共鳴する片足 シンクロ・ソックス
放課後。大学近くのカフェ。
西日に照らされたテラス席で、如月京子は戦慄プルプルしていた。
「……ふん。サオリ、佐藤(仮)。貴様ら、なぜ私の左右に陣取る。これでは背後リアが取れんではないか」
「えー、いいじゃん! キサキョンのスマホの中身、気になるしw」
サオリが身を乗り出し、京子の安物スマホを覗き込もうとする。
「中身。コンテンツ。見たい。見たいね。君。君だよ。キサキョン。ヘッペ。……アルミ鍋。熱伝導。……次。次、何。何書く。……うん。期待。エクスペクテーション。……してる。僕。僕も。サオリさんも。……ね。」
佐藤(仮)が、無機質な瞳でじっと京子の手元を見つめる。
(……くっ、この監視下パノプティコンで投稿せねばならんのか……!)
京子は、逃げ場を失った指先で、今朝、寮の自室で起きた「怪奇現象」を脳内から呼び出した。
それは、洗濯物を畳んでいる時に突きつけられた、残酷なまでの欠落ロスだった。
「……これだ。これしかない。私の真理ロジックを……喰らえ」
震える指で、京子は一気に打ち込んだ。
【靴下は不意に片方だけ居なくなるよな。どこへ行った。異次元か。……ふん、まあよい。】
「……ポチッとな」
自暴自棄に近い勢いで投稿ボタンを押した、その数秒後だった。
スマホが、テーブルの上で**「ブブブブブッ!!」**と、まるで生き物のように跳ねた。
「えっ、何!? 壊れた!?」
驚く京子を余所に、画面上の数字が爆速でカウントアップしていく。
100 RT…… 500 RT…… 2000 RT……!!
「あはははは!! 伸びてる! キサキョン、これヤバいよ! 拡散の嵐じゃん!」
サオリが手を叩いて喜ぶ。
「わかる。わかるね。……共感。共鳴。シンパシー。……僕。僕も。今。今まさに。右。右足。ない。ないのよ。靴下。……君。君だよ。キサキョン。全人類。全人類の、叫び。代弁。……しちゃった。……ヘッペ。ヘッペ様。……降臨。……うん。」
佐藤(仮)が、珍しく「ふふっ」と、不気味に、だが確信に満ちた笑みを漏らした。
コメント欄には**「靴下の神様!」「これぞ真実」「不意に居なくなるw」「片方の孤独を知る者よ」**と、救いを求める民衆のようなリプライが殺到している。
「な……なんなのだ、この狂乱フェスティバルは……! 靴下だぞ!? 片方なくなっただけの、取るに足らない敗北エピソードだぞ!?」
京子のメガネが、驚愕のあまり鼻筋からずり落ちた。
擬態のために必死に考えた「女子大生らしい投稿」よりも、自室の汚い床から生まれた「独り言」の方が、圧倒的に世界に望まれている。
その事実に、京子は形容しがたい寒気スリルを覚えた。
(……待て。世界は……世界は、この『ヘッペ』という狂気を求めているというのか……? 擬態ギタイの仮面が……内側から食い破られていく……!)
隣で
「あー、私の片方もヘッペ様に供養してほしいわーw」
と笑うサオリと、
「次。次、何。靴。靴かな。下着。アンダーウェア。……脱げる。脱げるね。仮面。……うん」
とボソボソ呟く佐藤(仮)。
京子のSNS狂想曲は、最悪で最高な形で幕を開けたのだ。
私は如月京子だ!…もうっ…何これねぇ…不本意すぎる!!
私は一生、普通に過ごすことが出来ないとでもいうのかね?




