第三十九話 精霊王
重厚な扉をゆっくりと押し開くとそこは広い空間になっていた。
鎮座する玉座には足を組んだ男が座っている。
「姫!目が覚めたのですね。よかった・・・」
そう言いながら降りてくる男を警戒して囲うルー達を気にする事無く近づいてくる。
その表情はどこか暗い笑顔、しかしその中に悲しみが見えるのは気のせいか・・・
「邪魔ですね・・・退いていただけますか?」
「誰が退くか!」
「ユニ!」
「うん!」
ルーの掛け声で私は言葉を発する。
「我が眷属たる精霊の王、フーガ・アクア・マグナ・ゾーラ・アンバー・ゾーン・レイ・ク
ロノス・・・今、闇の力を打ち砕く大いなる力を・・・!」
背中から翼を出し、七色の光が辺りを包みながら精霊王七人と時の精霊王クロノスが姿を現した。
クロノスが男の動きを止め七人の持つそれぞれの属性の鎖が男の動きを完全に封じる。
「・・・姫・・・この程度の力では私を封じる事など出来ませんよ?」
腕を振ると鎖がバラバラと砕け空気に解ける。
「そんな!?」
『姫!やはり力を増したこの者を封じるには私達だけでは力が足りません!』
「時間を稼ぎます!」
精霊王の言葉にリヒターが先陣を切って男に切りかかる。
フレッドとルーも加わり男の周囲から数発の斬撃が一斉に襲い掛かる。
「お前等退け!・・・地を焦がす焔、天を飲み込む水流、輝く日輪を黒く染め、永久の眠りを!」
レイが全員を退かせて発動した魔法は地から吹き出した炎を空から発生した水が飲み込み巨大な爆風が生まれた。
「少しは傷を与えたんじゃな・・・うわあっ!」
四人は吹き飛ばされ、その中心には男が肩を上下させて息を荒くして立っていた。
「こんな事で・・・くっ」
精霊王の力は効果が無いわけではないようで、今まで傷一つ付けられなかった男に傷を付ける事が出来た。
しかし、次の瞬間には男の傷は一瞬で塞がっていた。
「・・・っく、まだ力が足りないのですか・・・!」
リヒターが悔しそうに呟くとリヒターの身体から淡い光が漏れ出した。
「?この光は・・・」
「リヒター・・・」
ユニの近くに吹き飛ばされてきたリヒターは自分の名を呼ぶユニの方を振り向く。
「お嬢様・・・私は一体・・・?」
「リヒター・・・」
「この光はお嬢様の光に似ている。私にはまだ力があるのですか?私は一体・・・私は一体
何なのですか?」
「・・・貴方は・・・貴方の昔の姿は、精霊王リフルタール」
「っ・・・!?」
目を見開いたリヒターの姿は眩い光に包まれ次の瞬間には淡い光を発して夢で見た精霊王リ
フルタールの姿をしていた。
「姫・・・久しいですね」
「リフルタール・・・」
「その名は嘗ての物・・・今はリヒターですよ、お嬢様」
「!・・・うん、行こう!」
「はい!!」
「みんな、最後の力を振り絞って!」
「「ああ!」」
「おう!」
みんなの顔には、光が宿っていた。
希望と言う名の光に照らされた明日への希望の一歩を踏み出すために。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
フレッドが地面に剣を叩きつけ呻りを上げて男に衝撃波が向かっていく。
「辿れ、光の道、大いなる自然の猛威よ、牙向き貫け!」
嵐が巻き起こり、光が刃の様に男に襲い掛かる魔法をレイが使う。
「光と闇よ!この剣に宿れ!」
光と闇を纏った剣を振るったルーの攻撃が空気を裂き目にも留まらぬ速さで突き進んでいく。
「はぁ!!」
リヒターの双剣から、出た光が十字の形で男に向かう。
「みんな!力を!!」
世界の精霊を集結させた巨大な光が男に落ちる。
男は自分の周りに闇のカーテンの様な物を張り巡らせたが、全員の攻撃が一斉に降りかかる。
「うわああぁぁぁ!!」
男の断末魔の叫び声が虚空に響き渡った。
全身がボロボロになった男が横たわっている。
その横にはユニが立っており、離れた所に他の仲間も立っていた。
「姫・・・私は、やはり間違っていたのでしょう・・・か?」
「ええ・・・力に頼る事で解決する事は本当はいけない事です・・・でも、私もきっと貴方の立場なら同じ様になっていたでしょう」
「・・・最期に間違っていた事が分かってよかった」
「・・・それを認める事が出来れば、貴方はきっと変われます」
スッと屈むと男の頬に静かにキスを落とした。
「・・・!・・・姫」
「また・・・また会いましょう。その時は、素のままの貴方で・・・」
「ええ・・・ありがとう、姫」
そう言った男は霞の様に消えてなくなった。
その時、地面が急に揺れた。
「この城・・・落ちるぞ!」
「ユニ!行くぞ!」
走り出したみんなの足音を聞いて、名残惜しげに走り出そうとした時目の前に大きな瓦礫が降ってきて道を塞いだ。
「ユニ!」
「みんな!先に行って!」
「しかし!」
「いいから行って!」
「・・・行きましょう」
「だが!」
「今は!・・・信じるしかありません」
「ユニ!」
ルーが瓦礫に向かって走っていくのをレイが止めようとすると、行く手を塞ぐ様に瓦礫が崩れてきた。
「くっ!」
「ここは危険です!早く!」
振り返らずに三人は魔法陣の所まで駆け出した。
「ルー・・・私の事なんていいのに・・・」
「ふっ、馬鹿を言うな」
「馬鹿ってどう意味・・・?」
少しドスの聞いた声で聞くユニに苦笑する。
「まぁ、何はともあれこれで全てが終わったって事だ!」
「終わってなんか無いよ。これからも彼の様な人が生まれないとも限らない・・・これは、
始まり」
「そう・・・だな。俺はそうならない様に世界を変えたい・・・付いて来てくれるか?」
「それ・・・は・・・?」
微妙な言い回しが気になったのか不思議そうに聞きなおすユニに、照れ笑いしながら言った
。
「これから俺が世界を変えるのを・・・一番身近で見守っていて欲しい」
「一番、身近?」
「そう、俺の妻として・・・妃として、いずれは王妃として」
「///・・・はい」
「よかった・・・行こうか、ここはもう危ない」
「はい・・・あ、ちょっと待って」
「ん?」
先に歩き出そうとしたルーを呼び止め振り向いたルーに近付く。
「ちょっと耳貸して?」
「耳?」
「そう」
耳打ちでもするのかと少し腰を屈めると、ユニの唇が頬を掠めた。
「ユニ?」
「行こう!」
「ふっ・・・ユニ!」
「ん?」
額にそっと口付け話す時に少しわざと音を立てた。
「///・・・ルー!」
「お相子だ。行くぞ!」
城の外に向かって・・・明日へ向かって、一歩を踏み出した!