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カラールーム  作者: そうだアメ
第1章:非現実的な事象ほど現実味に溢れている
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ホワイト 02

 その光は、誰もが思っているよりも優しく、かつ鮮明に僕のことを捉えていた。それくらいに眩しく感じた光が段々と落ち着いてくるのが、まぶた越しでも伝わってくる。それを合図に、僕は恐る恐る覆っていた手を視界から外した。

 右からゆっくりと瞼を上げ、まるで迷子の子供のように辺りを見回してしまう。相変わらず白い空間がそこにはあったが、さっきと決定的に違うのは、ちゃんとモノが何処にあるのかというのが認識出来るということだ。左右に対称的に存在している階段とテーブルとソファー。さらに、僕の目の前には誰もいないカウンターのようなものがポツンと置いてあるだけだった。


「……また誰もいないのか。困ったものだね」


 ともなくして後ろから聞こえてきた聞き覚えのある男性の声によると、どうやら本来ならここに誰かがいるらしいけれど、今は何処かに行ってしまっているらしい。その結果、白いカウンターだけが僕を迎え入れることとなったようだ。


「すまないね、キミを迎える人物がいなくて。まあ、何処かで彼らにも出会えるだろうから、自己紹介はその時にでもさせるとするよ。ああ、安心してくれ。キミの名前はちゃんと控えてあるからね。少し落ち着いてからにしよう」


 カウンターの横に並べられているソファへと促されるまま、僕はゆっくりと腰をかけた。向かいに座った男の人が取り出したのは、とある一枚の紙。少し見ただけでもその紙には難しいことが書いてあるというのがよく分かるくらいに、一言一句定型文のようなものが羅列されていた。


「簡単に説明すると、ここはいわゆるホテルみたいなものだと思ってくれていい。滞在時間は今日を含めて一週間。その一週間でキミが何を思うのか、キミが良ければ是非教えて欲しいものだね」

「ホテル……?」


 確かに、言われてみればホテルという言葉がしっくりくるかも知れない。真っ白な受付のようなカウンター。それに、今僕が座っている待合所のような場所。色があったら、もっと分かりやすくホテルだと認識できたのだろうか。


「質問があったらいつでも聞くよ」


 ここまでの流れの中、特別なにも聞かない僕を見かねたのか男の人は僕にそう問いかけた。ほんの少し思考を重ねてはみたものの、何一つとして質問が思い浮かばない。沈黙が、それを現していた。


「……今は特に、無いです」

「そうかい? 聞きたいことがあったらいつでも言うといい。答えられるものなら、だけどね」


 にこやかに話しを続ける男の人が次に提示した言葉は、紙に書いてあることを指差しながらの非常に分かりやすい説明だった。

 ここはいわゆるホテルのようなもので、とある条件のもと訪れることができ、僕はその条件を満たしたという事。滞在期間が一週間というのは、ここに泊まれる期間が一週間だというだけで、それより早く出ていくことも出来るが、それには条件が必要だということ。記憶がないのはここに来る時に起こる一種の現象のようなもので、全員が必ずしもそうなるわけではないということ。


「……こんな感じだ。少しは分かったかな?」

「う、うん……ありがとうございます……」

「いやいや、これも仕事というだけさ」


 話が一段落したところで、僕はここに来てはじめて疑問が浮かんだ。解らないことがあったら何でも聞いていいって言っていたけど、本当に聞いても良いのかという少しの不安を抱えながらも、僕は聞いてみる事にした。そうじゃないと、話をするにはどうもやりにくかったのだ。


「あ、あの……。ひとつ質問があって……」

「なんだい?」

「その……。あなたの名前、僕知らないままだなって思って……」

「そうだったかな? だとしたら失礼なことをしたね。だが生憎、ワタシは名前というものを持ち合わせていないんだ。支配人とでも呼んでくれたまえ」

「支配人……」


 名前がないっていうのは、僕の記憶がないっていうのとは少し違うのだろう。名前の分からない支配人さんが再び口を動かした。


「さて、キミの名前についてだが……少しだけ待っていてくれたまえ」


 支配人さんは、さっきのカウンターに足を運ぶ。裏にある引き出しか何かを漁っているらしい。男の人が戻ってくるまで、僕はさっき説明してもらった紙の内容でも見ようと思い手をのばそうとした。その時だ。


「あ、もう来ちゃったんですね」


 その声は支配人さんの声ではなく、僕が聞いたことのない軽快な声。それの音がした方向に顔を向けると、この場所に来てふたり目の男の人の姿がそこにはあった。

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