共犯者の沈黙と、剥がれた仮面
講義室に満ちる、嘲笑と好奇の視線。
京子は、縋るような思いで隣のサオリを見た。
一緒に「ヘッペ」のバズりを見て、パンケーキを食べて笑い、昨日も日の出町の河原で石を投げた、唯一の「光」である彼女を。
「……サ、サオリ。……ふん。見ろ。愚民共モブが騒ぎ立てているぞ。……私の、真理ポストに怯えて……」
だが。
サオリは、京子の言葉を遮るように、俯いた。
その手は、自分に向けられた「ヘッペの友達だろ?」というDMが並ぶスマホを、震えながら握りしめている。
「……ごめん。……キサキョン。……私、これ……もう、無理かも」
サオリの声は小さく、そして冷たかった。
彼女は京子を見なかった。一度も、その剥離ピーリングし始めた茶髪の少女と、目を合わせようとはしなかった。
「……裏切りではない。……ただ。……ただ、重すぎる。……君。君だよ。キサキョン。……ヘッペ。……深淵。……サオリさん。……彼女。彼女はね。……光。……光の中に。……いたい。……いたいだけなのよ。……うん。……影。……影は。……いらない。……ね。」
佐藤(仮)の言葉が、真空の講義室に響く。
サオリは、音を立てずに荷物をまとめると、逃げるように席を立った。
京子の隣から、温もりが消える。
「……あ。……あぁ……」
京子の視界から、色が消えていく。
サオリが去った後の空間には、ただ冷笑する学生たちと、無機質な瞳で自分を見つめる佐藤(仮)だけが残された。
(……ああ。……そうか。……私は。……私は、如月京子。……女子大生。……茶髪。……サオリの、友達……)
その「定義」が、足元から崩れ去る。
「……ふん。……はは。……ははははは!!」
京子は、突然笑い出した。
それは、かつて日の出町のボロアパートで、壁のシミに向かって放っていた、あの孤独な狂気笑いだった。
「……いいだろう!! お前ら!!剥けというなら、剥いてやる!!
私は如月京子だ! 枯葉に埋もれたままでいたかった玉ねぎの皮だ!!
共犯者サオリすらも目を逸らす……醜悪グロテスクな野菜の残骸だ!!」
京子は、もはや「女子大生」の歩き方すら忘れ、ふらつきながら講義室を飛び出した。
(……帰る。……帰るのだ。……私の。……私の、玉座アパートへ……!!)
私は…きさ
…私は一体、誰なのだ…




