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依頼篇 山奥の名医④ 依頼篇終了

「……判りました。信じます。あたし達は何をすればいいんですか?」



 怪しい巨漢。楠木に対して優菜は気がつけば初めて敬語を使い答えていた。

 楠木が怪しいことに変わりはない。

 だが信じられる。

 優菜自身も口で説明するのは難しいが、信じられる何かが楠木にはあった。



「優陽も信じるよ。お兄ちゃん正義の味方なんだもん。おとうさん絶対助けてくれるんだよね」

 


 優陽もにっこりと笑顔をうかべて答える。

 おそらく幼い優陽の方がより純粋に楠木という男の本質を感じ取っているのかも知れない。



「信じてくれてありがとな……おし!」



 楠木が柔和な笑みを一瞬浮かべてから、気合いを入れるように自分の頬を両手で叩いた。

 


「なに別に一緒に異世界に来いとかそんな無茶な話じゃない。異世界内で親父さんを探すためと、親父さんを元に戻すために……親父さんとの思い出。親父さんも強く覚えていて、あんたらも大事にしている物を俺に譲って欲しいんだ」



「物……ですか? それを何に」



「ふむ。妾からそれは説明してやろう。心して聞け娘」



 楠木の頼みに優菜は意味が分からず聞き返すと、楠木の肩に止まっていた縁が音もなく宙を移動して優菜たちの前に立った。

 役割を奪われた楠木は、相変わらずおいしい所もってくの好きだよな我が神様はと、呟きながら口元に小さな笑みを浮かべていた。



「物質としての物が必要なのではない。必要なのは物に宿る絆の力『えにし』じゃ。召喚という戯けの妖術は、高貴にして神聖なる心にして親なる真たる縁を無理矢理に断ち、邪なる偽りの縁を結び異界へと連れ去る邪法じゃ」



 縁の説明で優菜ますます困惑してしまう。

 横で聞いている優陽も言葉の半分も意味が分かっていないのか首を捻っている。

 困惑している姉妹の様子に縁が楠木を指さしついで指先を優菜たちへと向けると、楠木がかみ砕いた説明を始める。



「要はいろんな繋がりだな。人と人。人と動物。人と物。この世の全てにご縁って繋がり『えにし』がある。糸みたいなもんだと思えばいいさ。よく言うだろ縁結びの赤い糸ってな。これが繋がっているから俺たちは互いの存在を認識し繋がる事ができる。召喚ってのは縁をぶった切って召喚先世界との繋がりを強めて連れて行っちまうのさ……さて縁様、続きをどうぞ」 



「うむ。ご苦労木偶の坊。此奴が申す通り邪法の担い手は古来より現世から無数の者を奪い去っておったのじゃ。じゃが妾がおる限り異界の輩の好きになどさせぬ。妾の名は救心神刀『退魔捜世救心縁』。邪なる縁を斬り、親なる縁を辿り、真にして心なる縁を紡ぐ神じゃ。妾に供物を捧げよ娘。妾達がその方の願い叶えてしんぜよう」



「そういうこと。こちらの御柱である縁様はいってみれば召喚者奪還を専門とする神様ってことさ。ただそのありがたいお力を賜るには真なる縁が宿った物が必要なのさ。だから親父さんとの思いで。縁が詰まった大切な物を譲って欲しい」



 楠木は一度息を切るとテーブルの上のコップに手を伸ばし軽く唇をしめらせた。

 コップの水はほとんど減っていないので喉が渇いたのではなく、優菜が意味を悟るまでの時間を与えてくれたのだろう。



「……必要なことは判りました。続きお願いします」



「了解……ただし受け取った物は返してやることが出来ない。縁を捧げるってのはあらゆる繋がりを無くすって事でもある。簡単に言えばこの世界から消滅しちまう。二度と帰ってはこない……だけど大切な物と引き替えにする変わりに、絶対に俺たちが親父さんを取り戻す」



「…………大切な物」

 

 

 父との思い出の品と言われても……

困惑している優菜を見て楠木が頭をがじがじと掻いた。



「あーちょい性急か。もう少し詳しく説明すると」



 楠木が再度説明をはじめようとする前に優菜は言葉を絞り出す。

 父との思い出は心の中にはたくさんある。

 だが現実には……



「あの火事で……焼けて無くなってしまって。父との思い出の品も全部」



 父を飲み込んだ火は瞬く間に周囲へと燃え広がった。

 優陽を連れて着の身着のままに逃げるのが精一杯で荷物を持ち出す暇などありはしなかった。



「……そうか。何でもいい。写真の切れ端でも。服の一部でも。何とかしてみる。何か無いか?」



 優菜たちを優しげな目で見ながら楠木が促す。

 思い出の品……父との思い出の品。

 部室に置いてあって難を逃れた剣道の防具一式?

 ダメだ。忙しい父が試合を見に来たことなどほとんど無い。あまり繋がりがあるとは思えない。

 今借りているアパートに置いてある生活用品はほぼすべてが貰い物。

 父が触れたことのある物。父との思い出が残っている物などない。 



「おにいちゃん。これ……」



 何か無いかと必死に優菜が考えていると、優陽が小さく声をあげて膝の上に置いていた大切な帽子をテーブルの上に置いた。

 なんの変哲もない小学校指定の真新しい通学帽。だが優陽はなぜかそれを気に入っており布団の中にまで持ち込んでいた。

 そのおかげで火事の時も持ち出せた唯一といっていい物だが、まだ買ったばかりの帽子に父との思い出などあっただろうかと優菜は疑問を抱く。



「…………帽子の優陽のお名前。おとうさんが漢字で書いてくれたの。優陽はこういうお名前って書くんだよって教えてくれたの。優陽も早くお名前が書ける様にっていつも見てた大切な物なの。これじゃだめ?」



 大切な物を差し出す優陽は泣きそうな目を浮かべ、それでも泣かないように堪えている。

 父との思い出の品よりも父本人に帰ってきてほしい。

 優陽が抱く思いが優菜にも痛いほど伝わってくる。



「…………縁様。いけるか?」



「ちと弱い。じゃがなんとかしてみせよう。小娘の気持ちを汲まず何を汲む」



 渋面を浮かべる楠木の問いに苦しげな顔で縁が答えた。

 楠木と縁にも優陽の覚悟、想いは十二分に伝わっている。

 だが彼等のいう縁が足りないのだろう。しかしそれでも何とかして見せようと答えてくれた。

 何か自分にはないのか。

 妹が泣きたいのも堪えて大切な物を捧げようとしているのに見ているだけなど出来ない。

 自分には何か父との繋がりが残っていないのか。

 思い出せ思い出せ。父との会話。父との思い出。父の好きな物。

 甲斐性はないしお人好しで損ばかりする娘から見ても心配になる父。

 だが優しくて人のためにいつも一生懸命で自慢だった父。

 そんな父を……大切な父を取り戻す事ができるかもしれないのだ。

 遡る。記憶をどんどん遡る。

 高校入学、中学時代、どんなことでもいい思い出せと自らに言い聞かせる。



「……っ」



 母が生きていた頃まで遡ったところで優菜はようやく一つの思い出へと辿り着く。

 あった……あれなら。

 自分も父も絶対に覚えている思い出。

 思い出が宿った”それ”は大切なとても大切な物だ。

 だが父を取り戻す為ならば”それ”すらもおしくはない。

 優菜はテーブルの上に目を走らせる。

 何か刃物はないか。何でもいい……ある一点で優菜は目を止める。

 優菜の視線の先には会話の邪魔をするべきではないと考えていたのか、テーブルの上でピンと背筋を伸ばした姿勢で正座する玖木桜真の姿があった。


 

「桜真さん……ですよね。先ほどは失礼いたしました。あたしは筑紫優菜です。いきなりで済みません。あなたにお願いしたいことがあるんですけど」



 先ほどは呆気にとられて挨拶すらしていなかったと思いだした優菜は名を名乗ってから、自分の掌大ほどの大きさしかない桜真へと頭を下げる。



「拙者に出来ることがあれば喜んで。何なりとお申し付けください優菜殿」



 優菜のいきなりの不躾な頼みにも、桜真は嫌な顔をせず即諾する。

 桜真が腰に差した小さな刀を一瞥した優菜は軽く息を吐いてから縛っていた後ろ髪を掴んで顔の前へと持ってくる。

 黒く艶々とした長い髪で束ねたポニーテールは優菜の自慢だ。

 子供の頃からずっと伸ばしてきた。その理由は……



「お願いします。あたしの髪を斬ってください。死んだお母さんが好きだった髪型で、お父さんがお母さんに似ているって褒めてくれた髪なんです。お父さんとの繋がりがあたしは髪に……そしてこの髪型にあると思います」



 優陽を産んですぐに亡くなってしまった母。

 母が亡くなってから父は信念であった満足に医療を受けられない人達のための医者になるという生き方を変えた。

 無医村に単身赴任するのを止めて、優菜達が暮らしやすい様に街で診療所を構えるようになった。

 そんな父はよく優菜の髪をいじりながら、母と同じ綺麗な髪だと褒めてくれた。

 その時の父が浮かべていた寂しげな顔を忘れる事は一生無いだろう。

 以来優菜は父の慰めになればとポニーテールを続けてきた。

 父との思い出の品は無くなってしまったかも知れない。

 だが父との思い出は、縁は優菜自身に宿っている。



「……女姓にとって髪は命。よろしいのですか?」



 優菜の頼みに桜真が躊躇する。

 長く色艶もしっかりしている髪。

 優菜がどれだけ大切にしているか見抜き気遣っているのだろう。

 

 


「桜真。気持ち汲んでやれ……良い縁だと思うよ俺は。親父さんは良い娘さんがいるな」



 楠木が腕組みをして桜真に促してから、優菜へと優しげな笑みを向けた。楠木の笑顔はよく決心したなと言外に褒めている。

 楠木の言葉に桜真も決心がついたのか立ち上がり優菜の髪へと目をむけた。



「分かり申した。優菜殿。髪留めをはずして中程を手でお持ちになって拙者へと向けていただけますか」



 優菜はいわれた通りに髪を縛っていたゴム紐を外してから、長く伸びた髪の半ばほどを軽く手で握り首を傾けてテーブルの上に立つ桜真の方へと向ける。

 刀を引き抜く鞘走りの音が静寂に包まれる店内へと響く。



「しからば……御免」



 桜真が合図を告げると共に刀を一気に振り抜く。

 優菜の髪が一瞬にして肩口ほどに切り落とされる。

 優菜にはなんの感触も痛みも無かった。それが小さいながらも鋭利な刃を持つと桜真の持つ技量の高さを指し示す

 急に軽くなった頭部が優菜に消失感を感じさせる。

 肩口ほどになった髪がぱらりと垂れ下がる



「…………ありがとうございます」



 桜真へと頭を下げてから優菜は切り落とされた髪を見た。

 艶々した黒髪。手にずっしりとくる重さはずっと髪を伸ばしてきた年月その物。この長さだけ父との思い出が詰まっている。



「楠木さん。縁様……これでお願い出来ますか」



 髪を優菜は差し出して楠木達へと頭を垂れる。



「優陽からも……おねがいします。おねえちゃんの髪はおねえちゃんの宝物なの」



 姉の行動に目を丸くしていた優陽も優菜の様子をみて、改めて頭を下げて再度帽子を差し出す。



「うむ。いける……お主らの髪と帽子を合わせれば、父との縁を取り戻すなど造作もない。安心せい。楠木!」



 差し出された髪と帽子を見つめた縁が強く頷いてから、宙へと浮かび上がりながら鋭い声で楠木の名を呼ぶ。

 縁の呼びかけに楠木はスーツの内ポケットから折り畳まれた真っ白な懐紙を取り出す。



「了解しました……優菜、優陽。二人の思いは確かに受け取った。絶対に俺たちが親父さんを取り戻してくる。じゃあ俺たちは先に出るが二人はゆっくりしてくれ」



 楠木は髪と帽子を受け取ると懐紙に丁寧に包み大事そうに懐にしまい強い言葉で宣言し席を立ち上がった。

 背もたれに掛けていた黒いコートを羽織り、横に立てかけてあった竹刀袋を担ぎあげてから姫桜の背後へと回る。



「優菜さん。優陽さん。私たちにお任せください……桜真。見事な髪斬りでした。戻します。次は異界でよろしくお願いします」



 楠木が椅子を引くのにあわせて立ち上がった姫桜はにこりと微笑み言葉を掛けてから、桜真をねぎらう。



「御意。優菜殿。優陽殿。楠木殿ならば必ずやお父上をお助けして下されます。ではお急ぎとなるようですので私はこれにて失礼つかまつる」



 背筋を伸ばした桜真が別離の挨拶を述べ一礼してから姫桜が手を一つ叩いた。すると次の瞬間、煙をかき消すように桜真の姿がテーブルの上から消え失せた。




「縁様。お待たせしました肩へどうぞ…………いくぞ姫さん」



「畏まりました楠木様」



 楠木がコートの右肩を軽く手で払って形を整えると宙へと浮かんでいた縁がふむと頷いてから肩へと腰掛ける。

 どうやら楠木の右肩は縁の指定席のようだ。

 姫桜も軽く裾を整えて手早く身なりを整えていた。

 二人と一柱は準備が終わると店の出口へと向かう。

 挨拶もそこそこに立ち去ろうとする楠木達が一日でも、一分でも、一秒でも、一瞬でも早く異世界召喚者を取り返すために異世界へと向かおうとしているのだと判る。



「あ、あの! 楠木さん」



 無駄に声をかけて楠木達の時間を浪費させない方がいいのかもしれないと思いながら、優菜は立ち上がり巨漢の背中へと声をかける。

 

  

「おう? 何か気になることがあるか? 金とかならいらないから。俺等は公僕なんで無料だ。税金泥棒って言われない様に一生懸命やらせてもらうさ」



 振り返った楠木が口元をにやりとさせながらつまらない冗談を口にする。

 先ほどまでの優菜であれば巫山戯た態度に苛立ちを覚えていただろうが、楠木の態度は胸の奥底を隠すための物だと優菜は気づいている。

   


「公園ではすみませんでした! いきなり殴りかかってしまって」


 

 今ここで謝らなければ機会を逃すと考えた優菜は深々と頭を下げて公園での狼藉を謝った。

 優菜の謝罪に楠木は頭をポリポリと掻き困った顔を浮かべる。

 謝られるとは考えてなかったのかしばし言葉に詰まっていた。

 


「あー……まぁしゃーねぇからいいって。客観的に見れば不審者だしな俺。ほれこんな小っこい御方を肩に乗せてるしよ」 



「娘。妾が許す。次は脳天をかち割ってやれ。さすれば少しはまともになるじゃろう」



「クスクス。大丈夫ですよ優菜さん。楠木様は痛いのが大好きな御方ですから」



 縁が鼻を鳴らしながら楠木の耳を引っ張り、姫桜は口元を隠して実に楽しげな笑みをこぼす。



「ひでぇなおい……だそうなんで気にすんな。俺も気にしてないからよ。っとそうだマスター。この中に美容院もあったよな。優菜の髪を整えてやってくれ。料金は俺のつけで頼む。このままじゃマスターのお仲間の座敷童だ」



 最後に店の奥に声をかけた楠木はおかっぱ頭になった優菜の髪を指さしてから、人の悪い笑みを残して店を出て行った。















「さてお嬢さん。席を変えようか。どんな髪型にしたいかな。出来るだけご希望に添うよ」



 楠木が店を出ると入れ替わりに顎髭のウェイターが店の奥から出てきて優菜に尋ねる。

 しかし優菜は楠木達が出て行った入り口をじっと見ていた。

 その目には不安げな色が浮かぶ。



「……楠木君が信用出来ないかい?」



 問いかけに優菜は小さく首を横に振って無言で答える。

 人をからかうような笑みを浮かべ、にやにやと笑っている軽薄そうな印象が強い。

 だがたまに覗かせるその真摯な言葉は強く重い。

 信頼は出来る……はずだ。

 だが楠木は自分の事を弱いと云っていた。

 そして姫桜も気配は恐ろしかったが外見は強そうに見えず、彼女が呼び出した桜真は人形のように小さかった。

 彼等は大丈夫なのだろうか。

 拭いきれない不安が優菜の心によぎっていた。



「お嬢さんの心配は判るよ。楠木君は確かに力という意味では弱いからね」



 優菜は何も言っていないのにウェイターが優菜の葛藤をピタリと言い当てる。

 どうして判ったのだろうと優菜が驚いているとウェイターが右手の人差し指をたてて小さく振った。

 するとウェイターの左手にシルバーのトレイと湯気を立てる紅茶が入ったカップが二ついきなり出現する。

 何処かに隠し持っていたとかではない。文字通り忽然と出現した。



「おじさん。マジックの人?」



「いやいや違うよ小さなお嬢さん。私は彼等ほど器用ではないから。楠木君も言っていたけど私は縁様の同種だからこの程度なら出来るのさ。と言ってもあの方には遠く及ばないけどね。それよりこれは私からのサービスだ。これを飲むくらいの短い時間。彼のことをちょっと話してあげようか? 当たり障りのない程度だけどね」



「……聞かせてもらっていいですか」 

 


 ウェイターの提案に優菜は乗る。

 本人がいない所で話を聞くのはマナー違反ではあるが、優菜はどうしても気になっていた。

 楠木勇也と名乗る人物のことを。 



「縁様や私が君たちには見えるね? でも本来は普通の人間には、私達の姿は見えないんだよ。元々そういう力を持っているか……異界の力。光、炎、水、雷なんかに姿を変る事が多いかな。まぁどっちにしろちがう世界の力だね。それを見てしまった者は見えるようになってしまうんだ。周波数が合うとでも思えばいいよ」



 ウェイターの言葉で優菜は父を攫った炎を思い出す。

 あの不可思議な炎。

 あれを見たから自分達は縁を見られるようになったということのなのか。



「楠木君も元々普通の人間。でも彼は私たちが見える。見えるようになってしまった…………意味は分かるだろ」



「っ!」



 優菜は息をのむ。

 まさか……楠木も大切な誰かを? 



「そう……でも彼はさっきも言ったとおり普通の人間。比較的安全な異界に渡るならともかく、違法召喚なんてする輩は、その世界でよほど強い権力を持っているか、強い力を有す者。危ない世界が多い。普通なら死んだと同義だと諦めて悲嘆に暮れるよ……でも彼は諦めない。出来ることをやるって、雑用から使い走り。何でもやって異世界に関わり続けてきたんだ……まぁそこから先が凄いけどね」



 ウェイターは軽く笑いを浮かべる。

 それはとんでもないことをしでかした子供を見るような驚きを含んだ顔だ。



「がむしゃらに前に進んでいくうちに、好かれたり、憎まれたり、一目置かれたり、軽蔑されたりと、いろんな人や存在と繋がりをもっていき、今じゃ古今無双退魔神刀『縁斬り』の史上最弱の継承者なんて裏の世界じゃちょっとした有名人にまでなってるくらいだ……もっとも私達八百万の存在にとってはもっと違う意味で有名だけどね。名も姿形も変わってしまわれたが”あの”縁様が選んだ神官だってね」



 ウェイターの言う事の意味は知識を持たない優菜には半分も理解出来ない。

 だがただの一般人であった楠木が大きな存在となっている事だけは判る。

 



「『当代鬼王』である玖木の娘さんも楠木くんは誑し込んでいるし、特三には『異界創』である金瀬八菜様の後ろ盾がある……彼なら大丈夫だよ。絶対にお嬢さん達の家族を取り返してきてくれる。そういう男だよ」

 


 ウェイターの言葉には言霊と呼べばいいのだろうか、優菜達を安心させる響きをもっていた。


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