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如月京子は擬態中!  作者: 末紀世(まつきよ)


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3/10

完璧な装甲 ニュー・アイウェア



「……ふん。この静寂サイレンス……。これこそが、私の求めていた理想郷ユートピアだ」


西東京のやまあいにある日の出町。そこから片道3時間はかかるであろうか。

そんな遠く離れた「東の学府」へと降り立った覇王。


如月京子は、大講義室の喧騒の中で、独り心の中でほくそ笑んでいた。


今日の彼女は、昨日までの彼女ではない。


まず、茶髪。地元・日の出町の深い緑には存在しない、都会を生き抜くための擬態色。


そして、今回のメインウェポン――新品のメガネ。

某格安量販店で手に入れた「知的で清楚な女子大生モデル」だ。

(……見える。見えるぞ。周囲の凡夫クラスメイトどもが、私を完全に


『大人しい系の女子大生』


として認識している……! 完璧だ。このメガネはもはや、私の真実すがたを隠蔽する絶対障壁イージス……!)


前の席で、親友のサオリが振り返り、こちらを見て親指を立てた。

「(大丈夫、完璧に馴染んでるよ!)」


無言の激励。京子は小さく、かつエレガントに(本人気取り)頷いて見せた。


これだ。目立たず、されど確実にそこに存在する。これぞ統治の極致。

――その時だった。


「眩しい。……うん。眩しい。眩しいのよ。それ。」


右隣から、ヌルッとした、掴みどころのない声が響いた。

京子は覇者ハーンだ。表情一つ変えずに、視線だけを右に走らせた。


そこにいたのは、寝癖ともファッションともつかない、形容しがたい風貌の男子。

佐藤(仮)。京子の脳内データベースが、瞬時に「小学校時代の悪ガキ」というカテゴリーから検索を完了した。


「……うん。それね。メガネ。メガネという名の、メガネみたいなね。メガネのような……うん。かける。こう、耳に、ね。かけるメガネ。アイ・オン・ザ・グラセーズ的な。うん。」


佐藤(仮)は、一点を見つめたまま、ボソボソと独り言のようなトーンで続ける。


「新しい。新しいね。うん。新品。ニュー。ピカピカ。反射。反射してる。うん。光。光の、屈折。プリズム。うん。眩しい。眩しいのよ。君。君だよ。擬態。擬態、してるね。してるの、似合ってない。うん。」


京子のペン先が、ノートを貫通せんばかりに震えた。

(なっ……!? この不届き者ガキ……! 私の光学迷彩ニュー・メガネを似合っていないだと……!?)


佐藤(仮)は、教科書すら開かず、さらに深いところへ踏み込んできた。


「以前のね。君。君の。漆黒。ブラック。闇。ダークネス。ヘアーオブ黒。あれの方が、うん。しっくり。しっくり来てた。うん。何があった。この、休み。休学中。山? 山にこもった? 滝? 滝行。うん。何か。あったよね。うんうん。」


(……っ! 貴様、私の暗黒時代ダーク・エイジ以前の姿を知っているのか……!)


かつて、サオリの後ろに隠れて、俯きがちに図書館へ通っていた自分。

闇期へと足を踏み入れる直前の、あの


「垢抜けない如月京子」


を、この男は覚えていた。


講義終了のチャイムが鳴り響く。


佐藤(仮)は立ち上がり、去り際に京子の耳元で、かつてサオリだけが使っていたはずの呼称を、呪文のように唱えた。


「……頑張った。頑張っちゃったね。……ね。キサキョン。」


「…………っ!!?」


京子の脳内で、六畳一間の壁のシミの記憶が、濁流となって逆流した。看破された感覚。


京子の完璧な擬態が、音を立てて剥落クラックし始めた。

それは、彼女が「敵」を認識した瞬間でもあった。


私は如月京子だ!もう、普通じゃないかも…


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