第十四話 海の向こうへ
外国へ、いざ!
――――――出発直前の城の前
「おい、リヒター・・・だったか?」
「はい・・・」
まだ覚えてないのか不安そうに聞いてくる王にリヒターが答える。
「お前が腰に差している双剣はマーズからか?」
「はい。」
少し声が震えている王の言葉に淡々と答える。
「そうか・・・アイツも本気なんだな・・・お前等ちょっと待ってろ!」
「「?」」
しばらくしてやっと帰ってきた王に呆れた顔で王妃が、
「貴方、何をしていたんですか?今まさに出発しようという時に・・・」
「すまん、すまん・・・」
そう言った王の手に握られた少し長めの剣―――
「アイツが家宝を出したんだ、俺も出さないとな!ほら、ルードリヒ!持って行け!」
「おっと」
投げ渡された剣を取るとまじまじと見つめる。
「その剣は、そいつの持っている双剣を作った刀匠の師匠であったと言われるヤツが作った刀だ。
その双剣のように剣自体に精霊を宿している訳じゃないが空気中にいる精霊を操れるそうだ」
顎でリヒターをしゃくりながら言う王が拳を出す。
「失敗したら承知しねぇぞ?」
「まぁ、頑張るさ・・・実際に頑張るのはユニだけどな?」
「そりゃそうだ!!」
笑いながら拳をぶつけ合う二人を見てこういう親子関係っていいなぁと思うユニだった。
王都から数時間の位置にある港で船に乗った三人は海に出ていた。
「私、海始めて見たよ!」
「殆ど屋敷から出た事が無いですからねぇ」
当然と言わんばかりにリヒターが言う。
「で?どれくらいで<アクオルマ>に着くの?」
腕を組んでしばらく考え事をしていたリヒターが
「そうですねぇ・・・明日の昼ごろには着けるのではないでしょうか?」
「そっか!」
笑顔で納得した様子のユニ、それに微笑み返すリヒター。
「う~・・・」
「大丈夫、ルー?」
ルーはと言うと船酔いで只今ダウン中。そして、現在ユニの膝枕で甲板のベンチに横たわっている。
「大丈夫ですよ。ただの船酔いです。」
「くっ・・・・」
空は高く澄み渡り遠くには入道雲が浮んでいた。
「やっと、着いたね」
次の日の昼前、港に停泊した船から下りた三人。
「とりあえず、城に向かいましょうか?」
「あぁ・・・そうだな」
<アクオルマ>の王都は湿原と海に囲まれている為、城の近くまで船でいくことができる。
城に向かって歩き出した。
歩いている途中もユニはきょろきょろと周りの珍しそうな物を見ていた。
しかし、三人が通った所では商店や市場の人まで石化したように固まっていた。
男達は、この世の物とは思えないユニの顔を見て、(一部はユニの珍しい物を見た際にした笑顔を見て悶えている)逆に女達は、ルーとリヒターのようなこちらも滅多に見ないほどのハンサムを見て固まってしまっていた。
そうこうしている間に城の前に着いた。
城は全体的には<ウィルマーズ>のものに近い雰囲気だが周りには水の膜のような結界を張っており、外部からの攻撃を遮断するようになっている。
入り口に近づくと騎士が扉をクロスするように槍を構えて言った。
「何用か?」
それに対してルーが答えた。
「<ウィルマーズ>の王子ルードリヒ・オル・ウィルマーズ」
それに続いてユニが、
「メルドール公爵令嬢ユルニス・メルドール」
さらにリヒターが、
「メルドール公爵家執事長及びウィルマーズ国立騎士団副隊長リヒター・メディウス」
「「「王にお会いする為馳せ参じました!」」」
「失礼しました」
三人の言葉を聞いた騎士は槍を自分の前に持ってきて姿勢を正すと慌てた様子も無く言った。
気付くと後ろの扉が開いていた。
「――――――と、言うわけで御座います」
一通り今回の旅の目的地へと入る許可を取った。
「うむ、では明日の明朝聖域であるダルダイル湖へ行く事を許可しよう」
「ありがとう御座います」
ユニが礼を言うと王は機嫌がよくなったのか微笑みながら、
「私もそなたの様な娘が欲しかったのだが、もう少し年を取り過ぎた」
「そんな!?陛下はまだまだお若いですよ?」
慌てて否定するユニを見て
「明日は私の息子も同行させたいのだが・・・よいか?」
「え?はい・・・」
きょとんとして頷いたユニを見て再び微笑むと、
「本当に優しい者だな・・・私の息子は才能はあるが素行が悪い。注意してくれ」
「はぁ・・・分かりました」
それを聞いて溜息をついたルーにユニは首をかしげ、リヒターは黒い笑みを浮かべていた。
聖域に行くまで後数時間――――――
次回水の神殿へ!!