そうなんだ!ループ1
サオリが去り、ぽっかりと穴の空いた心。
京子は震える脚を叱咤し、無意識に次のゼミの教室へと向かった。まだ「如月京子」という仮面が、顔の皮膚に癒着して剥がれなかったから。
だが、そこは「陽キャの祝祭」の真っ只中だった。
中心にいたのは、ゼミのイケメン。彼は、戸口に立ち尽くす京子の、脂汗で張り付いた茶髪と、虚空を彷徨う視線を見て、爽やかに、残酷に、こう言い放ったのだ。
「あ、如月さん。……大丈夫?SNSで有名になったとかで?
でもw 本当、独り言がすごいよ? ……正直、『ぶつぶつ言ってて怖いよ?』」
周囲から漏れる、失笑と憐れみ。
その瞬間、京子の視界から、大学の白い壁も、イケメンの整った顔も、すべてが消失フェードアウトした。
代わりに脳裏に浮かんだのは、日の出町の、あのボロアパートの壁。
カビと埃が織りなす、自分だけが理解できる紋章シミ。
「…………っ!!」
京子は、メガネの奥の瞳をカッと見開いた。
喉の奥から、女子大生・如月京子を内側から食い破るように、**『ヘッペ忽必烈』**の咆哮が溢れ出した。
「……貴様に……!! 貴様に教えるべき真理コードはないっ!!!」
静まり返る教室。
京子は振り返ることもなく、全速力で走り出した。
寮の荷物? 単位? サオリとの思い出?
そんな「皮」は、もうどうでもいい。
「…巡る……ね。」
佐藤(仮)の声が、遠ざかるキャンパスの喧騒に溶けていく。
エピローグ:円環の帰還ループ・バック
数時間後。
ガタゴトと揺れる五日市線の窓に映るのは、もはや茶髪の美少女ではない。
手ぐしでボサボソになった頭、脂ぎったメガネ。
京子は、ヘッペ・アパートの扉を開けた。
懐かしい、カビと静寂の匂い。
「……ふん。……ただいま、壁のシミ友よ」
そして、スマホの電源を切り、暗闇の中で呟いた。
「……私は、如月京子ではない。……独り言マスター……ヘッペ忽必烈だ」
——————
カビの匂いと、埃の粒子が舞うこの空間こそが、私の真実の領土テリトリーだったのだ。
茶髪も、オシャレ着も、パンケーキの味も、サオリの笑顔も。
すべては、刹那セツナの夢。
私は、剥がされた玉ねぎの皮。
剥き出しになった芯は、ただこの壁のシミ友と語らうことだけを望んでいる。
「……ふん。佐藤(仮)よ。……聞こえるか。……これが、私の選んだ終焉フィナーレだ」
暗闇の中で、独り言だけが響く。
もう、誰も私の真理コードことばを笑う者はいない。
……誰も、いないのだ。
……つつつ、夢??
を見ていたのかな… 首が痛い。
「…ふん。 あんなものに私が顔を出すはずがない。」
20歳の儀式(成人式)すらもポカして私はこの壁のシミに話しかけている。
部屋は散らかったまま。
先程から買い物へ出かけたいのだが、
靴下が片方だけの物ばかりなのは何故だ……。
【『如月京子は擬態中』―― 完 】
※尚この物語は前前作
独り言マスター 「ヘッペふびらい」
へ繋がります。




