キャンパー(棒)
人気のない魔の森の奥地。
そこを流れる川の畔に、一人の青年がいた。
その両脇にはしっかりと木の枝が抱えられており、キャンパーなのだと言われても納得の服装をしている。
顔つきも、なんだかそんな雰囲気をしていた。
……キャンパーの雰囲気ってなんなのだろうか。
まあ、それはひとまずおいておこう。
そして今、そんな彼の背後には何かを引きずりながら歩く、一人の女性がいた。
彼女はキャンパー(仮)を見つけると、ニンマリと笑みを浮かべる。
そう。まるで獲物を見つけたかのように。
そのまま、てくてくとキャンパー(仮)へと近づいていき、視界のギリギリを調整し始めた。
やがて、測り終えた彼女は仁王立ちした。
胸を逸らし、意気揚々と腹に力を込めて発す。
「何してるんですか、灰色!」
「......お前こそ何してるんだ」
男は目もくれず、まっすぐ川を眺め続ける。その瞳は水流に支配されていた。
それを不満に思ったのか、彼女は男の視界にグイグイと押し入るのだった。
「見てわからないなんて、灰色もまだまだですね! いっそのこと、改名でもしたらどうですか?」
「改名?」
「ええ。強そうな名前にしたら見える世界が変わりますよ?」
自信満々にそう告げる女。
彼女の名前はシトリン。
頭に生える一対の角が特徴的な少女。
いや、魔人だ。
男はそんな彼女を横目で見つつ、言葉を投げかける。
「例えば?」
「えっ......」
想定外の返事に戸惑い始めるシトリン。
「えっと」とか「その」とか。歯切れの悪い言葉を繰り返しつつ、顎に手を当てている。
次第に目がぐるぐると回っていくのが側から見てもわかった。
先ほどの自信満々な彼女は見る影もない。
少しして、ようやく彼女は口を開いた。
しかし、その口には迷いがある。
「色関連の何かとか......ほ、ほら! 本名も灰色くんですし」
「俺の本名はグレイだ。そもそもそこから間違ってんだよな」
「ぐぬ......」
唇を尖らせつつ、やや顔は赤くなっていた。
「う、うるさいですね。細かい男は嫌われますよ?」
「名前いじりをするやつのほうがどうかと思うんだ」
「う、ぐ」
その言葉を境に、彼女は黙りこくる。
しかし、グレイは気にせず、木の枝拾いを再開した。
流石根っからのキャンパー。
一流のキャンパーは女性よりも木の枝の相手を選ぶのである!
「ぐすっ」
そんな彼の背中から、少女の鼻をすする音がした。
「灰色くんなんてだいっきらいだーーーー!」
シトリンはあっという間に走り去り、その姿を消してしまうのだった。
「だから、俺は灰色じゃなくてグレイだっての......」
キャンパーはブレないものなのである。
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