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如月京子は擬態中!  作者: 末紀世(まつきよ)


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5/10

真名剥奪! ネーミング・ハイ



「……おい、佐藤(仮)。いつまで私の隣で検閲スマホののぞき見を続けている。死にたいのか」


放課後のベンチ。京子はスマホを握りしめ、隣の佐藤(仮)を睨みつけた。


その時、背後から「あははっ! 何これー!」と、陽光のような明るい声が降ってきた。


サオリだ。

「なにー? 楽しそうじゃん、このカップルwww 目が離せないんだけど、二人とも!」


「カッ……!? 不敬ふけいだぞサオリ! この男はただの観測者エネミーだ!」


京子が顔を真っ赤にして叫ぶ。そんな京子をニヤニヤ見つめながら、サオリは佐藤(仮)の方を向いた。


「でも、いい感じじゃん。ねえ、そう思うでしょ?」


その瞬間。

京子は、何の疑いもなく、ごく自然にその名を呼んだ。


「…思わん!!…そうだ。佐藤。貴様からもサオリに言ってやれ。我々の間にあるのは覇道バズりの盟約のみであると」


――一瞬。空気が凍りついた。

佐藤(仮)が、彫像のように固まった。

二度見。

三度見。

……そこから、四、五、六、七、八。

やっぱり八度見くらいして、佐藤(仮)の口から魂が漏れ出した。


「……ぼ。……ぼぼぼぼ。……僕は。佐藤?佐藤ではない。うん。どうして。どないしてねぇ? どうして佐藤? 佐藤 is どこから? どこから来たの、その平凡な名前。ねえ。佐藤。一言も。一言も言ってない。一言も言ってないのよ、僕!!」


佐藤(仮)は、かつてないほどの激しい動揺を見せ、ガタガタと震えながら否定した。


「(……っ!?)」


京子は戦慄した。

(マズい……! 私は……私は今まで、この男が佐藤であると一分の疑いもなく信じ込んでいた……! 先入観テンプレートという名の毒薬ポイズンに侵されていたのは、この私だったというのか……!?)


「新井田。あらいだ。……新井田あらいだ 恭二きょうじ。うん。それが僕。マイ・ネーム。あらいだ。恭二。……今日、二回。言ったかな? 言ってないけど。きょっきょ恭二。あらいだ。佐藤じゃないのよ。ねえ。キサキョン。」


佐藤(仮)が、必死の形相で学生証を差し出す。


そこには確かに「新井田 恭二」という、京子きょうことどこか似通ったひびきの名前が記されていた。


だが。

京子の脳内データベースは、すでに「佐藤(仮)」として全てのフォルダを暗号化済みだった。


今さら「新井田」という新ディレクトリを作成するなど、覇王ハーンのプライドが許さない。


京子は冷徹に、学生証を指で弾き返した。


「……ふん。新井田……恭二……だと? 認めん。認めんぞ! 貴様のその、不条理キモいな喋り。空気を読まぬ無礼デリカシー。どこをどう切り取っても、貴様は佐藤だ! 断じて、お前は絶対に佐藤なのだ!!」


「横暴。横暴すぎる。うん。僕。僕の、親。両親。新井田。みんな、新井田。佐藤、いない。一族に、一人も。うん。なのに、佐藤。強制。強制佐藤。うん。ひどい。ひどいのよ、君。」


すると、横からサオリが追い打ちをかけるように、ケラケラと笑い声を上げた。


「あははは! キサキョンひどーい! 佐藤くんのこと佐藤って呼ぶのやめなよー!www」


「(……サオリ、貴様っ!!)」


それは全くフォローになっていなかった。


むしろ、「佐藤ではない何か」を「佐藤くん」と呼び続けることで、新井田のアイデンティティは木っ端微塵に粉砕された。



結局、この日を境に。

京子の中でも、サオリの中でも

新井田恭二という名は忘却の彼方ブラックホールへと消え去り、彼は永遠に「佐藤(仮)」として生きていくことになったのである。


「……ふん。佐藤(仮)よ。名を捨てて実を取れ。それが……覇道バズへの第一歩だ」


「……捨てた。捨てさせられた。うん。名前。アイデンティティ。もうティティー。さようなら。……うん。いいよ。佐藤。佐藤で。もう。佐藤として、生きる。うん。」


「……マジウケんだけどw サトゥーwww」


こうして、史上稀に見る「本名を失った男」と「擬態する覇王」の、奇妙な二人三脚が本格的に始まってしまった。



私は如月京子だっ…もう…助けてぇw


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