視界の境界線フレーム・オブ・マインド
「……ふん。ここが現代の兵装換装室フィッティング・ルームか。悪くない」
如月京子は、眼鏡店の鏡の前で一人、静かに……いや、かなり怪しく頷いていた。
茶髪、ロングヘア、そして今日はこの「メガネ」という名の**知性の防護壁インテレクチュアル・シールド**を手に入れる。これで私の「普通の女子大生」としての擬態は、神の領域へと達するはずだ。
「これだ……。この程よく地味な黒縁。これこそが私の『覇気』を中和する**中和剤ニュートラライザー**。これさえあれば、私はどこにでもいる『レポートの提出期限を守るタイプの女子大生』になれる……!」
京子は鏡の前で、メガネをクイッと押し上げた。
「……よし。勝機が見えたな」
翌朝。茶髪に黒縁メガネを装備し、24.5cmの足取りも軽く京子は教室へ。
脳内では、もはや自分は「誰にも気づかれない完璧な透明人間」のはずだったが……。
「あ、おはよーキサキョン! ……って、うわっ、何そのメガネ! 超マジメそうじゃん!」
背後から飛んできたのは、昨日「靴下アンペア」の件で逃げ出したはずのサオリの声だ。
「(……きたか。だが今の私は昨日とは違う。メガネを装備した知性派・如月京子だ……!)」
京子はゆっくりと振り返り、メガネのブリッジを中指でクイッと押し上げた。
「……ふん。別に、大した理由はない。ただ、この世界の解像度レゾリューションを少し下げ、私の演算能力インテリジェンスを読書に集中させるための――」
「はいはい、キサキョン。そのカッコつけた喋り方はいいからw 普通に言いなよ」
「……あ。……えっと、その、……真面目に見えるかなって思って。昨日、靴下見られちゃったし」
サオリに「普通に」と促された瞬間、京子の「覇道モード」がシュンと萎んで、等身大の21歳の顔が覗く。
「あはは! やっぱり気にしてたんだ。大丈夫だって、誰もそんなに見てないよ。でもそのメガネ、似合ってるけど……キサキョン、これ値札ついてるよ?」
「…!!…えっ?」
京子が慌ててメガネの蔓に触れると、そこには「¥5,500(税込)」の札が虚しく揺れていた。
「あ、あわわわ……! しまった、識別票タグの除去を忘れるという初歩的なミス……!」
「また変な言葉出てるってw はいはい、取ってあげるから動かないで。……はい、取れた。せっかくメガネで『デキる女』感出したのに、台無しだね」
「……うう、面目ない。サオリ、恩に切る……。この恩はいつか、私の隠れ家アジトで最高級の配給品なべやきうどんを振る舞うことで返そう」
「鍋焼きうどん? 普通にコンビニのパスタとかでいいんだけど。……あ、ほら、講義始まるよ! 席行こ!」
サオリに背中を叩かれ、京子は「あ、ああ……さらばだ……じゃなくて、行ってくる」と、フラフラになりながら自分の席へ向かった。
私は如月京子!普通になりたい!




