったらしい。

もう普通の人間とじゃ会話の出来ないような星あたりまで。

「恭介、照れなくても、いいんだぞっ」

神崎はもう幸せ一杯な顔で滑舌よく、俺にどこかの星の別の言語で話しかけてくる。

本気で気持ち悪いからやめてくれ。

「恭介大好き!!!」

「死ね」


神崎のHPが0になった。

神崎の出番を増やしてやろうかと思ったら、思いのほか馬鹿キャラになっちゃいましたね、神崎くん。

こんなかんじでやってたら神崎×坂田になっちゃうじゃんか。

やめてよ水沢先生まだ一言も喋ってないよ可哀想!

いや、可哀想にさせてるの自分なんですけどね、ごめんなさい。


そんなわけで今回は前半での入学式事件のネタバレ、神崎くんの坂田大好きっぷり紹介、あと水沢先生とのやっとのことの接点を手に入れるという回でしたが。

神崎との絡みの印象が濃すぎて絶対みんな水沢先生のこと忘れたよね。


後書きが長いのも困りものなんで、さっさと次回の説明をさせていただきますと。

次回からやっと本編での水沢先生と坂田くんの初対面回です。

前振り長いなって感じですけど、気にしないでください。

文章を簡潔にまとめるとか苦手なんで。

ぐだぐだですがここまでみてくださってありがとうございます!

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