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如月京子は擬態中!  作者: 末紀世(まつきよ)


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どこにでもある風景

第1話 どこにでもある風景


『如月京子は擬態ギタイ中』


第1話:茶髪の亡命者と、24.5cmの覚悟


「……ふん。この太陽という名の恒星光源、今日は少々出力が過ぎるのではないか」


如月京子(21)は、大学の正門前で一人、不敵に……もとい、眩しそうに目を細めた。

茶髪、ロングストレート、そして24.5cmの新品のスニーカー。

見た目は完璧だ。かつてのボロアパートで、耳に黒い靴下をぶら下げていた「ヘッペ忽必烈(ふびらい)」の面影は、もはや微塵もない。

「(落ち着け京子。私は今、如月京子。趣味はカフェ巡り。好きな言葉は『エモい』……よし、擬態完了だ)」

彼女が自分に言い聞かせ、最初の一歩を踏み出したその時。

「――あれ? もしかして……キサキョン? 如月京子じゃん!」


背後から突き刺さる、弾んだ声。京子の背筋に戦慄が走った。


振り返ると、そこには高校時代の友人・サオリがいた。典型的な「光属性」の女子大生である。


「やっぱりキサキョンだ! 髪染めてんじゃん! 半年も休学して音沙汰ないから心配したんだよ〜。何してたの?」


サオリが距離を詰めてくる。かつてのヘッペ忽必烈な京子なら、ここで「……ふん、私は精神的特異点にいたのだ」と返していただろう。だが、今の彼女は「擬態」の真っ最中だ。


「あ、あはは……。サオリ、久しぶり。ちょっと、自分探し……的な? 感じで……」


「自分探し! 超ウケる! あ、そういえばキサキョンのそのバッグ、可愛――」


サオリの視線が、京子のクロミのトートバッグの隙間に釘付けになった。


そこには、京子が「お守り」として忍ばせていた、


**あの片方だけの黒い靴下(通称:ソッ)**


が、まるで脱走を企てるかのように、だらしなくはみ出していたのである。


「え、待って。キサキョンw、バッグから靴下出てるよ? 」


「(しまっ……! 装備品が露出した……!)」


京子の脳内回路がショートした。

普通なら「あ、洗濯物紛れちゃった!」で済む話だ。しかし、半年間の「覇道」は、彼女の咄嗟の語彙を狂わせる。


「ち、違う! これは靴下ではない! これは……**増幅器アンプ**だ!!」


「……は? あんぷ?」


「……いや、その……。耳の、その……精神的緩衝材メンタル・バッファーというか……」


口走ってから、京子は血の気が引くのを感じた。サオリの顔が「え、こいつヤバい……」という表情に固まっていく。


「(……いかん。このままでは擬態が崩壊する! 第2種戦闘配備だ!)」


京子は慌てて靴下をバッグの奥へ押し込むと、震える手で茶髪をかき上げた。


「あ、あはは! 冗談だよサオリ! ギャグ! 最近流行ってるじゃん、『バッグから靴下はみ出し系女子』。……あ、もう講義始まるから! 私はこれで! さらばだ、友人よ!!」


「さらばって……。キサキョンw、キャラ変わりすぎじゃない!?」


背後から届く困惑の声を振り切り、京子は全力で走り出した。

24.5cmのスニーカーが、かつてないスピードでアスファルトを蹴る。


「(危なかった……。初日からあやうく『ヘッペ忽必烈』の真名しんめいを晒すところだった。だが、今の私は如月京子……。たとえサオリに『靴下アンペア女子』とあだ名をつけられようとも、この擬態は守り抜く……!)」


講義室に滑り込んだ彼女の耳元は、靴下もないのに、なぜか以前よりも熱く、ドクドクと拍動していた。

そして、耳元を触る癖が抜けきらないでいた。



第1話から「靴下アンペア女子」の称号をゲットしかけたヘッペ…もとい如月京子であった。



この物語を初見からだと前作との関連が楽しめないかも知れません。

全3部作で円環構造。

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