平和がいいです
町で五番目に有名なクラブの隣にあるスポーツバーが約束の場所だった。そこは町に古くからいる人の話によれば、元は異世界の音楽を聞かせるカフェだったそうだ。地下の酒蔵タイプの造りで、分厚い鉄製のドアを開けると梁を剥き出しにした天井と細かな細工の棚や派手な舞台が出迎えるといった感じは、往時を偲ばせた。今は舞台で踊るダンサーも演奏家も見当たらない。ただ、テレビでスポーツ番組を流しているだけだ。
今日は異種族間の会戦を放送していた。
片方の勢力は一見したところ、幾つかの種族の混成軍だった。人間程度の身長の二足歩行の生物が指揮官クラスのようだ。細長い頭部と細い胴体に不釣り合いなほど太い脚がある。体を同じくらいの長さの手には槍か刀を持っていた。茶褐色の綿毛が全身を覆っている。全員が大きな獣に跨っていた。その獣は爬虫類のような緑色の鱗を太陽に煌めかせていた。手足は八本あった。蹄のようなものが見える。この人馬……と言っていいのか分からないが、これらの騎兵の周りに多くの歩兵がいた。足は四本。手に武器はない。代わりに鋭く尖った爪と牙があった。キチン質の外被から無数の針いや棘が生えている。他には巨大なムカデのような生き物も数匹いた。この軍勢には見たところ、飛び道具はなさそうだった。
対戦する相手は飛び道具が主体のようだった。しかも、弓矢ではない。高度な科学力の粋といった風情の銃器を太い触手の先に持っている。体はクラゲに似ている。それが海の中にいるかのように、空中をフワフワ浮いているのだ。垂れ下がった触手に握られた筒状の銃器が、どの程度の攻撃力を持つのか分からないが、これがある限り、こちらの陣営の勝利は間違いないように思われた。
オッズが画面の下に表示されている。想像した通り、クラゲ側の勝利を予想する掛け率が設定されていた。
だが最終的な結果は、予想とは違った。クラゲっぽい種族が敗北したのだ。彼らの銃は、確かに強力だったが、他種族混成軍の飛び道具は、それを上回る破壊力を示した。指揮官だと思われた騎兵が飛び道具だったのだ。獣の八本足の先から炎が噴き出すと、それに乗った茶褐色の綿毛を生やした二足歩行の生物は一体になって空へ舞い上がった。そのまま弧を描いて敵の真ん中に落ち、爆発した。敵陣は大混乱に陥った。その隙を突いて歩兵が突撃してくる。クラゲの触手が持っている銃が熱線を発射し、その歩兵の大部分を炭に変えたが、歩兵は死を恐れずに突進し、クラゲたちを蹂躙した。その生き残りは空を猛スピードで飛んで逃げた。クラゲに似た外見の生き物とは思えぬ素早さだった。
戦場に残った者たちの大半は傷ついていた。怪我をしていないのは巨大なムカデみたいな数匹の生き物だけだった。
戦いが終わった頃に待ち合わせていた相手が来た。彼女はテレビをチラッと見て言った。
「あのムカデ型生物、博打が上手だよね。自分たちが不利な予想の時は、必ず勝って大儲けしてる」
「そうなんだ」
「でも、次も勝つかと思わせておいて、負けるの。そして、不人気になったところで勝つの。酷いと思わない?」
「戦争だからね」
そうは言ってみたものの、それが正しい答えなのか、よく分からなかった。




