第二十五話 孤独の双狼
今回はかなりシリアス気味になりそうです。
でも、最後は感動的な終わり・・・かな?
「ど、どうなってるんだ!?石像が動き出すなんて!」
「知るか!これは、魔物なのか!?」
ルーがヒステリックに叫ぶのに怒鳴るようにレイが答え、この場では一番しっくり来る回答をした。
「いえ、これは魔物ではないと思われます」
リヒターが冷静に答え、その隣でフレッドが頷きながら言った。
「あぁ、魔物から感じるはずの禍々しい気配を感じない」
「・・・・・・」
ユニは言葉を返さずジッと二匹の狼を見ていた。
(悲しそうな眼・・・)
「「ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」」
二匹は、体制を低くして何時でも飛掛れる様にして低く呻った。
「どうやら奴等はヤル気みたいだな」
「みたいだな」
ルーとレイが武器を抜きながら言ったのを聞いて、
「そうとも限らんぞ?テリトリーに入られた獣は襲わず警戒音を出して追い出す」
「どう出るかを見てからのほうがいいでしょうね」
「「がぁっ!!」」
フレッドとリヒターが言ったと同時に二匹が吼えた。
吼えたのに対して警戒し、リヒターとフレッドが剣を抜き刃を向けたとき飛掛るように二匹が走り出しリヒター、ルー、フレッドが同じようにそれぞれ剣を構えて向かって行った。
「はぁっ!・・・てやっ」
「くっ・・・なかなか強いですね」
キンキンと、刃と鋭い爪のぶつかり合う音がその空間を支配していた。
狼達はその巨大な体躯には似合わない俊敏な動きで翻弄し、隙あらば鋭い爪で切り裂き、鋭利な牙で噛み切ろうとしてくる。
「うおぉぉぉ!!・・・なっ!?」
フレッドが大きく呻る様な声と共に大剣を赤い狼の首元に振り下ろした。
しかし、その刃は通ることはなく弾き飛ばされた。
「なら・・・これでどうだ!!・・・鋭利なる水の刃よ切り刻め!!」
レイの詠唱と動じに発された魔法は水の鎌の様で、物凄い速さで緑の狼にぶつかったが、やはり効果はないらしく猛然と襲い掛かってくる。
『『気付いてくれ・・・助けてくれ・・・』』
「!?皆!退いて!!」
バッと四人はユニの横まで後退した。
「何か分かったのか?」
「皆・・・ここから動かないでね」
そう言うとユニはコツコツと足音を鳴らしながら狼達の前まで歩いて行った。
「苦しいの・・・?」
『『!?・・・娘よ、我等の声が聞こえるのか?』』
小さく問うユニにだけ聞こえるような小さな声が二つ重なって耳に入る。
それに無言で頷くユニを見てさっきよりも眼を見開いてユニを見つめる。
「私が貴方達を助けられるなら助けたい」
『『我等を・・・救おうというのか?』』
そっと眼を伏せて眉間に小さなしわを寄せて、ユニは言った。
「苦しんでるのを・・・見て、知らないふりなんて出来ないよ」
『『・・・』』
伏せていた眼を開くと意志の強さが伺える瞳が二匹を射抜いた。
『『我等は、『ロルド』の民だった・・・炎の神殿の精霊王に会うために此処に来た。しか
し、王は人に会うことなど有り得ないと、聞いて下さらなかった。それでも我等には会う必要があった。そのため無理に会おうと神殿に踏み込んだ我等にお怒りになり、我等をこの姿にし番をするよう命じられた』』
「・・・」
ユニの強い意志を感じて話した内容は予想外のものだった。
それを聞いて、ユニは押し黙る。
『『その後、同国の人間が幾度と訪れた。しかし、誰も我等であるとは気付かず刃を向けてきた』』
「・・・ぐすっ・・・」
『『どうした・・・?』』
気付くと泣き出していたユニの傍まで来て涙を舐めとった。
「助けてあげたいのに・・・私には何も出来ないっ!!」
『『良いのだ・・・我等は犯してはならない聖域を侵した。これは罰なのだ』』
「でもっ!!」
『『我等の事を分かってくれる者が現れてくれたことで我等は十分救われた。これ以上は望むまい』』
「うぅ・・・ぐすっ・・・」
泣きじゃくりながら二匹の頭をかき抱くユニから淡い光が漏れた。
『『この光は・・・あの時の・・・』』
ユニの背中に虹色に光り輝く翼が現れた。
『『おぉ・・・』』
ユニから漏れ出た光は二匹を包み込み天井から同じ様な光が降り注ぐ。
その光に導かれるように二匹の巨躯が浮き、中空に浮かび上がったとき一際強い輝きを発した。
その場の全員は眩しさに目を閉じた。再び眼を開くと、ユニの目の前には赤い髪の筋骨隆々のフレッドに良く似た青年と緑の髪をした知的な青年が立っていた。
「・・・助かったの?」
「「いや・・・元より我等はこの時代に居てはならない存在だ。この姿もじきに消える」」
「!?・・・折角元の姿に戻ったのに、生きたくないの?」
必死な様子で目尻に涙を浮かべたユニが言うと、二人は優しい眼を向けて言った。
「「永遠に縛られる筈だった我等の魂は開放された。感謝している。」」
そう言うと、二人は懐からナイフを取り出した。
そのナイフは互いの色をしたナイフ。それに、掌から出した光を注ぎ、手渡した。
「「それは、我等の力が封じられている。お守りだと思って持っていてくれ」」
そう言うと、体が透けてきた。
「「そろそろ時間のようだ。最後に今一度礼を言おう。感謝する<メテオルド>の性に掛けて」」
二人の顔を見て嬉しそうに笑顔になったユニは、
「ありがとう、お守り・・・大事にするね!」
それを聞いて一瞬キョトンとした二人だったが微笑んだ。
「「さらばだ」」
そう言った次の瞬間、そこにはもう二人の姿はなかったが、ユニの顔は笑顔でどこか誇らしげだった。
ユニはいい子・・・これは決定事項です。
次回は神殿の更に奥へ