邂逅(エンカウント)と、爆散
講義終了後、校舎の裏手。
京子は腕を組み、仁王立ちで佐藤(仮)と対峙していた。
「……単刀直入に問う。貴様、なぜ私とサオリを知っている。なぜ『キサキョン』という禁忌のコードを口にした」
佐藤(仮)は相変わらず、どこを見ているのかわからない視線でボソボソと答える。
「……名前。ネーム。名前がね。キサキョン。残った。耳。耳の奥。鼓膜の、隅っこ。うん。サオリさん。光。光の属性。サンシャイン。うん。その後ろ。影。ダーク。暗い。暗そうな、女の子。隠れてた。痛々しい。うん。見てて。見ててね、痛かった。心が。キューンと。したのよ。うん。まあ、その程度。うん。」
「(……痛々しいだと……!?)」
京子のプライドがピキリと音を立てる。だが、不思議だった。
この男、喋り方は猛烈にキモい。リズムもおかしい。だが、その濁りのない(?)瞳を見ていると、なぜか「こいつなら、理解るのではないか」という奇妙な錯覚に陥る。
気がつけば、京子は語っていた。
擬態という名の装甲を脱ぎ捨て、休学中の凄惨な戦歴ライフスタイルを。
「……ふん。驚くなよ。私は休学中、日の出の山を降り、ボロアパートという名の要塞シェルターに籠城していた。夜間警備という名の任務ミッションでライトセイバーを振り回し、六畳一間の壁のシミを相手に、夜な夜な戦略ひとりごとを練り上げていたのだ。……そう、私は暗黒の覇者、**『ヘッペ忽必烈』**である!!」
沈黙が流れた。
風が吹き抜け、京子の茶髪がなびく。
普段、感情が死んでいるような佐藤(仮)が、ピクンと眉を動かした。
二度見。
三度見。
……そこから、四、五、六、七。
八度見くらいして、佐藤(仮)の顔面が崩壊した。
「……ぶっ。……ヘッペ。ヘッペwww ヘッペって。何。何なの。それ。この世。この世に、ない。存在、してない。絶対に。ヘッペ。言葉。言葉として。成立。してないのよ。www 忽、必、烈。繋げちゃった。繋げちゃったね。ヘッペと。www」
佐藤(仮)が、膝を叩いて大爆笑している。あの無愛想な男が、腹を抱えて震えている。
「……笑うな! ヘッペは私の真名ソウル・ネームだぞ!!」
「……いい。いいよ。面白い。最高。ヘッペ。うん。その。壁のシミ。壁打ち。独り言。うん。勿体ない。捨てる。ドブ。ドブに捨てるの。うん。SNS。書きな。書き込みなよ。世界。ワールド。ワールドに。ヘッペを。放流。リリース。しちゃいなよ。うん。」
「断る!! 絶対にやらん! 私は潜伏ギタイを全うするのだ。誰がそんな、自分の内臓を晒すような真似を――!!」
――その、数分後。
京子の手の中には、設定が完了したばかりのスマホがあった。
画面のトップには、誇らしげに(そして忌々しく)こう記されている。
【アカウント名:独り言マスター ヘッペ忽必烈】
「……ふん。これは、あくまで佐藤(仮)への威力業務妨害デモンストレーションだ。決して、私の本意ではない……断じてな……!」
震える指で、京子は最初のポストを打ち込み始めた
「指毛の匂いわかるヤツいる?」
私は如月京子だ!…もう普通なんて夢のまた夢じゃん…




